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8話 いじめ傍観

 ある日の調理実習の時。

 事件は料理完成後、盛り付けの時に起きた。

 グループの男子が席を立って、テーブルから離れた。
 その隙に他の男子がその男子のお皿に、なにかをしているのが見えた。
 見えたが、具体的に何をしているのかは分からなかった。
 ひそひそ笑う声などから『ろくなことではない』ことは感じられた。
 そして実際に、ろくなことではなかった。
 男子がテーブルに戻ってきて、出来上がった料理を一口食べると同時にき出した。

「なんだこれ??」

 周囲に居た男子たちから歓声と笑い声が響く。
 先生がやってきて「何をしているの?」と聞いてきた。
 いたずらをされた男子が「料理に砂が入っていた」と訴えた。
 先生は料理を見て、周囲の男子の様子から故意に入れられたものと判断した。

「これをやった人、見ていた人は反省文」

 男子たちに小言を言った後、先生はそう言った。
 私は反省文なんてめんどくさかったので、書く気はなかった。
「そんなつもりじゃなかったんだ。ただの悪ふざけだって、悪かった」
と、砂を入れた男子たちが謝っていた。
 その中の一人が、反省文を書きそうもない私に向かって「おまえも見てたろ。書けよ」と言ってきた。

 私の中で怒りがわいた。
『砂くらいで反省文?私たちの時は虫やゴキブリが入った給食を食べさせられたのに?
 それでも犯人探しもなければ、先生はいつもの事としてスルーしていたのに?』
 その怒りが『今』ではなくて、『小学一・二年』の昔の事だと頭では理解していた。
 けれども、今、目の前で起きている事に納得できなかった。

 砂くらい……とどうしても思ってしまう自分が居た。
 結局、私は反省文は書かなかったが、先生は何も言わなかった。
 あの時反省文を書いていたら、私はきっと1・2年生の時の恨み言を書き殴っていたような気がする。
 このいたずらはこれきりで、この後の調理実習ではこんな事は起らなかった。

 もう一つ別のお話し。
 放課後遅く私は係の仕事をしていた。
 思ったよりも手間取って時間がかかっていた。

 そこに学級委員が入ってきた。クラスの人気者でいつも明るい女子だった。
 目の縁をこすりあげながら、鼻をすすっている。
 明らかに泣いている事が分かったが、私は知らないふりをして作業を続けた。
 彼女は私に気が付いて、気まずい空気になったが、私はそれにも気が付かないふりをした。
 空気に同化しているかのように作業に没頭した。

 そのうちに他の女子がやってきた。
「大丈夫?ひどいよね?」
 なんて声が聞こえてくる。
「大丈夫……」
 鼻をかみながら、彼女は他の女子たちに答えていた。
「地毛なのに……茶髪じゃないのに」
 何となく察した。彼女の髪は確かに茶色っぽかった。

 それについて、何かを言った輩がいたのだろう。
 人気者の彼女に、彼女が泣くくらいのことを言う人がいる事に驚いた。
 そして、彼女が泣いてしまうくらいの衝撃を受けたという事にも驚いていた。
 何となく彼女は精神的に強そうなイメージがあったからだ。

 女子たちがちらちらとこっちを見ながら、
「何でここにいるの?」
「早くどこか行かないかな……」
 と言い始めるのも聞こえてきた。
 なるべく早く立ち去りたいが終わりそうもない作業に、こちらが泣きたくなった。






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