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10話 痴漢被害

 新校舎は明るくて木の香りが心地よかった。
 廊下があることも、便利な事だと思っていた。

 それは、掃除の時間が終わった後、皆がそれぞれバラバラと教室に戻っていく。
 私はとても疲れていたので、皆が戻るのを見ながら教室にゆっくりと戻って行った。

 と、いきなり一人の男子が私にぶつかって追い越していった。
 廊下には人がほとんどいない。
 広い廊下の端にいる私に、その子はわざわざ、ぶつかってきた。

 ざらっとした感じが広がった。

 その男の子がぶつかって来た時、お尻を触られたような気がしたからだった。
 気のせいだと思うようにして、気にしない事にした。

 翌日の掃除の後も同じことが起きた。
 廊下は広いし、人もまばらだ。わざわざ人に、ぶつかる必要はない。
 端を歩いている人間にぶつかる人間なんて、そう居ない。

 『気のせい』と思おうとしても、二度も続けば気のせいなんて言っていられなかった。
 しかも、手は最初よりも確実に、私のお尻に触れたのだ。
 男子が同じ学年ということは分かったが、それ以外の情報が分からない。
 後ろ姿しかみていない状態で『誰』という判断が出来なかった。

 3度目は何とかしなければ……と思いつつ、何も案がないまま3日目になった。

 3日目。
 何も言わない事に確実に味を占めた男子は、再びやってきて私のお尻を遠慮なく触った。
 怒りと気持ち悪さと、悲しさと悔しさと……。
 いろんな思いが混じった結果、私はその男子を追いかけて頭をたたいていた。
 自分でも驚いた。
 叫ぶでもなく、怒鳴るでもなく、暴力に訴えていた。
 その一発だけで男子は慌てて教室に入って行った。

 自分の教室に戻って、私はこれを誰かに言うべきなのか迷った。
 教室に入ったのを見たのだから、あの男子はあのクラスなのだという事が分かった。
 けれど、顔が見えなかった。
 誰だか分からないのに言ってもいいのだろうか?
 言うとして誰に?
 親に?「気のせい」で終わる気がする。
 壺の妖精担任に?男の先生にいう事が、なんだか恥ずかしかった。
 女の先生に?「子供のいたずら」で済まされてしまいそうで怖かった。

 誰かに伝えたとして、これがただの「子供のたわむれ」として扱われる事が怖かった。
 お尻を触られたことも怖くて気持ち悪かった。
 けれど、それ以上にこれが「大したことでは、ないじゃない」と言われる事の方が怖かった。

 結局私は、誰にも言わない事にした。

 男子はきっと私が誰にも言わない事も見越して、私に触ったのだ。
 そう思うと悔しかったが、それでも、これを肯定してくれる大人を当時の私は思いつかなかった。

 階段の旧校舎は、休憩時間に男子たちが短いスカートをのぞき見る事がしばしばあった。踊り場は、廊下でたむろしているのと同じような感じだった。
 先生たちは男子たちに注意をしながら、「女子もスカートを長くしろ」と注意した。
 新校舎では階段で待つという事が出来なくなった。教室からは遠すぎる。わざわざ階段で女生徒のスカートをのぞき見るには不自然すぎた。
 のぞきのかわりの痴漢なのかなとも、考えてしまった。






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