#13 司法試験論文答案を書くに当たっての注意点 8選

はじめに

 私は、答案添削を少なくとも百通以上してきた経験から、答案で陥りがちな共通項をよく見てきたので、それについて今回は話したいと思います。
 いつものNoteでは、法律の知識だったり論じ方であったりといった法律の部分にフォーカスを当てていますが、今回はそれよりも、``採点者に読みやすい長文の答案の書き方``にフォーカスを当てていきます。 
 自分の起案は自分で書いていることもあって一見読みやすいように思ってしまい、採点者目線に立ちづらいので本Noteに照らして読み直して見てください。

原則

 まず皆さんに答案を書く前の心構えとしてもっておいて欲しいことがあります。それは、司法試験とは、TOEIC等と異なり実務家登用試験であるということです。すなわち、採点官はこの人を法曹にしても良いのかどうかという視点で採点をしています。そして採点官は現役の検察官を始め実務家も多く携わっていますので自ずと実務家的な視点で採点がされることになります。
 訴訟は双方がいて初めて起こるものであるにも関わらず、一方の意見ばかりに着目し、相手方の事情を何ら斟酌出来ず、相手方の主張を分析出来ない場合には法曹たり得ないという評価を受けます。
 また、法曹界は手続きや期日の締め切り等(例えば時効の援用忘れなどは依頼人に多大な不利益を被る)色々なことがしっかりと決まっている一般にいえば固い業界です。そのため、ナンバリング、文字の修正の仕方、文字の綺麗さ等、一般人の信頼を預かる法曹として適式通りに出来るのかという点も見られています。会社のルールを守ろうとしない人を採用しようと思うかといった観点で考えてみてください。

1.三段論法になっているのか

 まず、どんな場合に三段論法を使うのかを伝えます。現場思考問題条文の文言のみで一義的に理解できない場合です。

現場思考問題

 現場思考問題とは、原則通りの認定をしてしまうと当事者にとって著しく不合理な結論となるが、不合理な結論を変えた結論を出すための論理が暗記すべき基礎的知識にないものをいいます。
現場思考問題はどの受験生も書けないため、そもそも``正解``を書くことが求められていません。論点をしっかりと摘示すること、両者の視点から検討して悩みを見せた上で条文の趣旨をひねりだして三段論法で書くだけで深く検討出来ているという印象を与えます。是非現場思考問題は三段論法で書くことを意識してください。

条文の文言のみで一義的に理解できない場合

 論証というのは、民法177条の「第三者」のように、条文の文言からではその意味を判別できない時に、条文の趣旨に立ち返り、理由を持って規範を立てるものです本問の条文の「」がなにに該当するのか一義的ではないからこそ論じる必要があり、その際は必ず条文の趣旨から論じましょう。

三段論法とは

 三段論法とは、まず①問題点を摘示し、②条文の趣旨等から検討してその問題点を判断するための規範を定立し、③問題文の具体的事情を規範に当てはめて、規範を充足しているかを認定する、という三段階で論じることをいいます。

2. 典型的なケースと本問のケースとの比較が出来ているか

 問題作成者は有名判例を元にそれを少しいじる形で問題を作成しています。そのため、誘導の有無にかかわらず、想起される有名判例との共通点及び相違点を摘示しながら検討が出来るととても高い評価になります。個別具体的に検討しましょう。
 何で今回は包丁じゃなくて角材なのだろうか・何で今回は当事者達が同族経営の問題になっているのだろうか・何で今回は持分割合が不均等なのだろうか、など具体的な事情の特徴を丁寧に拾う意識を強くもってください。

3.両者の視点に立って解いているか

 現場思考問題含め司法試験論文の完全攻略法は、『♯2 司法試験論文式試験とは何者?』で詳しく解説しているのでまずはこの記事を読んでください。  
 その上でなのですが、憲法で原告側のみ厚く書くが被告側では全く書かないといったように、当事者双方からの視点で物事を見れていない答案は高い評価が付きません。また、現場思考問題で自ら規範を導くときは、両者の衡平の観点条文の趣旨から導きます。しかし、多くの答案が一方にとって不利益過ぎるという点のみに着目し、その相手側自身にとって不都合に変更されてしまうことへの許容性に着目できていません。自分が相手側の立場であれば、え急に自分の事件だけ変えられるの理不尽だ!と思うのが自然ですよね。実務的な思考でいうと訴訟経済の具体化の一つとして控訴リスクを避けたいというものがあります。訴訟の長期化は勿論、第一審がある種徒労におわることになってしまうためです。だからこそ両者の納得感というのが何より大事になります。
 皆さんが覚えている規範がなぜ規範として成り立つかといえば、世の中の99%の事例はその規範で解決が出来るからです。つまり現場思考しないといけない状況(原則のままでは不合理な結論になる事態)というのはかなりのイレギュラーな事態です。そのような状況で国民から信頼をされる判決を下すには?そう、両者の納得感が必要です。一方向のみに有利な判決は、ある意味``贔屓``と捉えられかねません。そのためにこそ判決に至る論理は合理的でなければならず、それは両者の不利益・利益を衡量していなければならない、ということです。
 上述の実務家登用試験的な意味合いでいえば、判決で国民の信頼を得るように両者の意見・立場・不利益をしっかりと着目し合理的に判断出来る能力が見られているということです。

4.事実を摘示しきれているのか

新司法試験がなぜ旧司法試験と異なり、長文での問題が出されているか考えてください。それは、暗記できているか、論理構成が出来るかのみならず、実務家登用試験として、事案事の膨大な情報を適切に拾い処理できるかという能力を見ているためです。そのため、暗記ももちろんとても大事ですが、あてはめにおいて問題文の事実の評価だけではなく事実の摘示そのものにも配点があります。
 点を伸ばすためには、問題文の事実を「」で括り取り、加えて、「・・・」で省略を入れていくことで全ての事実を拾い切りましょう。過去問や演習問題を解いたときには、必ず答案例等を見て、自分が拾い忘れていた事実をリストアップしてください。それが0になるようになれば、ものすごく点数が伸びているはずです。
 よくあるのが一つの要件に一つの事実の摘示しかされていないパターンです。端的には書けているもののこれでは点数は伸び悩むことになってしまいます。

5.読みやすい字を書けているのか

 数年後には、タイピングでの記入となると思うので、あくまでも現段階での話になりますが、字の綺麗さはとても重要です。読みづらいと一文字一文字を解読するのに時間をかけることを強いられ、文章全体が入ってこず、大体こんな感じで書いているかと言う評価を受けることとなり、当然点数は伸び悩むことになってしまいます。
 字を早く汚く書くことで書き切れていると言うことは、そもそも、暗記の精度が低くて答案構成等に時間がかかってしまっていたり、問題文を何度も読み返すことで時間がなくなっていたりと、他の改善点がある可能性があります。
 また、書道的な綺麗な字や癖字を書く人が多分にいます。しかし司法試験は字の綺麗さを問われている試験ではありません。つまり書きたい字ではなく採点者にとってストレスなく読める字を書くことが求められています。
 書く字を改善すると言うのはソフトスキルのようですが必ず結果に結びつくので実践してみてください。具体的には、漢字・数字・平仮名すべて同じ大きさで書くこと、上の行の書いてある位置とそれぞれの文字の位置を合わせること、文字をその行の下線で合わせるようにするの、3点を意識して頂くと読みやすい字になりますので意識してみてください。

6.読みやすい一文になっているのか

 答案添削にちょくみられるのは、「〇〇といえるから、△△とも思えるが、□□だから、✕✕である。」というように一文が凄く凄く冗長な文章です。書いてある事自体は間違っていなくとも、このような文章は主語・述語・目的語がどれも複数になりとても読みづらいです。答案は井戸端会議ではないので、しっかりと一文につき一つの意味になるように、また、接続語を多用出来るようになりましょう。具体的には、①短文・②単文・③端文を意識してください。①一文は30文字以内、②一文は一つの意味、③主語と述語とが一つずつであるように意識すると良いです。
 自分で書いた答案だからこそ、自分の答案の読みづらさには中々気づくことが出来ません。そこで、上記の3つの基準に照らして自分の文章を客観的に見てみてください。

7.段落を変えられているか

 いやいや、国語の勉強かよと思ったかも知れません。しかしながら、司法試験の論文式になった途端全然改行が出来ない人が溢れています。
 段落が変えられていないとパラグラフ・リーディングが出来ないのでその点においても読みづらいです。
 しかし、それよりも段落を変えられない人の文章は構造的な文章が書けていないことにメインの問題があります。原告の事情書いて、被告の事情書いて、原告の事情書いてというように思いついた思考のまんま文章にしているからか、三段論法をそもそも解っていないからだと思われます。
 規範というのは色々なケースに対応できる基準としての役目であるにもかかわらず規範定立にあたって具体的な事情を盛り込んでしまっていたり、当てはめの中で持論を展開する人がいます。つまり、単に段落を変えるということを忘れているのではなく、段落で分けられないような文章を書いているから段落を変えられないのです。
『#12 司法試験答案構成のやり方』で答案構成のやり方について書いているので是非参照して頂けたらと思うのですが、おそらく段落を変えられない人は答案構成が出来ていないと思います。答案構成を出来るようになりましょう。
 また、自分の答案を見返して、答案と全然違う場所で同じ事実を書いていないか等自分の文章が構造的になっているのか確認してください。

8.適式に書けているのか

  • ナンバリングは、第1→1→(1)→ア→(ア)の順で書くことが決められています。例外はありませんので必ずそうしましょう。勉強始めたての頃はナンバリング(ア)までで収まらない!と思ったりもしましたが、これは答案構成の不十分さのためです。しっかりと論理的に書いてもこの5段階までで必ず収まります。

  • 挿入する文章があるときは、(以下5頁目5行目以下から挿入)と挿入される側に書き、挿入物については(以下3頁目3行目に挿入)と頭に書くとわかりやすいです。まとめて数行も消して書き直すとそれだけ手も心も時間も奪われるのでこのやり方を覚えてしまうのが良いです。

最後に

 去年0.何点で司法試験に落ちた人が話題になりました。試験は誰しも苦しいですし緊張も極限状態です。誰も彼もそうであり、あなただけではありません。一つ一つ丁寧に頑張れば合格は見えてきます。最後の最後まで走り抜いてください、応援しています!
気になることや相談したいことはお気軽にDMで送ってください。 
あなたの合格を心より祈っています!

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