なぜ、下級生は廊下を直角に歩くのか? 第2章 その3
鳳蘭さんにすべてをゆだね
私がオスカルの代役で踊ったフィナーレのボレロの場面などは、相手役の鳳蘭さんと両手をしっかり取り合って、客席を背にして階段に立ち、ブリッジのように反っていくのです。
観客席が真っ逆さまに見えるんです!
想像してみてください。反ってる私も怖いのですが、私をたった一人で支えている鳳蘭さんは、バランスを崩したらおしまい。二人で階段をなだれ落ちてしまうのですから、その責任たるやとてつもないものです。
互いの力加減、信じ合う気持ち、絶対に振付を間違わない信念。単に間違いで恥をかくという話ではなく、それこそ命がけの状況なのです。
特に大階段のダンスの場面では。
突然の代役「オスカル」。それでもやりきるのが宝塚魂!
ここで、私の人生を大きく変えることとなったエピソードを紹介しましょう。
宝塚黄金期の最大の作品『ベルサイユのばら』。その東京公演でのことです。私が研7(入団7年目)のときでした。
星組はマリー・アントワネットが初風諄さん、フェルゼンが鳳蘭さん、オスカルが順みつきさんという配役でした。
私はルイ・シャルル役です。
初日から1週間ほどたったころ、突然、順さんが休演するという知らせがきたのです。
順さんの代役は新人公演でオスカルを演じていた私!。
しかし、演じていたといってもダイジェスト版でしたので、一度も稽古をしていない本公演のセリフやダンスもたくさんあったのです。
それでもやりきるのがジェンヌの底力です。
相手役の鳳蘭さんはじめ、上級生、下級生、同期生、オーケストラの方々、衣装部ほかスタッフのみなさん、回りの人たちに支えられて、オープニングから、銀橋の切ない場面、バスティーユの戦い、最後の「フランス万歳!」、そして、 息絶える場面まで演じきることができたのです。
稽古ゼロで挑んだ大階段のボレロ
さて、そこからが大変。
フィナーレです。
フィナーレは鳳蘭さんとのボレロのデュエット。
あの大階段で踊るのです。
しかも、稽古は一回もしたことがなかったのです!
ボレロの衣装のグリーンの総スパンコールドレスに身を包むと、緊張と不安で心臓が高鳴りはじめ、手の指先が氷のように冷たくなっていきまし た。
スタンバイの孤独感。
階段を一段、また一段と下りて、踊り出すポジションまできたとき、顔にスポットライトが当たり、ぱーっと温かい光に包まれたのです。
「信じる! 信じる!」
音楽が流れボレロのダンスがはじまりました。
「大丈夫!」。鳳蘭さんの大きな目は力強く私を見つめ、そう励ましてくれているようでした。
その目をしっかりと見つめ、ついに最後まで踊りきることができたのです。
あとで知ったのですが、歌劇団の理事長も心配して急きょ飛行機で駆けつけられたそうです。
その日からずいぶん長い間、オスカルを演じることになったのです。
舞台というのは決して一人ではできません。
回りの人たちの助け、支えがなければ到底できることではないのです。
このときの感謝の気持ちは私の宝物になっています。
「なぜ、下級生は廊下を直角に歩くのか?」桐生のぼる著書より
つづく・・・・
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