マガジンのカバー画像

とても短いお話

55
超短編小説。気が向いたら書きます。
運営しているクリエイター

2017年6月の記事一覧

雨の子供

知ってた?傘をさすから、雨がふるんだよ。

レインコートを着て長靴をはき、水溜まりでバシャバシャと遊ぶその子供は、真っ直ぐと落ちる静かな雨の中、とびきり明るい笑顔でそう言った。
その子供とは何度も話をしているが、雨の日にしか見たことがない。いつも同じ黄色いレインコートを着ている。いつだって水溜まりをおもちゃに遊んでいるのだ。

その夜は仕事帰りに急に雨に降られ、うんざりとしながら折り畳み傘をさして

もっとみる

ずぶずぶ

目に映る景色が、ゆっくりと沈む。

地下鉄の電車の中。目の前の眼鏡をかけたサラリーマンは、吊革ごとずぶずぶと沈んでいっている。電車の天井もあわせて床に吸い込まれて、電車はひしゃげて、潰れて、それでも走る。

次は湯島、次は湯島。

扉が開く。潰れた電車から人々は這いだすように出て行き、駅で待つ人はそれを待ち、続いて、その潰れた電車に入ってくる。入ってくるなりずぶずぶと沈んでいく。

景色はどんどん

もっとみる

悩みの実体化

人々のストレスが重大な問題として認識され、その回答として、科学は「悩みの実体化」という方法を与えた。
医者、またはカウンセラーは、以前のように患者に質問を投げかけたりはしない。専用の機械を使い患者の悩みを実体化する。実体化した悩みを患者と共に見て、触って、削りとり、解消する。
悩みの内容によっては解消が難しい事もあり、その上、解消していないとその事が明らかなので「余計な発明をしやがって」と不満を漏

もっとみる

迷子の妄想

迷子になるのはコツがいる。能動的に迷子になろうとすると、どうしても道や景色を覚えてしまう。かといって見知らぬ道と知りながらぼーっとするのは、それはそれで難儀だ。迷子とは、無意識が優位になって始めて成れるのだ。

どうだろう。試しにオレオのクリームの作製工程でも妄想していると良い。歩きながらが難しかったら、はじめは座っていても良い。
オレオのクリーム。白くて甘くてほどよく柔い。ほろ苦い黒いクッキーに

もっとみる

オシャベリ

ずっと、何か喋っている。

かれこれもう二時間は喋り続けているのではないだろうか。息継ぎが少なく、聞いているこちらが苦しくなる。聞いている、とは言っても、最初の五分以降、内容はもう何も頭に入ってこない。一定のリズムで進むボイスパーカッションのように聞こえる。

だんだんとそのリズムに身を委ねて、思わず手拍子をしそうになったが、流石に聞いてない事がバレるので、相槌でリズムを刻む事にした。

ペチャク

もっとみる