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REALITY IS MAGIC

NEAT REVIEWから出版されたAnson Chenの作品集です。

Luke Jermayが序文を書いていることからも分かりますが、著者はマジックを通して本当の魔法のような体験を与えようとするスタイルのマジシャンで、この本に掲載されている作品も観客の体験に重きを置いている作品が多い印象です。

基本的にはメンタルマジックですが、予言、変化、移動、念動、復活などバラエティに富んだ現象の作品群で、演じるシチュエーションはホッピングや大人数のショー、友人に見せるようなカジュアルな環境と様々です。

どの作品も現象が明瞭で、観客が後から思い出したり誰かに伝えたりしやすいといった点は好みでした。

また、観客が選択する物とランダムに言った言葉の2つが予言されているTHOUGHT CRIMEや観客の選択が具現化するTHE FULL MOONなど興味深い構造の作品もいくつかあり、創造力を刺激されました。

このようにいい点もあるのですが、全体として見ると、現象とメソッドのアンバランスさが目立つ作品が多いと感じました。

例えば、先述のTHOUGHT CRIMEでは、観客の選択がそのまま予言という現象に結びつくので、選択のプロセスが非常に重要になる訳ですが客観的に見て自由な選択とは思えません。実際の演技を見たわけではないので、演者の態度やセリフによっては通用するかもしれないのですが、その辺りの詳細は書かれておらず、参照するべき本が書かれている程度です。
ただし、この作品のイントロで、理想には達していないというようなことを書いているので、選択のプロセスは満足していない箇所なのかもしれません。

この本で肝心の観客の体験という側面で見ても疑問が残る作品もあります。

例えば、誕生日のショーで演じられることを想定した作品があります。
現象としては、大勢の観客に言ってもらって決められた6つのプレゼントからさらにランダムに決められた1つが事前に誕生日の観客に渡していた箱の中に入っているという予言のような現象です。
用意しておくプレゼントは演者が自由に決められるので汎用性はあるのですが、この本の例ではiPad、パリ旅行、ブランドのバッグなどの中からxxが決められます。このxxは敢えて伏せますが、選択肢の中では1番(値段的に)価値が低い物なので、他のプレゼントがもらえるかもと期待しているとがっかりしてしまいそうです。また選択肢に上げられるプレゼントのサイズによっては箱に入るものではないので、最後に箱からプレゼントを出した時に、最初からxxが選ばれるようになっていてどうにか選ばされたんだと逆算されてしまいそうな気がします。

全体の流れとしても観客へ箱を提示するタイミング、プレゼントをランダムに決めるためのプロセスのタイミングが良くないように感じました。

観客の体験にフォーカスし、単純なトリックをいかに魔法的な体験として観客に提供するか、そして、いかに観客の記憶に長く残る体験とするかという著者の主張には同意できるところが多かったのですが、作品単位で見ると個人的には参考になる箇所が少なかったです。
同じような狙いを持った作品でWeberやThe JerxのAndyの作品と比較してしまい、それらの作品の方が優れていると感じてしまったのも要因かもしれません。

作品以外のところでは、支障がある程ではないものの、文書で書かれている例と写真の例が異なっていることがままあり、読む上で若干のストレスを感じることもありました。

全体的にネガティブな表現が多くなってしまったのですが、個人的に目指したい方向性は近かったですし、各作品も誰かに演じてみたわけでもないので、実際に(上手く)演じることができれば思っているよりもいい作品も多いのかもしれません。


念の為に書いておくと、装丁は美しく小口も黒で統一してあり本棚に飾っておくにはいい本です。

NEAT REVIEWでは現在売り切れですが、vanishingincでも買えます。

私が持っているのは第2版ですが、400部限定のようなので興味のある方はとりあえず確保しておいてもいいかもしれません。
NEAT REVIEWはなかなか再販しないイメージですしね。

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