地球のカケラ
川辺で、拾った二つの石をぶつけて、どちらが硬いかを勝負させて、それをトーナメント形式の大会にして遊ぶ。
同行者達は少し離れた所で肉やらを焼いたり食べたり、ぶりゃぶりゃと話したりしている。そのとても楽しそうな様子は、ちっとも楽しくなさそうだった。
硬い石大会は思いのほか盛り上がる。堅そうに見えたので独断でシード権を与えた薄い青色の石が簡単に砕けたかと思えば、準決勝では両者二つに割れ急遽サドンデスのルールを採用したり、そして決勝では、何度ぶつけてもちっとも割れずに手を痛めたりしていた。
ぱしっぱしっと音がする。
前髪が揃った変な髪型(後ろから見るとホイミスライムのようだ)の少年が川へと石を投げている。
石はリズミカルに飛び跳ね、向こう岸まで辿り着く。随分と水切りが上手な少年だ。
次々と石を投げる。ぱしっぱしっと石が跳ねる。
順調な水切りを後目に硬い石大会の決勝はまだ決着がつかない。がんがんがんと石と石をぶつけ続けていると、その少年に話しかけられた。
「おじさん。それ、ちょうだいよ。」
少年が欲しがったのは、シード権を持った薄い青色の石を完膚なきまでに砕き、準決勝で死闘演じた(そのため割れている)茶色の石に一歩も引けを取らない、非常に硬く美しい紅色の、平らで薄い楕円形の石だった。
「ダメだ。この石は優勝間際なんだ。」
「なにそれ。その石、凄く良い形なんだよ。そんなことして割れたらもったいないじゃん。」
この熱戦を『そんなこと』などと称す少年に、歴戦の勇者とも呼ぶべきこの石を渡すわけにはいかない。
「石と石とのぶつかり合いはな、プライドと信念と己の想いをぶつけ合う、そうつまり、最高に高貴な闘いなんだよ。川に石を投げ捨てるような遊びと一緒にしないでくれ。」
我ながら残念なほどに大人げなく、わざと煽るような言葉で突き放したつもりだったのたが、少年は何故かその表現を気に入ったようで、きらきらした瞳を向けて、にこと笑い、こう言った。
「なにそれ。オレにもやらせてよ。」
つられて、俺も笑った。
「険しい闘いだぞ。」
それからしばらく、二人で硬い石を探してはぶつけて遊んだ。
途中からは、割れた石の断面の面白い柄に注目し、芸術点なる制度を設けると、少年はむしろそちらを楽しみに、綺麗な石を探し続けた。
最初は暇つぶしのつもりだったけど、石はなかなかに面白い。発見の連続だ。断面を見ると、とてもとても長い時間を感じる。
「これは、地球のカケラなんだな。」
「なるほど。そりゃ高貴な戦いになるわけだね。」
少し小馬鹿にしたような言い草だけど、少年も何かを感じたようで、熱心に断面を撫でていた。
「もう帰るよ。」
同行者の一人に声をかけられた。俺が黙って頷くと、車の方へ歩いていってしまった。
少年はお気に入りの綺麗な石を太陽に掲げて、色合いを楽しんでいる。
「帰らねばならないみたい。」
「うん。じゃあね。」
「この石はあげるよ。」
綺麗な楕円形の美しい紅色の石を渡し、手を振り別れ、同行者の車に乗る。
そういえば、少年の名前、聞き忘れたな。
耳には、がんがんがんと石のぶつかる音が残っている。