青春はご都合主義。『夜は短し歩けよ乙女』を観てきた。
『夜は短し歩けよ乙女』と出会ったのは、もう10年前だろうか。高校の図書室で見覚えのあるイラストの表紙を見つけたのだ。当時ぼくは、ロックバンドASIAN KUNG-FU GENERATIONの曲を毎日毎日聴いていた。友達を作るためにアジカンを聴き始めたのだが、いつの間にか好きになり、生活の一部になっていた。CDを集めていくうち、そのジャケットに描かれるイラストが好きになった。細かくて綺麗な線と、すこしか弱く見えるけど、色気があって、強い意志を感じる横顔の女性のイラスト。調べたら、中村佑介という人が描いたものだった。CDを集める楽しみが増えた。どんな曲なのか、どんなイラストなのか。いつの間にか、どちらにも夢中になっていった。だから、図書室に並ぶ表紙を見たとき、すぐに同じ人のイラストだとわかった。色白で、明るくて、今にも歩き出しそうな女性が描かれていた。読みたいと思いながら、結局読まなかった。
再会したのは、大学生の頃だ。大阪の大学に進学し、一人暮らしをはじめていた。相変わらずアジカンを聴いていたし、ライブにもいくようになった。大阪は堀江にあるお店に、中村佑介さんのポストカードが売っているとわかれば、街に出るたび立ち寄り、数枚ずつ買っていた。ますます夢中になっていた。
福井への帰省の際、移動時間の暇つぶしにと、梅田の紀伊國屋をふらふら回っていると、懐かしい本を見つけた。2度も会えば読むしかないと、それを手にとった。帰省のバスの中、貪るように読んだ。大阪に暮らす冴えない理系学生だったこともあり、妙な親近感と共感もあった。なによりおもしろかった。
本はおもしろい。正直いえば、あまり本を読んでこなかったぼくにとって、自分自身がそう思うことに驚いた。それから、すこしずつ本を読むようになった。
しばらくして、また、出会った。
梅田の劇場で『夜は短し歩けよ乙女』の舞台があったのだ。思いきって飛び込んだ。初の舞台鑑賞だった。
他人からみれば、なんだそれくらいと思われるかもしれないが、ぼくにとっては他の世界への大きな一歩だった。
アジカンで繋がった中村佑介さんのイラスト。中村佑介さんのイラストで繋がった本。そしてその本から別の本へ、そして舞台。世界がすこしずつ広がっていったように思う。まさに、ご都合主義者、かく語りき。と言われるかもしれないが、全部が、繋がっているように思えた。
映画『夜は短し歩けよ乙女』観て思い出したのは、この物語と出会うまでの繋がりと、この物語によって繋がったものだった。同時に出会った頃の感情と、それとともに過ごした日々だった。
孤独と虚しさ。頭でっかちの阿呆。性欲。ありあまる時間。
偶然の出会いと、"誰か"との繋がり。世界との繋がり。あと先考えない馬鹿げた行動。恋。まるで一夜のように過ぎ去る時間。
ぼくが観たのは奇想天外な物語のアニメ映画であるけれど、映画を通して観たのは、ぼく自身の、いわゆる青春時代だった。そして、あの頃の自分から、
夜は短し歩けよ
俺! と背中を押されている気がする。
それにしても、黒髪の乙女はとても可愛かった。そして、自分の頭の中にしかない本の世界を、誰かと共有できるっていいものだ。
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