地球が滅んだ理由
その宇宙人はじっと、一枚の葉っぱを見つめている。
ここは広々とした公園。日曜日なこともあり、昼間から活気で溢れている。フリスビーで遊ぶ親子の大きな声が響く。
宇宙人は成人男性の姿に変装をしていた。知的生命体が居着く星を侵略するには、その星の生命体に成りきるのが最も簡単だからだ。もう既に地球を滅ぼす算段はついていた。
しかし彼は今、その落ち葉を見ながら遠い遠い故郷を想っている。落ち葉が、懐かしき母星の亡き母にそっくりだったのだ。赤と黄のまだら模様、横に大きく広がり健康的で活力に満ちた姿。どこから見ても、母そのものだった。思わず涙を流す宇宙人はもう、ここで乱暴をする気になれなくなっていた。
そっと落ち葉をもとの木の下へ置く。気が変わらぬうちに他の星へ向かうべく、足早に宇宙船へと歩いた。
すると、わしゃわしゃわしゃっと落ち葉の痛々しい声が聞こえた。振り向くと、若い人間の男達が竹箒や熊手を使い乱暴に落ち葉を集めている。彼にとってそれは、母を雑に扱われているようであまり気持ちの良い光景ではなかった。それでも、もうどうにも目が離せなくなってしまい、それからずっとその行為を観察をした。
しばらく見ていると、若者達はおもむろに集めた落ち葉に火をつけた。宇宙人は酷く驚き、思わず近くまで寄った。ぼうぼうと燃える葉は、苦い苦い思い出を呼び覚ます。
彼の母星は他の星との戦争の末滅んだ。住む街は炎に包まれ、朽ちた。幼い彼は母に助けられ、助けた母は炎に焼かれ死んだ。脳裏に焼き尽くその光景が、目の前の焚き火で忠実に再現されていた。
怒りで我を忘れそうになった。目の前の火をつけた本人が憎き仇に見えた。こいつが生きる地球ごと滅ぼそうかと考えた。
そこへ、コツンとフリスビーが当たる。彼の後頭部にぶつかった円盤を投げたのは、先程幸せいっぱい笑っていた子供である。謝りながら走って来たその子の頭には、落ち葉で作った冠が乗せてある。宇宙人からフリスビーを受け取り、頭を下げて丁寧に謝ると、冠はスルリと頭から落ちた。子供は慌ててすぐにそれを拾うと、大切そうにゆっくりと自らの頭に乗せなおし、嬉しそうにバッチリと笑顔を見せた。
宇宙人はずいぶんと冷静になっていた。
その子の頭には自分の母に似た葉がある。駆け戻る先には、その子の母親が待っている。そこには彼が望んだ平和な光景があった。彼は再び地球から去る事を決めた。
宇宙人はすっかり穏やかな気持ちで歩きだす。
若者が、焚き火から何かを取り出す。
彼はそれを見てしまう。
細長い楕円形。赤紫色。
若者はそれをパカリと割り、黄金色の断面を喰らう。
宇宙人は激昂した。そのまま地球を滅ぼしてしまうだろう。
焼き芋が、父親と瓜二つだったのだ。