(要旨)有機電気化学トランジスタのチャネル電極表面における生体分子認識界面の創製

1. 緒言 

近年、電界効果トランジスタ(FET)を用いたバイオセンサに関する研究が数多く報告され、診断および予防医療への応用が期待されている。
バイオセンサは、検出対象・生体分子認識界面・検出デバイス3つの要素から構成される[1]。
ポリ(4-スチレンスルホン酸)(PSS)をドープしたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT:PSS) は導電性高分子の1つであり、生体分子認識界面としてその柔軟性を活かした有機電気化学トランジスタ (OECT)のチャネル材料として広く利用されている[2]。
OECTはチャネル部が溶液と接触し電解質中のイオンの導入によりその電気特性が制御される。
そのためバイオセンサとして応用される場合、その多くは溶液を介して設置されるゲート電極(従来の FETバイオセンサにおける参照電極)表面に生体分子認識界面が設けられている。
しかしながら、生体分子やイオン固有の電荷を直接認識するためには、チャネル電極表面における生体分 子認識サイトを化学的に導入する必要がある。
そこで本研究では、OECTバイオセンサにおける PEDOT:PSSチャネル電極表面の生体分子プローブ固定のための化学修飾法を確立することを目的とする。


2. 実験方法

チャネル材料として使用する PEDOT:PSSにポリビニルアルコ ール(PVA) を含有させ、スピンコーティングしたガラス基板[3]の3種類を用意し、各表面にシランカップリング処理を施した(図 1)。
ここで用意した3種類を、PVA 混合比率の異なるものとオーブン処理を行わないものとに分類し、その後静的接触角測定において変化の観測がしやすいデカンチオールを修 飾した。各Stepごとに静的接触角測定を行い、シランカップリング処理による各基板表面の濡れ性の変化を調査した。 

図1

図1 PVA添加による化学修飾スキーム

3. 実験結果

PEDOT:PSS:PVA 上にシランカップリング反応が起きて いる様子を図2として示す。
3Gと3Eを比較すると、GOPSの導入をした時のみデカンチオール修飾によって 接触角が増大していることが確認できる。
PVAの混入比率やオーブン処理を変更させた場合も同様にデカンチオー ル修飾による変化が GOPS 導入時に確認できた。

接触角

図2 各状態における静的接触角 

4. 結言

本研究では PEDOT:PSS 上に化学修飾を行い、機能化を進めていく上での修飾方法の確立を行った。 
今後様々な測定を行うことにより、有機電気化学トランジスタの生体分子認識サイトの導入への足が かりとなることが示唆される。

参考文献

[1] Sakata, T. ACS Omega (Perspective) 2019, 4, 11852–11862.
[2] Gualandi, I.; Tonelli, D.; Mariani, F.; Scavetta, E.; Marzocchi, M.; Fraboni, B. Scientific Reports 2016, 6, 35419.
[3] Strakosas, X.; Sessolo, M.; Hama, A.; Rivnay, J.; Stavrinidou, E.; Malliaras, G. G.; Owens, R. M. J. Mater. Chem. B 2014, 2, 2537– 2545.

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