年甲斐もなく胸躍る韓国個人旅行
今日は前に書いた「久しぶりに韓国に行ったら元気になった」の続きを書こうと思う。
往路は関空から釜山、復路はソウルから関空のチケットを買った4泊5日予定の気ままなひとり旅だ。
昔韓国旅行に来て感じたのは、これほど近い国なのに日本との大きな文化の違いに驚いたことだ。
言葉や食事はもとより交通マナーやサービス業の対応、もっと言えば人同士の距離感も日本とは随分と違って見えた。
それは韓国に来たからこそ分かることばかりだ。
もちろんどちらがいいとか悪いとかではない。
日本人として日本の良さを再発見することもあれば、自分をさらけ出すことで気付いていなかった自分を見つけることもある。
日本人としては常識的ではない価値観に出会うことすらあるのだ。
ひとり旅のメリットを最大限に引き出す旅
慶州の古墳群がある歴史的観光地の遊歩道にあるベンチに座っていた。
木陰になっているそのベンチに座っていると、私と同年代だろうと思える男性が隣に座ってきて何やら書かれた紙を私に見せながら話してきた。
どうも行きたいところがあるようで、どこを通って行くのがいいのかと訪ねてきたようだった。
「私は日本人で慶州のことはよく分かりません」と片言の韓国語で話すと、「日本のことはソウルに住んでいる息子からよく聞かされるよ」といった内容の言葉が返ってきた。
何でもない会話だったが、兵庫の田舎に住んでいる私には十分非日常の経験だった。
理由はどうあれこのように話しかけられることは一期一会の機会に他ならない。
このような機会の多さも海外個人旅行のメリットだ。
非日常を楽しめる海外ひとり旅
そもそもこのひとり旅の行先を韓国にしたのは非日常体験をしたかったからだ。
田舎暮らしの日常はどこへ行くにも車で誰に話しかけることもない。
たまにウォーキング中に話しかけられることがあっても顔見知りで、他愛もない世間話をするくらいだ。
それが少し飛行機に乗っただけで、言いたいことを伝えたいだけでも頭をフル回転させなければならない国に来ることができた。
釜山に着いてからはまだ日本語を話せる人と会っていない。
昨夜は空港近くにあるササンというところでモーテルに宿泊したが、そこのスタッフも日本語は話せなかった。
今日宿泊する慶州(キョンジュ)のホテルに荷物を預けてきたが、ここでも日本語は通じない。
韓国で日本語が通じるのは一部のホテルや免税店、日本人をターゲットにしている店くらいだ。
私の中で韓国はほとんど日本語が通じない国といった印象だ。
しかしそれが非日常体験を増やしてくれているようだ。
同じ韓国旅でもソウルの4つ星ホテルに宿泊して明洞でショッピングをするような旅なら言葉で頭を使うような経験はしないはずだ。
同じ慶州(キョンジュ)だとしても日本語を話すガイド付きのツアーでも同じことだ。
私が個人旅行で旅をするのはそんな非日常の機会を増やしたいからだ。
慶州には初めて来たが想像していた通り落ち着ける街だった。
もちろん新羅時代の遺跡にも興味を持ったが、街歩きを楽しめそうだったことが私の心を動かした。
皇理団通りには多くの脇道があり路地歩きを楽しむこともできた。
他国の文化を知ることも旅の醍醐味
慶州でホテルを取っていたので、その日は時間を気にすることもなく過ごすことができた。
夕食は慶州中央市場の屋台で済ますことにした。
市場には多くの屋台が集まったところがあり夕方から賑わうようだった。
ひとり旅で屋台が気楽なのは韓国の食文化を気兼ねなく経験できるからだ。
韓国ではひとりで外食する文化はなく、昼食であっても会食文化だ。
日本なら上司と昼食を共にするなど極力控えたいと思うが、韓国では昼の会食も一般的文化と言えるようだ。
そんな文化なので韓国で食堂に一人で入るとどうしても目立ってしまうが、屋台なら他の客に紛れ込むことができる。
特にこの市場はテント屋台ではなく、アーケード通路に常設してあるテーブル席で相席をするのが普通だったから一人でも目立つことがなかった。
どこの国にせよ屋台は当たりハズレが大きいというのは経験から言える私の主観だ。
特にハズレは端に多いというのも根拠のない個人的感覚だ。
この屋台村を2往復してもまだ何を食べようか迷っていた。
そういえば韓国へ来てからまだ肉料理を食べていなかった。
そう思ったとき目に入ったのが소갈비(牛カルビ)の看板だ。
ハングルが読めるのは昔勉強した賜物だと言いたいが、1か月程度勉強すれば概ね読めるようになるのがハングルだ。
しかも갈비(カルビ)のように日本語の発音に似た単語は訳す必要もない。
読めただけで意味が分かるのがありがたいところだ。
私が韓国をある程度自由に旅ができるのもハングルが読めるおかげだ。
一番端にある屋台とはいえ見るからにうまそうだ。
店主も人のよさそうなおじさんだった。
「10分待って下さい」と言われたので前の店で焼酎(チャミスル)を1本買った。
私が焼酎を持っていたので、屋台のおじさんは料理と一緒に紙コップをくれた。
晩酌の習慣はないが旅先で飲む酒はうまいものだ。
私は牛カルビ焼の入ったパックと焼酎を持ち、敢えて人の座っているテーブルに腰を据えた。
「これなら一人旅をしている田舎者の日本人だとは誰も気付かないはずだ」などと勝手に想像していた。
残念ながら味は私の主観が当たってしまったようだ。
しかし今更文句を言っても仕方ない。
これも韓国文化を経験した内のひとつだと思いながら焼酎で辛いソカルビを流し込んだ。
慶州から東大邱(トンデグ)へバス移動
慶州の夜をもう少し歩きたいところではあったが、翌日も歩く予定を入れているので早めにホテルに戻った。
小さなホテルで料金も安かったが昨日のモーテルと比較すると雲泥の差だった。
清掃も行き届いていて水回りも悪くはない。
チェックインカウンターは一般的なホテルと同じだが、キングサイズのベッドを見るとここもモーテルなのだろう。
韓国で節約したひとり旅をするなら、如何にこのようなモーテルを見つけるかで旅の満足度も変わってくる。
因みにこのホテルは一泊4,069円だった。
翌朝早めにホテルをチェックアウトした。
慶州から水原に移動するためだ。
このホテルに宿泊したのも慶州の市外バスターミナルに近かったからだ。
新慶州駅にもKTX(日本でいう新幹線)は停車するようだが本数が限られているし、新慶州駅は街はずれにあるからそこまで行くのは無駄だと考えた。
やはり慶州から近い韓国第4の都市、大邱市まで高速バスで行くのが懸命だ。
慶州バスターミナルのチケット売り場窓口で「東大邱まで」(トンデグカジ)と言ってチケットを買った。
料金は8,000ウォン(約880円)だった。
東大邱まで約1時間のバスの旅だ。
バス乗り場に行って待っているとバスが入ってきた。
リュックを降ろしながら荷物室を指さして「ここに入れてもいいか」と運転手にアピールすると首を縦に降って「入れたらいいよ」と返事をくれた。
三宮から関空まで乗ったシャトルバスでは係員がリュックを荷物室に入れて引換券までくれたが、韓国はそのあたりがアバウトだ。
自分で荷物室のドアを開けリュックを放り込んだが、バスを降りる時に忘れそうで心配だった。
10人足らずの乗客を乗せてバスは発車した。
シートは通路を挟んで2列と1列に別れていて、私の指定席は1列側だった。
東南アジアの長距離バスでよく見る豪華そうな大型シートだったからゆったりとして座り心地も悪くない。
グーグルマップでたまに現在地を確認したが予想より早く東大邱に到着しそうだった。
東大邱(トンデグ)のバスターミナルは東大邱駅建物内の南側だ。
到着してすぐにバスの腹にあるトランクルームのドアを開けた。
初めて乗るKTXでの一期一会
トンデグ駅には25年ほど前に一度来たことがある。
まだスマホもなかったころだ。
家族旅行で釜山からセマウル特急に乗り金泉(キムチョン)に向かった。
その時に東大邱駅でセマウルからムグンファ急行に乗り換えたのだ。
日本よりも低いホームで、線路の上を歩いて横断し隣のホームへ渡ったことを覚えている。
東大邱駅の駅長さんらしき人に案内していただいたことも鮮明に思い出した。
ピョンジ(手紙)という韓国の古い映画で見た光景と同じだった。
その記憶の中では田舎の小さな駅といった感じだ。
しかしこの日に見た東大邱駅にはその面影は微塵もなかった。
この四半世紀で見違えるほど立派になっていた。
その代わり懐かしさはなく少し寂しい気分だった。
今の東大邱駅を日本で例えるなら名古屋駅といったところだろう。
東大邱駅から水原駅(スウォンヨク)まではKTXという高速鉄道で移動する予定だ。
前に来たときはセマウルが最も早い列車だったが、今は305キロで走るKTXが最速の鉄道だ。
早くKTXのチケットを買わなければと焦っていた。
東大邱駅は京釜線(きょんぶせん)でも主要駅なので全てのKTXが停車するが、これから行く水原駅に停車するKTXは限られている。
9時8分発のKTXを逃すと次に水原駅に停車するKTXは2時間後になってしまう。
東大邱駅に入ってチケット売り場を探していると표사는곳(ピョサヌンゴッ)という案内板が目に入った。
急いでそこへ向かい窓口でKTXの切符を買おうとしたが、「ここではない」と言われてしまった。
まさか券売機でしか買えないのかと思いながらKTXのホームがある方に行くと、先ほどよりも大きな切符売り場の窓口があった。
その窓口で「9時8分発のKTX」と伝えると難なく指定席のチケットを手に入れることができた。
ネットではKTXは予約でないと指定席が取れないといった情報が多かったので心配していたが、平日だったからかすんなりと買えたから拍子抜けした。
向こうに見えるホームにはもう一つの高速鉄道SRTが停車していた。
初めて乗るKTXはすぐに入ってきた。
早起きしたお陰で何とか間に合った。
水原まで約2時間の列車旅だ。
因みにKTXの指定席込み料金は31,300ウォン(約3,440円)だった。
日本の新幹線と比較すればまだまだ安いイメージだ。
私の座席番号は15号車の7Bだ。
そのシートに近づくと窓側の隣席の7Aには既に若い女性が座っていた。
私は手に持っていたスマホやショルダーをいったん自分の席に置き、背負っていたリュックを肩から外して棚の上に乗せた。
そしてシートに置いていたショルダーやスマホを取って座ろうとすると、いきなり隣の女性に「座るな」と言わんばかりに手で遮られた。
予測もしていなかった出来事に驚き女性の顔を見た。
するとその女性は優しそうな顔で私に眼鏡を差し出した。
シートの上に老眼鏡を置いたまま座ろうとしたので、それに気づいた女性が咄嗟に私を遮って眼鏡を守ってくれたのだ。
私は彼女に「죄송합니다」(チェソンハムニダすみません」と言いかけて「コマッスムニダ」(고맙습니다ありがとうございます)と言いなおした。
このような時につい「すみません」と言ってしまうのは私の悪い癖だと思ったが、田舎に住んでいる定年退職者の私には、そもそもこのような言葉を使う機会すらないのだ。
これこそが私が望んだ旅のちょっとしたハプニングだった。
私は座りなおしてから彼女に、眼鏡が壊れなくて助かったことや、もし壊れていたらこのあと困っていただろうことを翻訳アプリで少し大げさに伝えた。
彼女も「失礼なことにならないかと一瞬迷ったけれど喜んでいただけて嬉しいです」と翻訳アプリで返事をくれた。
少ししてKTXのチケットを左手に持ち、右手でスマホを持って撮影しようとした時だ。
少し震える私の左手とチケットの上部を持って手伝ってくれた。
おそらくたまたま隣席になった高齢者を気遣ってくれただけの理由なのだろうが、私が若ければ完全に都合よく誤解しているような出来事だった。
私も「コマッスムニダ」(ありがとうございます)ではなく「コマウォー」(ありがとう)と言ってしまったくらいだ。
このKTXに乗ってからまだ20分も経っていない出来事だ。
人はこんな短時間でも心を通わせることができるんだと自分勝手に思ってしまった。
年甲斐もなく私に多少の不純な気持ちがあったかは別にして、おそらく日本では絶対起きないハプニングには間違いないところだ。
実際は2時間で着くはずの水原駅にあっという間に着いたのも、何でもない列車ひとり旅のはずが思い出に残る旅になったのも彼女のお蔭だ。
私はソウルまで行く彼女に水原駅で降りることを伝えた。
そして降りるとき私は敢えて日本語で「ありがとう」と言った。
彼女は優しそうな笑顔で「アンニョンヒガセヨ〜」と見送ってくれた。
海外ひとり旅ならではの出来事だ。
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