マガジンのカバー画像

とても短いお話

55
超短編小説。気が向いたら書きます。
運営しているクリエイター

2017年9月の記事一覧

物探し

くしゃみをしたら、鼻からおみくじが出てきた。

吉。中身は一行。「失物 出る。思わぬところ。」

なるほど、これは良い。左足のくるぶしを失して困っていたところだ。本当にもう、歩きにくくて仕方がなかったよ。
だが「思わぬところ」とあるので探しても見つからないのだろう。むしろ探してはいけないな。探せば「思うところ」になってしまう。つまりは、いつも通りに過ごすことを心がけようね。

そういえばベーゴマを

もっとみる

本をめくると、紙の繊維と文字のインクから意思が放たれ、直接声を届けようとする。これを本の情報と区別し、本の意思と呼ぼうか。
読む人とやりとりがされるため、古本には今までのいくつもの読者の意思が本の意思として溶け込んでいる。

図書館が、静かなのにもかかわらず不思議と騒がしく感じるのは、無数の本の意思が溢れているからだろう。

『本の物語』というと、本に書かれた情報としての物語と、本や読者の意思とし

もっとみる

柚子の香りと錦蛇

■あ、間違えた。

エレベーターのボタンを間違えた。14階に行きたいのに15階を押してた。一つ戻らないと。そういえば、15階は降りたことないな。

(エレベーターのドアが開く)

真っ暗だ。なんだここ。気持ち悪い。使われていないのかな。すぐ戻ろ。14階っと。

(ドアは閉まり、エレベーターは下降を開始する)

あ、あれ。止まらないぞ。なんだこれ、故障か。14階、過ぎちゃったじゃん。ああ。どこまで戻

もっとみる