定年後の納屋ライフは人生最後の城生活
定年退職と同じころ始めた納屋ライフも板についてきた。
我が家の納屋は祖父の代から受け継いでいる建物だ。
納屋は田舎の農家にはなくてはならないものだった。
牛を飼い脱穀やモミ米の乾燥、農機具の倉庫として長く使われてきた。
定年退職後の居場所づくり
母屋を含めこの納屋を親から引き継いだ。
私は定年前に認知症だった母を見送ったが、その時点で同居していた母親から家や田畑などを完全に受け継いだのだ。
その時の納屋は使わなくなった農機具や古い家具などで埋まっていた。
解体か修繕かと考えた納屋の使い道は?
引き継いだ時の母屋は、近年の酸性雨でセメント瓦が薄くなり雨漏りで垂木が腐ったりしていた。
2階建てというだけで築年数も古く、基礎がない上に階高も低くほとんど価値のない建築物だ。
このまま放置しておけば、10年もしないうちに解体しなければならないだろうと思った。
考えた末に出した結論は、この納屋を定年退職後の居場所にすることだった。
会社ではリフォームの部署にいたから改修自体はお手の物だ。
そして納屋の中に入っているものを全て処分し、少しリフォームをする計画を立てた。
しかし片付けには時間を要した。
その頃はまだ再雇用で勤めていて作業を週末にするしかなかったからだ。
使わなくなった家具と言っても、祖母が若いころに使っていた何十年も前の頑丈な水屋などだ。
それらをひとつずつ解体して市の処分場に持って行った。
何週間もかかってやっと納屋の中が空っぽになったが、よく見ると屋根の雨漏りは想像以上に酷かった。
もし仕事でリフォームの相談を受けたとしたら予算が高くなることを理由にお断りする物件だ。
予算が高くなる理由は屋根を全面やり直さなければならないことや、基礎がなく耐震の予算も考慮しなければならないからだ。
しかし自分がやるなら自分を納得させればいいだけの話だ。
自分で出来ることはDIYでやり、出来ないところは業者にお願いすることにした。
もちろん仕事で付き合いのある業者だ。
一応広告の裏にフリーハンドで間取りプランを描き、解体や設備工事は自分で行った。
最後の人生に相応しい城
DIYも取り入れたお蔭もあり予算内で最後の人生の城が完成した。
最初は母屋で寝起きして昼間だけ納屋に通った。
通うと言っても母屋の裏の勝手口から数歩で納屋の入口だ。
しかし、たとえ数歩だとしてもこの母屋から出るというふるまいに大きな意味がある。
いや、私だけがそう思っているだけだ。
もしそれが母屋の空き部屋だったとしたら、朝食後にリビングからの移動が段々遅くなりおそらく昼までリビングでぐうたらに過ごしていただろうことは明らかだ。
別棟の納屋にしたことで、毎朝まるで会社にでも行くように「行ってきます」と妻に告げて母屋を出ることができた。
別棟ということもあり洗濯など妻が行う家事の音も聞こえないから気にならない。
夫婦にとってそれはお互い様でちょうどいい距離感になった。
我が家にコタツがないのは、亭主がコタツに潜り込んでいつまでもだらだらとうたたねをするからだ。
妻は冷たい水で洗い物をしながらその光景をみるのがたまらなく嫌だったようだ。
朝から亭主のだらしない姿を見なくて済むことが妻にとっても好都合だったことだろう。
私にしてみれば「定年退職後の亭主は粗大ごみよりたちが悪い」と言われないためだ。
定年退職から数年経ち、今は寝泊りも納屋の城でするようになった。
トイレを設置していて正解だった。
食事や風呂は母屋で済まし納屋に帰って就寝する生活だ。
今は定年退職で失った居場所が納屋となった。
夢のような納屋の生活
朝起きて納屋で洗面も済ます。
着替えをすましメトロノームのスイッチを入れて趣味のドラムの練習をする。
もちろん早朝なのでパッドで基礎練習をするくらいだが、それで脳も目覚めてくる。
朝食のために母屋に帰り、日が昇り始めると妻とウォーキングに出る。
朝食時とウォーキング時にする夫婦の会話が夫婦の距離感を調整する役割を果たしているようだ。
その後は納屋の城で自分の世界に没頭する。
少し寒くなったがロフトに日がさす午前中に読書をすることもある。
定年後に始めたドラムの趣味も毎日欠かさず行っている。
Noteの下書きや毎月の夫婦日帰り旅のリサーチなども日課のひとつだ。
天気のいい日は家の管理に精を出すこともある。
昨日は防犯用のセンサーライトを二か所取り付けた。
午後の3時休憩は手引きのミルで豆を挽きコーヒーを入れる。
小さめのボリュームで若いころよく聴いた音楽を流し、何も考えずに窓の外を見るのも日課だ。
フォークソングからクラシック、民謡とジャンルはいとわない。
このような何でもない老後の日常を、何となくでも夢のような生活に近づいていると思えるようになるまでには時間がかかった。
夫婦仲はもちろん、居場所ややることに加え前向きな思考でいる内は幸福感も高いようだ。
それも納屋の城のお蔭なのかもしれない。
定年退職から数年経ってやっとこの納屋生活が板についてきたのだろう。
私にとって納屋ライフは最後の人生そのものだ。
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