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とても短いお話

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超短編小説。気が向いたら書きます。
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2017年10月の記事一覧

インスタントコーヒー

その100円均一で買ったマグカップには、なみなみとコーヒーが注がれている。安物のインスタントコーヒーだ。そのため色もまだらで、揺らめく油のようなものが見える。美味しくは無いこと承知で堂々と机に置かれている。

コーヒーの水面がブルブルと震えると、中からゆっくりと人間の手が出てきた。手を見ただけでわかるほど、やせ細り弱々しい。どうせならもっと良い飲み物から出てくればのに、どうしてこんな安っぽい所を選

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見本市

ずっと、同じような所を歩き続けている。右足アキレス腱の靴擦れが酷く痛む。地面に撒き散らされた液体で靴下が濡れ、一歩踏みしめるたびにぬちぬちと気持ちが悪い。頭上ではガシャンガシャンと鉄がぶつかる音がけたたましく鳴り、耳が叩かれ頭は揺らされる。辺り一面薄暗く、目の前ですらはっきりとは見えない。喉が渇き、唇は割れ、よだれも出ない。煙たく、強く息を吸うとむせてしまうので、少しずつ呼吸をする。
つまりは、た

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地球が滅んだ理由

その宇宙人はじっと、一枚の葉っぱを見つめている。

ここは広々とした公園。日曜日なこともあり、昼間から活気で溢れている。フリスビーで遊ぶ親子の大きな声が響く。
宇宙人は成人男性の姿に変装をしていた。知的生命体が居着く星を侵略するには、その星の生命体に成りきるのが最も簡単だからだ。もう既に地球を滅ぼす算段はついていた。
しかし彼は今、その落ち葉を見ながら遠い遠い故郷を想っている。落ち葉が、懐かしき母

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素朴な実験

黄色く燃える太陽が、本当に東から昇るのか、実験をしてみる事にした。

用意したのは、コップにいれた白い砂と赤鉛筆を二本。実験の開始は夜明け前、向かうは世界のサイコロのてっぺんだ。今日の出目は1、赤く大きな窪みに仰向けになることが出来るので、一番好きだ。
空に浮かぶ巨大なカタツムリは時おり紫色に光り、星々が塩のように降りかかると小さく身を縮める。その渦巻く殻は、銀河だ。
満月はクルクルと廻り、ちっと

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黒い棒

男が朝起きると、庭に黒い棒が刺さっていた。直径は50cmほどだ。地面から垂直に、雲を突き抜けどこまでも高く伸びている。少しも動かす事は出来ず、硬く、傷つけることも出来ない。少し冷たくて、つるつるとしている。

その不思議な棒が、話題になり有名になるまで、時間はかからなかった。マスコミが幾度となく取材に訪れ、様々な研究機関がその正体を探った。材質は解らず、ただ、とんでもない強度で有ることがわかった。

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