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人生で数えるほどしかない鳥肌の感動経験談!
私のような高齢者でも鳥肌が立つほど感動した経験は数えるほどしかない。
今日は半世紀近く前に感動した記憶を辿ってみた。
昔の記憶なので多少美化されている節もあるが、私にとってインパクトの強い経験だったので思い出せそうだ。
意表を突かれた思い出話!
昨日セッションに行って若返ったという文章を書いていて思い出した昔の記憶だ。
まだ20代前半のころ人口40万程度の地方都市で働いていたが、その会社で仲良くして頂いた先輩に紹介されてアマチュアバンドに加入することになった。
そのころ何か趣味を持ちたいと思って探していたところにきた話だ。
子どものころから音楽が好きだったので社会人になってからも音楽に関わっていたかった。
不純な動機で行った素人バンド
「トランペットが吹ける人を探している友人がいるので行ってみないか?」と言って誘われた。
音楽が好きなのは嘘ではないが実はもう一つ心に秘めた目的があった。
それは彼女探しだ。
山間の田舎から出てきて就職はしたものの会社にはその対象者がいなかったからだ。
ところが初めての練習日にそこへ行くと全員が男性だった。
メンバーはギター、キーボード、ベース、サックス、トロンボーンくらいの中途半端なメンバーで、記憶ではドラムもいないようなバンドだった。
練習場所は工業高校の空き教室だったが、そのメンバー全員がその高等学校の今はない軽音楽部のOBだと説明された。
男子高校なので女性のメンバーがいないのは当然だ。
私はがっかりしたが「一か月後にコンサートの予定があるから何とか協力してほしい」というリーダーの要望に答えることにした。
とりあえずコンサートまでは続けてみようと思ったのだ。
その日に頂いた楽譜は6曲程度で簡単にアレンジされた市販の楽譜だったが、田舎の学校で吹奏楽部に入っていたこともあり初見には自信があった。
内心「この程度の曲なら楽勝だ」と鷹を括っていた。
そんなこともあり本番までに練習に行ったのは半分くらいだったと記憶している。
コンサート当日の先入観が違っていたと分かった時
コンサート当日楽器を持って練習場所に行くと、いつものメンバーは既に来ていて音出しをしていた。
私が行くとリーダーが「今日は来てくれてありがとう」と言って楽譜をくれた。
「楽譜は持ってますよ」というと「今日は2nd(セカンド)を吹いてほしい」と言われたのだ。
トランペットは一人だという先入観を持っていたが、もう一人来るんだと思った。
コンサートと言うからこの近くのホールにでも移動するんだと思い込んでいたが、会場はこの高校の体育館だということだ。
そういえば今日はこの学校の文化祭のようだった。
それを聞いて少し腰が折れた気がした。
ホールでのコンサートだと勘違いをし、緊張して損をしたとまで思った。
男子高校の文化祭で担当は音域の低い2ndなのだから心配するほどのこともないと思った。しかも市販の楽譜は簡単で初見でも問題はなかった。
それでも皆と同じように楽器を出して音出しを始めた。
そうしていると知らない人が楽器のケースを持って集まり始めた。
背の高い髭の男性はバリトンサックスを出した。
ロン毛の細身の男性は電気ベースを出した。
そういえばベースだと思っていた人はスティックをもっている。
初めて会う人に挨拶をすることもなく1時間程度過ぎた。
「全員揃われたようなので打ち合わせをします」とリーダーが声をかけた。
「1曲目はこの曲にしますが楽譜の前に32小節のドラムソロを入れて頂きます」
「そのあとユニゾンでバーンと入りましょう」
「そして2コーラス目からはトランペットとテナーサックスでアドリブをお願いします」
私は必死に楽譜に書き込んだ。
2ndになったことに文句を言わなくてよかったと思った。
私の技量ではアドリブなど到底できないからだ。
音楽の素晴らしさを初体験したコンサート
「最後の曲は少し早いですがこのくらいのテンポでお願いします」と言ってリーダーが机を叩いた。
200程度の4ビート曲だったと記憶している。
この前練習した時は確かミディアムテンポだった。
そんなに早いならもう一度練習をしておきたいと思ったがそれは叶わなかった。
「それじゃあチューニングをしましょうか」とリーダーが言うとキーボードの人がB♭の鍵盤を押さえた。
「それじゃあ行きましょうか」という声に全員が楽器をもって体育館へ向かった。
体育館のステージでは高校生による演目が終わったところで、ベースだと思っていた人がドラムのセッティングを始めていた。
今から演奏するのは9ピースプラスアルファの人たちだが、当時としては一般的社会には到底受け入れてもらえないような頭や服装をした人たちだ。
観客の男子高校生からは大声でヤジも飛んでいる。
セッティングの終わったドラムが静かにソロを叩き始めた。
私も同時に小節を数え始めた。「1234、2234、3234~」
8小節が過ぎたころリーダーが手招きして袖からステージに楽器と譜面台を持って移動を始めた。
男子高校生の指笛とヤジ、テープ代わりのトイレットペーパーが飛んでくる。
それに動揺することもなくドラムはテクニカルなソロを静かに叩いていた。
「なんだこの人はドラムが本職じゃないか」と騙されていた気がした。
ドラムソロ最後の1小節でリーダーの手が上がった。
チューニングの合った管楽器の倍音が体育館を共鳴させインパクトのあるドラム音が輪郭を際立たせた。
私は最初から感動し、演奏しながら鳥肌が立った。
気が付くと高校生のヤジも止まっていた。
一瞬で体育館の空気がひとつになった瞬間だ。
空気が変わるとはこのことだ。
おそらく高校生も意表を突かれたのだろう。
男子高校の文化祭に出るくらいのバンドだから大したことはないだろうという先入観だ。
高校生だけではない。
私も同じだ。
しかしその先入観に反し演奏は素晴らしかった。
まだ名前も聞いていない、おそらく寄せ集めの人たちだ。
田舎育ちの私もこのとき井の中の蛙だと悟った。
隣に座っている名前も知らない1stトランペットの人も、私には足元にも及ばない人だった。
後で知ったが、その時の人たちはこの高校の軽音楽部OBとその仲間でプロとして演奏している方々だった。
それから今日までの約半世紀の間に、会場の空気が一瞬で変わるほどの演奏経験は数えるほどだ。
人生にはこんな素晴らしい経験が用意されているんだとさえ思った。
元気なうちにもう一度くらいは経験したい感動だ。
そう思って定年退職後に楽器の練習を再開した。
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