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嘘にまみれる毎日

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毎日一つ嘘をつきます。誰も傷つけない嘘を。
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2018年12月の記事一覧

【嘘】手洗いを忘れた夜

親指で擦ったら夜空が少し剥げた。
親指は滲み、少しキラキラとラメが付いた。

うっかりその指で顔をかいてしまったようで、後で鏡を見たら、顔は真っ黒で何も見えなかった。

ゆっくり深呼吸をして、沢山光を吸い込まなきゃ。

【嘘】空の色

変わった色の空をしている。

デジャヴだ。
前にもこの色の空を見た気がするのだ。

かつての地球で見た空の色かな。
とても青い。

【嘘】新しい取り組み

オルゴールの要領で、エスカレーターの段一つ一つが音を鳴らし、音楽を奏でる。
これは東京メトロが、通勤時のストレスを緩和させる目的で今年の4月から開始した取り組みである。

曲は公募により選ばれた。
下りのエスカレーターに運ばれ満員電車に詰められるサラリーマン達は、大変自覚をしており、二位と大差を付けてドナドナに決定。

ストレスが緩和したかは分からないが、右側を歩く人がいなくなる、という効果はあっ

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【嘘】仕事納め

年末の夜はとても寒い。
仕事納めのサラリーマン達が酔っ払って大きな声を上げている。
だけど夜空の星々は仕事をやめず光り続けている。
まるで、黒猫が空を覆って目を向けているようだ。
これがタペタム層か。

お疲れ様、と声をかけると、にゃーお、と返事をくれた。

良いお年を。

【嘘】月の兎と宇宙船の亀

亀と競争をした兎は、月で休憩をしていた。
亀は追いつくため、宇宙を目指す。

1968年9月14日、ソビエトのゾンド5号にのり、亀は宇宙へと飛んだ。

しかし宇宙船は月へと向かったものの、着陸はせず、地球へと帰還した。

兎はまだ、月で待ってる。

【嘘】深夜の兎と亀

夜の十二時。眠れない。時計の音だけが響く。
心臓も一緒に鼓動する。
両方を聞いていると心臓が時計を追い抜くのが分かる。
心臓はどんどんと時計の先へ進む。
時計は亀のように置いて行かれ、心臓は兎のように走る。

いつか兎は休憩をして、そして、亀に追い抜かれるのだろう。

【嘘】咳止めとタイムリープ

病院を出る頃には空は暗くなっていた。
その時既に、処方箋を片手に違和感を感じていた。
誰かが過去に遡り未来を変えてくれたのだと気付いたのは、処方された薬が変わっていた時だ。

もう同じ時を廻らなくて良いなら、この薬は飲んでも大丈夫。

未だ咳は止まらない。

【嘘】うっかりクリスマス

寒くなってきたな。
朝、布団から出るのが辛い。

布団の中に全てがあれば良いのに。
とりあえず、今日はもう寝よう。

・・・・・・。

いや、違うよ。これ、願い事じゃないよ。サンタさん。
入れないで、布団に。
布団に、世界を入れないで。

・・・・・・。

ああ。
布団の中に世界が出来ちゃったせいで、ここも寒いや。

【嘘】嘘屋

席を譲ったお婆さんから、お礼にということで貰ったのは、一枚の地図だった。
知らない人と会話をするのが苦手なのでその地図の詳細を聞くことは出来ず、だけども好奇心に負けて、渋々その場所へと向かった。
地図に記されていたのは、池袋駅周りの人通りが少ない路地にある、目立たないお店だった。
薄暗い店の中には様々な「嘘」が売っていた。
都市伝説的なものや怪談の類で溢れる中、ひっそりと一つ「嘘屋」というタイトル

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【嘘】創造主の苦悩

全部間違えた。最初からだ。消さなきゃ。

あ。消しゴム、欠けた。うまく消せない。くそ。

また欠けた。ここ、消せない。なんだ。消せない。

最初からには出来ないのか。書き足して誤魔化そう。

【嘘】海の底の老人

深い深い海の底。
静かで真っ暗な海の底。
傘をさして歩く老人がいるらしい。
老人はこう呟く。
「雨がどんどんと強くなってきた。」

この老人の話は、びしょ濡れの長靴から教わった。

【嘘】通学路

小学生低学年のころ、通学路は絶対だった。
寄り道は当然悪で、道を一本でも逸れてはいけなかった。
通学路を外れたら二度と戻ってこれないんだと思っていた。

そうだ。
あの日、近道をしたんだ。

だからまだ、こうして迷子のままなんだ。

【嘘】耳ペコ

風呂上がりに耳掃除。
綿棒が耳にかじられた。
音楽に飢えておる。

【嘘】人生ゲーム

サイコロの出た目だけ進む。

これを最初に決めたのは、誰だったのか。
自由意志は、いつ消えたのか。
いつの間に、こんなルールが敷かれたのか。

人間達の肉体も精神も、そんなことに気付きもせず、自由なつもりになっている。

ふたつ、すすむ。