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僕は鶴が折れない

折り紙。角や辺を揃えたりが出来なくて、どうしてもクシャクシャになっちゃう。手順も全然覚えられない。お手本を見ても同じ形にならなくて、何度も何度も折るから、折り目で紙はボロボロ。おまけに僕の手は汗でベタベタ。だから折り紙はいつも、クシャクシャでボロボロでベタベタ。


九九。五の段までしか言えない。クラスの皆が覚えられたらのに、僕一人だけ、ずっと言えない。滑舌が悪いから、覚えられたとしてもスラスラ言えないんだけどね。だから、割り算の筆算なんて出来っこない。そうなんだ。九九が言えないと算数はずっと出来ないんだ。


発表。凄く嫌い。クラスの人達の前で喋るなんて、緊張して恥ずかしくて、気持ちが悪くなる。皆から笑われているような気がするし、声は震えるし、涙も出てくる。そうしたら、いよいよ皆は本当に笑ってた。


字。汚い。硬筆の時間、余りに汚くて書き直し。先生は、汚くても良いから丁寧に書きなさい、なんて言うけど、ゆっくり書くと余計にバランスが崩れるし、我慢も出来ないし、集中も出来ないから、何度も何度も書き直す。手の汗で鉛筆が滲み、紙は真っ黒。だから、この時間も居残り。


かけっこ。クラスで一番遅い。一生懸命に走れば走る程、全然前に進まない。運動会は恥ずかしいだけの時間。だから居場所が無い。足が遅いとクラスでは居場所がなくなるんだ。


僕は、何にも出来ない。


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私は手品が出来る。中学の頃にプロのマジシャンのカードマジックを目の前で見て、それから一気にのめり込み、専門書を買い真剣に練習をした。鏡の前で繰り返し繰り返し、どんなに苦手でも諦めること無く、指から血出るまで練習をした。今では上司から、君は何故プロを目指さなかったんだね、と言われる程に上達をした。

だから、大丈夫。
不器用だって大丈夫。


私は数学が大好きだ。高校に入って、三角関数や微分積分と進むにつれ、どんどんと面白くなり、塾や予備校に頼らず我流で勉強をし、数学で大学に合格した。大学では数式が表現する美しい世界に魅入られ、その頃には一部の周囲から天才と評されるようになった。

だから、大丈夫。
九九が言えなくたって大丈夫。


私はプレゼンテーションが得意だ。説明の順序を考え、言葉の効力を計算し、練習を重ねることで自然な表現にしていく。相変わらず滑舌は悪いが、気をつけてゆっくり丁寧に話すことで説得力も増し、聞こえが良くなる。社内外で人前で説明するときなどには声がかかり、任される。

だから、大丈夫。
発表が大嫌いだって大丈夫。


大人になると、人は足の速さで居場所がなくなったりなんかしない。会話をして、想いを伝えて、思想を共有すれば、仲間は出来る。

だから、大丈夫。

私は十分幸福だ。




鶴も折れるようになるよ。

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夢蒟蒻
ありがとう