ウェディングドレスと大都会、そして軽トラのおっちゃん
あれは9年ほど前、披露宴を終え、ウェディングドレス姿で2次会へ向かう最中のこと。
とんでもなく方向オンチな私は、タクシーを降ろされた場所から歩いて1分ほどの会場にたどり着けず、迷子になった。
もちろん夫も一緒だったけれど、ほぼ初めての場所。慌てて担当スタッフに電話をかけに行き、東京の大都会、ビルが建ち並ぶ大通り沿いでまさかの1人ぼっちになった。
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ええ歳をした大人。「助けてー」と泣きわめくわけにもいかないから困ったもんだ。
「まぁ、助けを求めたところでムダやしね」
大阪から上京してすでに10年ほど経っていた私は、東京の冷たさに慣れていた。
そんなとき。
なかなか重みのあるウェディングドレスが、ふわっと軽くなった。
何事か?と後ろを振り返った瞬間、見知らぬおっちゃんとバチーッと目が合う。なんとおっちゃん、私の後ろにサッと立ち、両手でウェディングドレスの裾を持ってくれていた。
ベールボーイ・おっちゃんバージョンだ。
3秒ぐらいおっちゃんと見つめ合った後、大通りの脇に停められた軽トラに気づく。きっと、車内からウェディングドレス姿で立ちつくす私が見えて助けにきてくれたんだろう。なんて男前なおっちゃんなんや(行動が)。
「東京は冷たいとか決めつけて、ごめんなさい」
心の中で、ちょっと前の自分の思考に対して謝罪した。
「ありがとうございます」とお礼を言う私に、「気にすんな」とばかりに黙って2回うなずくおっちゃん。
と、そこに。
「大丈夫ですか?」「タクシー呼んできましょうか?」と、走って声をかけにきてくれた大学生らしき女性2人組。
事情を話していると、「ここまで迎えにきてくれるってー!」と、笑顔の夫が戻ってきた。
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2次会スタートギリギリで、大慌てやったからその後の記憶はあやふや。けれどあの日、私は間違いなく東京の温かさを感じ、救われた。自分の限られた世界で、物事を決めつけたらアカンな。
軽トラのおっちゃん、大学生らしき2人組、ほんまにありがとう。