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近代五輪の父クーベルタンが感化!英国人医師とウェンロック・オリンピック

 オリンピックが自国で開催するという実感が全く湧きません!が、あらためて、近代オリンピック開催に大きな影響を与えた、英国の医師と小さな町で開催されている大会に注目したいと思います。
 
 9年前、2012年にロンドンオリンピックが開催されるにあたり、掘り起こされた歴史的事実が、近代オリンピックの祖ピエール・ド・クーベルタン男爵がイギリス中部にある人口3000人の小さな町、マッチ・ウェンロックで行われていた近代オリンピック開催の着想を得たということでした。

 ロンドンオリンピックのキャラクターは「ウェンロック」。近代オリンピックの発祥はイギリスにあるという想いを込め、シュロップシャー州にあるマッチ・ウェンロックから名前が付けられました。この町では1850年からオリンピックを意識したスポーツ競技会が開かれていたのでした。

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 その競技会を開いたのが、地元の医師、ウィリアム・ペニー・ブルックス。予審判事も務めた篤志家で、社会問題にも関心が高く、健全な心身にはスポーツ教育が欠かせないとの信念から、1850年、Wenlock Olympian Class(後にWenlock Olympian Society)を組織、身分関係なく参加できるスポーツ競技会を開催。陸上だけでなくサッカーやクリケットから輪投げまでイギリスの伝統競技も競われ、当初は観客を楽しませるために一般参加の手押し車競争、賞品の紅茶をかけたおばちゃんたちの徒競走もありました。参加者や応援隊、関係者による行進も重要な要素でした。

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 徐々にロンドンやリバプールからなどシュロップシャー州以外からも参加するなど範囲も拡大。1868年からは五種競技も加え、メダルも授与されるようになりました。

 もともと18世紀以降のヨーロッパでは聖地オリンピアへの憧れから、古代オリンピック復興の機運があり、イギリス以外にもローカルな大会は行われていました。そのなかでブルックスは、1859年にアテネで行われたオリンピア競技会(ザッパスオリンピック)に賞金を送るなどギリシャと交流していました。

 1865年にブルックスはイギリスオリンピック委員会の前身、ナショナルオリンピアンアソシエーション(NOA)を設立。翌1866年には1万人を集めた全国規模の競技会をロンドンで実施するに至り、さらには国際的なオリンピック復興を、できればギリシャでと願っていたのでした。

 一方、近代オリンピックの祖となったクーベルタンは1883年、20歳のときに視察で訪れたイギリスのパブリックスクールのスポーツ教育に影響を受けます。ラグビー校で見たのはまさに「トム・ブラウンの学校生活」(1857年発行、トマス・ヒューズ著)の世界で、ここでスポーツによる教育の重要性を実感するのでした。

 クーベルタンがブルックスと出会ったのが1889年。そのときには体育教育国際会議(International Congress on Physical Education)のまとめ役となっていたクーベルタンが英国式の体育教育の調査のため、新聞で情報を募ったところにブルックスが反応。1890年10月のウェンロック・オリンピックにクーベルタンを招待、式典や入場行進、メダルの授与もあった競技会を見てクーベルタンはオリンピックの着想を得たといいます。

 競技会の後、マッチ・ウェンロックでクーベルタンとブルックスは古代オリンピックの精神を復活させる近代オリンピックの構想を共有したそうです。このときブルックス81歳、クーベルタンは27歳でした。

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 その後クーベルタンは1894年、パリ大学ソルボンヌ講堂で行われたスポーツ組織の代表者が集まる会議で、オリンピック復興を提唱する演説を行い、国際オリンピック委員会(IOC)が設立。1896年にアテネで第1回のオリンピックが開催されました。ブルックスはこのオリンピックを見ることなく、開会式の4か月前にこの世を去っています。

 パリ大学での会議から100年後の1994年、当時のサマランチ元IOC会長もこの地を訪れ、「近代オリンピックの創始者であるブルックス博士に敬意を捧ぐ」との言葉を残しています。日本のJOCからも担当者がこの地を訪れ、東京都もリサーチャーを送っているそうです。

 ではいったいなぜ、ブルックスとこの大会がこれまで語り継がれなかったのか。現地の人によると高齢だったブルックスはIOCの会合に出られず、オリンピック開催前に亡くなり、公式記録に名前が残らなかったことが大きいそうです。さらにクーベルタンが重要ポストについて以降(クーベルタンは第2代IOC会長)、公にはブルックスの貢献に言及しなかったこともあるようです。
 
 ウエンロック・オリンピック、中断はありましたが、1977年から再開、2021年の今年も第134回のウェンロック・オリンピック競技会(Wenlock Olympian Games 2021)も開催されます(一部のみ7月に実施、多くが9月に延期)。

 巨額を投じる国家事業となったオリンピックが開催される一方、コマーシャル化されずに、創設時の精神だけを残したオリンピックの大会が今もイギリスの小さな町で開催されているのです。ブルックスと競技会に関する資料は中世の雰囲気を残す町にあるミュージアムで展示されています。

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 ウェンロック・オリンピックに関する資料は公式サイトから。

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