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車の中で寝る心境を綴ってみた
60代になって初めて経験したのが車中泊だ。
車中泊をして改めて知ったのが家で眠ることの安心感だった。
車中泊をする人の目的は様々だ。
これから車中泊で旅をしようと考えている人や、防災準備として車中泊の知識を得たい人に読んで頂きたい。
家のベッドが世界一落ち着いて眠れるのは…
毎日家のベッドで目覚めていると、その安心感に気付くことはない。
それが日常と言うものだ。
それが例え五つ星ホテルに宿泊したとしても、枕が変われば眠れなかったなどと不服を言う人も少なくないはずだ。
まだ車中泊を経験したことがない人に一言で車中泊を説明するなら、あまり聞くことがない食事の付いていないゼロ星ホテルとでも表現したいくらいだ。
車で眠るという経験
私もそれまでは車の中で一夜を明かした経験がないというだけで、車の中で仮眠を取るという経験は何度もしたことがある。
例えば車で出張したときの帰り道、高速道路を走っていて眠くなった時などはよくサービスエリアに入って仮眠したものだ。
ある時などは熟睡してしまったのか、気が付けば数時間経過していて周囲の状況が一変していることに驚いたこともある。
運転席のシートを、ただリクライニングして倒しただけの仮眠だったにも関わらずだ。
若いころ鉄道を使って通勤していた時もよく寝過ごしたものだ。
「俺はどこでも寝ることができる」と同僚にも自慢気に話したほどだ。
ある日、定年退職するような年齢になって、近くに住む同年代の知人とやりたいことについて話す機会があった。
「定年退職したら車で全国の温泉巡りをしたいんだ」と知人が話してくれた。
奥さんと相談しているのかと聞くと「いや、ひとりで車に寝泊りして行こうかと思っていたんだ」と言った。
思っていたとはどういうことかと問うと、この前の三連休を利用して試しに四国へ行ってみたと言うことだった。
二泊三日の予定だったが一晩車中泊しただけで帰ってきたと残念そうな口ぶりだった。
道の駅が見当たらなかったから、国道脇に作られたパーキングエリアで仮眠を取ったが眠れなかったのだそうだ。
初めて車中泊をした夜
その知人が特別神経質だった訳ではなく、どちらかと言うと私よりもおおらかな性分だ。
気を遣わず言うなら鈍感なタイプだ。
そんな人でもこの歳になればリクライニングだけで眠ることが出来なかったと言うことだ。
ましてや世界一安心できる家のベッドでさえ、眠れない日が多くなったと感じる年齢だ。
そこで私は最初からリクライニングではなく横になって寝る方法を考えた。
最初に車中泊をしたのは高知県の山の上にあるRVパークだった。
コンパクトカーの後部をベッドにして寝たが、とても熟睡などできるはずもなかった。
風で車は揺れ、闇夜の不安からか持病の喉や鼻の症状も悪化した気がした。
つまりこれは、最初から車中泊のハードルを上げ過ぎたのだと反省した。
道の駅などなら他にも車中泊をしている人がいるはずだから、もっと安心して眠れるはずだとも考えた。
このRVパークにもキャンピングカーが一台止まっていたが、山の上という環境に不安感が増したようだ。
眠れない日の夜がどれだけ長い時間に感じるのかは誰でも経験があるはずだ。
増してやただ眠れないというだけではなく、ヒューヒューと言う風の音やその度に揺れる狭い車内での環境が不安感を煽って更に時間を止めている気がした。
長い長い夜が過ぎ空が白け始めたころ私は車を出した。
仮眠では熟睡はできない
その後は概ね道の駅で車中泊をした。
トイレがあり見ず知らずとはいえ仮眠を取っている車も数台はいる。
明るいところでは眠れないのに外灯があるというだけで安心する。
山の上と比較すれば安心感は数倍高いと思いながらも熟睡には至らなかった。
深夜でも出入りする車のエンジン音やドアを開け閉めする音、その中でも最も安眠を邪魔するのは人の話し声だ。
そもそも道の駅はRVパークのような車中泊専用の宿泊施設ではないから文句を言うことすら筋違いだ。
ここでも我が家の環境がどれほど素晴らしいのか知らしめてくれる結果になった。
田舎の物音ひとつしない深夜の環境が返って不気味だと思うこともあったが、道の駅で寝ていると静かさだけの欲求が沸いてきた。
道の駅で他の車中泊者を観察していると、運転席をリクライニングするだけの人も少なくなかった。
おそらく私のような年齢の人ではなく、もっと若い人だろうと勝手に想像した。
しかも夜を明かすのが目的なのではなく、ただ仮眠がしたい人なのだろうとも思った。
車中泊の回数が増えていくと今度は徐々に道の駅を避けるようになった。
とりあえず道の駅やパーキングエリアで仮眠を取っていたとしても、騒音などで眠れないと感じた時はすぐに移動することにした。
車が一台も止まっていない公園やシーズンオフの観光地駐車場などだ。
特に深夜三時ごろからはそのような場所でこそ熟睡できることを知ってしまった。
しかしどれだけ静かだとしても、住宅地が近くにあるところは避けなければならない。
不審者と思われたくないからだ。
車中泊は慣れる
何度も車中泊をしていると段々と慣れてくるものだ。
おそらく人は環境に慣れるという能力が高いのだろう。
早朝登山をしようと登山口駐車場にひとりで前日入りして車中泊もしたが、最初は恐怖感で眠ることも難しかった。
山中で一人テント泊できる人の度胸が羨ましくもあった。
月夜ならまだいいが闇夜でただ一人車中泊をしていると、風で樹木が擦れ合う音や獣が近くにいる気配を敏感に感じ取る豊かな感性があらゆる恐怖感に変換された。
深夜にハッチバックドアあたりをカリカリと爪で引っ掻く音がした時などは恐怖におののいたものだ。
しかしそれも、前夜に温めて食べたソーセージを狙った狸の仕業だと知ったあとは平気になった。
どれだけ車中泊に慣れたと言っても決して家のベッドを上回ったのではない。
車中泊に慣れたことで言えば、それが全く無駄なことだとは思わない。
もし災害などで避難しなければならなくなった時などは、充分にその経験が生かされるものだ。
だから車中泊をしなくなった今も、防災用としてその頃車中泊で使っていた道具は置いている。
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