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『西湖畔(せいこはん)に生きる』を観ました
中国の映画。SNSの感想で「映画の展開が急に『レクイエム・フォー・ドリーム』のようになる」というような感想を見て、観てみたい!となりました。
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『レクイエム・フォー・ドリーム』はドラッグによって破滅していく人を描いた作品で、ケレン味溢れる演出が好きな作品でした。鬱々とした作品で、げんなりしますが、映画として強烈なエネルギーを持った作品で、タイトルにある夢という概念を根底から覆す地獄を見せてくれます。
きちんと地獄を地獄として映してくれる映画を信用していますし、生きていく養分として必須科目と思えれるくらい鬱映画は必要なものだと感じてます。世の中、金を払ってわざわざ凹むという体験を与えるものって実はそんなになくって。満足度という評価基準だったり、元気を与えるものというのがほとんどの中、2000円払って地獄を見せて「こうなっちゃいけないよ」を味合わせてもらえるのは教訓代として安いもんだとさえ思ってます。
おそらく本作もそうしたなんらかの形で地獄を見せてくれるだろうなと感じ、とても期待しました。
母がマルチ商法の集団に加入して変化していくことと、それを止めようとする息子というのが基本的なプロット。
構造自体はシンプルだし、卑近にある題材だと感じます。
冒頭、とても草原な森林や山々がトンネルを抜けて映し出されます。ドローンの撮影なのでしょうか、グリーンのカラコレも相まってとても壮観。この広々とした大地がこの舞台であり、中国という広大な土地を示すにはあまりに雄弁なオープニング。カメラが上にパンしていくと、縦文字でクレジットが出る。フォントも締まりがあり、中国語の色気を感じます。そのまま故事のような文言が映し出されます。これがこの映画のテーマだと言わんばかりです。
舞台は杭州市。世界遺産だそうです。最高峰の中国茶・龍井茶の生産地だそうで、この茶葉を集めている母親と、その森林を自転車で滑走していく息子の存在が示されます。二人とも存在として無垢で健康的であることがショットの数々で提示されます。但し、貧しい。決して金銭的に恵まれていないことがよくわかる。母と子は進路について話し合ったりしています。深刻なことだけどカラッとしていて、微笑ましい。いい親子関係であることが示される。広大な大地に健全な親子、穢れのないナチュラルな画が爽やかだ。母は息子の仕事や結婚を心配しています。
そんな母がマルチ商法の集団にハマっていってしまう。ママ友的な集団やコミニュティがそうした集団と接続点を持つというのも確かによくありそうな話だ。
今作のマルチ商法は足裏に貼るシートの販売を促していくというもの。その販売に至るまでに合宿式のセミナーに参加して、肯定感を増していくような感覚を受講者に与えていきます。このパートから一気に映画の質感は『全裸監督』のようなバブリーで禍々しい雰囲気になっていきます。映画冒頭の自然豊かな緑に包まれた山々の景色とは打って変わってです。作品そのものが違う作品なのではないか?と思うくらいにルックに違いが出ていて、その違和感を味わいます。対比になっているとも言えるし、あまりに違うので統一感がないとも言える。とはいえマルチに狂っていく母親としての説得力はかなり帯びていて、急にケバい化粧や衣装になったりと、「母ちゃんどうしちゃったんだよ!」となるには説得力のある映像が続きます。
参加者は全員何らかのルーザー感を感じているものであり、そうしたルーザー感をセミナーで自白させては主催者側が「だけどあなたは大丈夫」と声をかけて高揚させていきます。手法としてはよくあるヤツですし、いわゆるカルトっぽさというものをわかりやすく演出しています。
とはいえ、足裏に貼るシートというギミックが「いくらなんでも感」がややあります。見た目は湿布のようですし、患部として貼る場所が足裏でよかったのかどうか。もっと首にかけるようなガジェットだったり、手首にひっかける腕輪状のものの方がマルチとしての説得力が増すように思えるのですね。
マルチ臭さが漂うものってやっぱりあると思います。もちろん湿布状のシートでも効果ってよくわからないけど、湿布は湿布として効き目ってあるわけで。湿布状のものが詐欺としての道具っていうのが違う感じがしたんですよね。
もっとネックレスとかブレスレットとか、数珠になっているものとか、水とか。やっぱりそういうアイテムの方がもっと胡散臭いじゃないかと。足裏に貼る湿布に売人たちが戦意高揚して売りつけようとしていることに説得力を感じなかったんですよね。
この母ちゃんがいつの間にか家を売っていて、その金で部屋に足裏シートの在庫を大量に設置して息子がどん引きするというシーンもあります。ヤバさを表現するために在庫の段ボールだらけになっているという表現なんですが、これももっと違う方法で表現できたような気がしないでもない。でも面白いです。山になっている段ボール。取り憑き方がヤバい感じはあります。
そうした地獄行き列車に載っていたことに段々と気づいていきます。幻を見ていた子の如く、マルチ商法の罠に引っかかった母と、それを助け出したいと願う息子。
カルト化していくこの集団。
語りの中に三蔵法師の話を持ち出したり、参加者の妹が心臓病だったのが治っただの、そうした成功体験を参加者たちへのエサにしています。
これ、本当にネット広告とかでもよくありますよね。副業○○万円に行きました、みたいな。これに参加したらこれだけ稼げましたーみたいな成功例を示す。それって広告としての説得力であり、クリックしたくなるためのエサ。マルチもそこら中にある広告も今の時代はどれもスレスレに存在しているというのがわかります。どこかで見たことがある手法をこの人たちは使っているというのがわかるのですね。
この辺りの脚本が上手くって魅入ってしまいます。
卑近な出来事として普遍性があるように演出ができています。
そうした集団にハマっていく母と、その洗脳から抜け出させようとする息子。
しかし終幕が意外とポエジーな感じになってしまっていました。
息子のナレーションは道徳的ではありますが、結局助かったのか、そうでないのか明確に明示されていない感じ。
地獄の先の救いがテーマなのでしょう。ですが、せっかくなのだから落としきってもよかったのではとも感じます。
この映画、カムバックがよくわからないし、フィニッシュもよくわからないという映画になっている印象です。
せっかく途中まで盛り上がってきたことを後半部で盛り下げてしまうようなラストだったなあという勿体無さを感じました。
ここのネジがもう少し締まっていたらかなり好きな映画になっていたと思います。
地獄を見せるという部分ではもっとやっちゃってもいいとも思いました。
とても勉強になりました。