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とても短いお話

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超短編小説。気が向いたら書きます。
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2017年11月の記事一覧

感情の正体の研究

博士は喜んだ。 
ついに研究が実り、人の感情の正体を明らかにすることに成功したのだ。 

研究は苦難ばかりで、「感情」と一つに括るなんてとてもじゃないが出来ない、そんな複雑な処理パターンの連続だった。 
『こんなの、外の現象の把握の方がよっぽど簡単じゃないか』 
それが博士の成功の鍵だった。 

感情の正体を明確にするために、纏わる現象を洗い出した。脳以外全てを把握することで脳を理解する、そんなア

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運命を司る賭博師の独り言

見渡す限り地平線を埋め尽くすまで地面を覆い並ぶ無限のサイコロは、それぞれ思い思い方向へ一斉に一つ転がる。出た数字の羅列が世界のその瞬間の全容であり、基盤であり、つまりは運命だ。一つ転がると、時は一つ進む。それぞれが一定の法則に従い転がるため、次の数字の予測は容易だが、如何せん数が無限なので把握なんて出来っこない。

空には無限のトランプが浮かぶ。絶えずシャッフルされ、めくられ、並び変えられる。

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SF三作

昔書いた超短編を整理してみました。

■存在の意味

映像を直接脳内に表示させる技術が生まれた。 

さらに、視神経だけでなく聴覚、味覚、嗅覚、触覚といった感覚器官に直接信号をおくり、疑似世界を体験出来るようになった。その信号は地球上の位置情報を判別し、自動で人工衛星から送信される。 

地球上における「存在」という言葉の意味が変わってきたのもそれからだ。 
存在とは、「実際に在るもの」と「人工衛

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カラスの真相

■仲間からの誘い
そういえばさ、最近カラスが減ったよね。

昼休み、喫茶店で珈琲を飲んでいると、同僚がそう呟いた。上司も同調し不思議がる。私はというと、真相がバレぬよう適当に話を合わせていた。

先日、私の仲間から「良い場所が見つかった。お前も来ないか。」と連絡があった。今の居場所の居心地が良いので断ったが、彼らは皆移動したのだろう。
住処を奪われ仲間たちの多くは黒い鳥へと化けた。私のように人間に

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思い出ピアノ

音が聞こえる。

~~~~~

ああ、この音は。
校庭で鳴る笛の音。そう、これは運動会だ。

皆が裸足で均等に整列している。この音を合図に辛く苦しい組体操が始まる。
校庭には小さな石が残っていて、足の裏や、演目によっては膝に鋭く刺さりとても痛い。私は力が弱いが身長も低くないので、他の生徒の下になり、持ち上げたり踏んづけられたり登られたりしている。笛の音は、私の思いを無視し続け、冷たく無慈悲に鳴り響

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悪夢の行き先

怖い夢は、寝て忘れるに限るよ。

幼い頃に母はそう言って、悪夢にうなされ目覚めた私を寝かせつけてくれた。確かにそうだ。悪夢は寝ると忘れてしまう。身が凍るような恐怖だって、最初から存在していなかったかのように、なにからなにまですっかり無くなってしまう。

大人になるまではずっと、そういうものだと思って生きてきた。なに一つ疑いなど持たずに。

疑問に思ったのは十三年前のこと。私はその夜、闇の深く深くに

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記憶の穴

お気に入りの鉛筆で、記憶の中に残り続ける風景を描く。

六年間捕らわれ続けた、あの小学校の校庭だ。ジャングルジムとうんていとブランコと、あと呼び名も分からないタイヤがぶら下がった遊具がある。無理矢理思い出そうとしなくとも、鉛筆はすらすらと風景を再現していく。何枚も何枚も、色んな角度からそれぞれの場所を。

しかし、何度描いてもどうしてもグリグリと塗りつぶしてしまう空間がある。サッカーコートの裏、倉

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幸せの梅干しおにぎり

コタツにはみかんが合う、というのは全面的に同意だが、個人的にはコタツに梅干しおにぎりを推したい。身も心も暖まり、全身が幸せの塊になる。

そうやって幸せを噛みしめていると、コタツの天板がぐらぐら揺れるのに気が付いた。なんだろう、と思い持ち上げてみると、かわいらしい顔をした小さな小さな棒人間が挟まっていた。
昨晩コタツでお絵描きをしたので、その時の落書きがうっかり天板に挟まってしまったようだ。棒人間

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クリスマスの思い出

ソレはとても簡単なこと。 
子供がクリスマスの前に、ほしいプレゼントを母親にではなく、サンタクロースにお願いするように。
それでも大人達はソレを実現不可能な幻想ととらえている。サンタクロースへのお願いは、母親にも届いているというのに。 

友人は昔、犬の散歩中に空からビー玉が落ちてくるのを見たらしい。1つや2つではなく、なんと全部で48個。彼は驚いて呆然とその様子を眺めていたが、散歩していた犬はと

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