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3話 赤痢発生

 寮での生活もそれなりに落ち着いてきたころ、赤痢が寮で出たという知らせが張り出された。
 赤痢とは主に下痢・発熱などの症状が出る感染症。寮生の数人が発病し、隔離された。
 即座に、食事がお弁当へと切り替えられて、消毒液がトイレや洗面台・食堂や玄関に置かれた。
 そして、寮生全員に検便の検査キットが配られた。

 ……検便なんて、いつ以来だったかなと考えてしまった。
 寮で配られた容器は細長く試験管のようで、ふたに小さなさじがついている。
 その小さなさじに乗る分だけの、便で良いとのこと。ずいぶん少ない量で良いんだなと感心してしまった。

 寮のお友達は、赤痢になってしまって病院で隔離されているという事を寮長さんから聞いた。
 ふと、自分は大丈夫かと考えてしまった。ここ数日は休みだった。彼女は実家に帰ると言っていて会っていなかった。
 会わないまま彼女は隔離されてしまったので、大丈夫だろうという考えに至った。

 次の日、一人で学校に行き、授業を終えて、帰ろうとしたら先生に呼び止められた。

「ちょっといいかな……」

 私は一瞬、自分が何かをしたのか?と身構えたが、何かをした覚えがない。
 職員が集まっている部屋へ行き、先生がちょっとした用事を済ませた後、学校のラウンジへと移動する。
 移動する間も気が気ではなく、考えを巡らせるが行きつく答えは一つしかない。

「座って……」
 と促されて、ラウンジにあるテーブルに座る。先生は反対側へと腰かけた。

 先生の第一声は「君は学校へ来てもいいのか?」だった。

 私は、赤痢の話だと思っていたけれど、先生の話は「学校に来るかどうか」という話だった。
 先生の言葉がうまくのみ込めないまま、私は黙った。

「寮で赤痢が出たんだろう。君と同じ寮の○○さんも休んでいる。君は来ていいのか?」

 と話し始めた。
 ここまで来てやっと、話の筋が見えた。
 赤痢が出たのに大丈夫かという話ではなくて、『おまえも赤痢にかかっているんだろうから、学校には来るな』と言いたいのだ。

「大丈夫だと思います。寮からも、何も言われていないですし……」
 実際に寮からは、「学校が来ないでと言っていないなら、行ってもいい」という事を言われていた。

 が、先生は

「それは誰が言ったんだ?本当に大丈夫なのか?皆にも、うつったら大変だろう。君も本当に体は大丈夫なのか?」

 と繰り返してきた。
 ここまで来てやっと私は、ああ。これは《俺たちにうつすな。寮から出てくるな》ということなのだと理解した。
 先生の言葉の端々に、恐怖が見えた。
 さらに、もう一人の先生が加わって、さらに同じことを繰り返した。

 先生たちは「あなたの身体が心配だから、言うのだ」と繰り返したが、本音がそこではないことは分かっている。
 保健所か寮で『学校に行くな』と言ってほしい。それが出来ないなら、本人が『来ない』という選択をしてほしい。
 自分たちは一切何も決定したくはない。

 先生たちの話は最後まで
「ちゃんと、寮に学校に行っていいか確認をして」
 という話で終わった。



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