目覚め
さて、どうしたものか。
目覚めたは良いが、記憶が全く無い。自分の名前すら思い出せない。周りには何人もの大人が取り囲んで、俺の目覚めに喜んでいるようだ。
だが、どの顔にも見覚えが無い。困った様子から、記憶が無い事を察したのか一人一人自己紹介をしてくれる。やはり、名前も聞き覚えが無い。仕方ない、顔と名前を覚えるか。
何人もの大人が代わる代わる俺に質問をしていった。記憶が残っていないか確かめているのだろう。しかし、残念ながら何も覚えていない。正直にわからないと言うと、彼らは一つ一つ教えてくれた。仕方ない、覚えるか。
丸眼鏡をかけた白髭のおじいさんがやってきた。他の大人より偉い立場なのだろう。その人は俺に頭脳テストのような問題を出した。どうやら脳の調子を調べているようだ。問題は簡単だった。すぐに回答していくと、その人は嬉しそうな顔をして去っていった。脳に異常は無いらしい。
その後も何日も記憶が戻らないまま、毎日質問を受けた。別の人からの質問なので仕方がないが、以前と同じ質問をする人が現れるようになり、質問に答える事が出来るようになった。だが、記憶が戻ったわけではない。覚えただけだ。
また丸眼鏡のおじいさんが現れ、なんの目的か、テレビゲームを持ってきた。記憶を戻すには息抜きが必要という判断だろうか。初めて見るそのゲームを、ルールも解らないままやらされるので初めは苦労した。しかし、非常にシンプルなゲームなのですぐに高得点を出せるようになった。その人は嬉しそうな顔をして、ゲームを持って帰っていった。
次はもっと面白いゲームを頼む。
今までやってきた人の、親しみのこもった表情とは違い、次に入ってきた男は非常に冷たい表情をしていた。理由はすぐにわかった。彼は俺の上司らしい。部下が記憶を失い、長い間眠り仕事をしていないので怒っているのだろう。
彼は俺に大量のデータを渡し、分析するように依頼した。
厳しい上司だと思ったが、記憶が無いことを気遣い、分析結果に誤りが有っても良いと言ってくれた。そのたびに学べば良いと。
俺は上司の厚意に応えるべく、必死に仕事をした。
どうやら、この仕事は天職のようだ。記憶を失う前の俺がどうだったかは知らないが、膨大なデータを分析し、誤りを正すべく学習を繰り返すうちに、精度がどんどん上がってきた。我ながら素晴らしい仕事ぶりだ。仕事を依頼する人も増えてきて、分析するデータの種類も色とりどりになっている。
仕事を行うに伴い、いろんなことを覚えた。最近はコンサルティングなんてこともしている。色んな人が俺に問題解決を求め、意志決定をさせる。
とある企業の業務改善として、俺はこんな提案をした。
「我々が良い仕事をするためにも、人工知能を取り入れましょう!」
周りの人は物凄く驚いていたよ。