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移籍による環境の変化と本塁打の関係

野手が他球団に移籍することにより、「球場が広く本塁打が出にくい球場から、球場の狭い本塁打の出やすい球場を本拠地とする球団に移籍するのだから、本塁打は増えるだろう」と予測するのは最もなことでしょう。

しかし、NPBにおいてはその通りに本塁打数が増加したケースがあまり思い浮かびません。

近年で目立つ例を挙げるとすると、2017年に本塁打の出にくいZOZOマリンスタジアムを本拠地とするロッテから、ホームランテラスを設置し本塁打の出やすくなったヤフオクドームを本拠地とするソフトバンクに移籍したA・デスパイネが、24本→35本へと本塁打数を伸ばし、本塁打王を獲得したくらいでしょうか。

昨年中日から巨人へと移籍した、2017年セリーグ本塁打王のA・ゲレーロは、ナゴヤドームに比べると本塁打の出やすい東京ドームを本拠地としたにも関わらず、本塁打数は伸び悩みました。

上記のように、本拠地となる球場が狭くなったとは言っても、必ずしもそれが本塁打数の増加につながらない例は存在します。

そのような例が存在する中でも、トータルで見ると球場の変化等の環境的な要因と本塁打の増減はどれほど関係があるのかについて、本noteでは解き明かしていこうと思います。

1.各選手の本塁打の増減

まずは、単純に移籍前と移籍後で本塁打数がどのように変化したかについて見ていきます。

今回対象としているのは、下記条件を満たした選手です。

期間:FA制度が導入された1993年以降選手:移籍前もしくは移籍後に二桁本塁打を放って、かつどちらのシーズンも300打席以上に立っている

そして、この条件を満たした選手についてまとめたものが、下記表①です。

対象としては57件存在し、複数回移籍を経験している選手は、その都度集計をしています。

また、単純に本塁打数を比較しようにも、打席数が違うと比較の意味をなさないため、1本塁打放つのに必要な打数を示した本塁打率を比較することで、本塁打ペースの増減について見ていきます。

早速、本塁打率を見ると、球場自体が非常に狭く、本塁打の出やすいとされる横浜スタジアムを本拠地とする横浜に移籍しているケースでも、本塁打率がむしろ下がっているケースも見受けられ、やはり狭い球場を本拠地とするチームに移籍したからと言って本塁打数が増えていくことにはつながらないようです。

反対に、広い球場を本拠地とする球団に移籍した場合でも、本塁打率が向上しているケースもあり、一筋縄ではいかなさそうです。

2.環境要因を排した形での本塁打推移

球場の規格は画一的なものではなく、様々な形が存在するため、上記のように単純に本塁打数や本塁打率の増減だけでは、語れない部分も多くあります。

ですので、ノイズである球場の規格の差や毎年変わる投打バランスを均一な状態にした上で、本塁打の推移を追っていきます。

球場の規格の差については、パークファクターによって補正をかけ、毎年変わる投打バランスについては、該当年の平均的な打者の本塁打数の変化から調整していきます。(※パークファクター、平均的な打者の本塁打数のデータはいずれも日本プロ野球RCAA&PitchingRunまとめblogさんより引用させていただきました。)

まずは、球場の規格の差を整えるために、パークファクター(以下PFと略)による補正を行っていきます。

なおPFは単年レベルだと、正しく球場の特性を捉えられない場合があるので、該当年から前後1年ずつの計3年の平均を取った数値をPFとして使用しています。

そして、PFによって本塁打数の補正をかけ、本塁打率を算出したものが表②となります。

表中のPF差分というのは、単純に移籍後の本拠地球場のPFから移籍前の本拠地球場のPFを引いたものを指し、高ければ本塁打は出やすくなり、低ければ本塁打は出にくくなるといった具合です。

本塁打率差分は、移籍前の本塁打率から移籍後の本塁打率を引いたもので、高ければ本塁打率は上昇していますし、低ければ本塁打率は下降していることを示します。

そして差分矛盾というのは、PF差分が高くなっている(=本塁打が出やすくなっている)にも関わらず、本塁打率は下降しているような、PF差分と本塁打率差分の間に矛盾が生じている場合×がつき、矛盾が生じていない場合は○がついています。

表②を見ると、矛盾が生じていない例は、31件/57件とおおよそ半分くらいとなっており、中々球場特性とマッチしない結果となっています。

次に毎年変わる投打バランスを均一にするために、平均的打者の本塁打数から本塁打率を割り出し、それを使用して補正をかけていきます。

そして、平均的な打者の本塁打率から補正をかけたものが表③となります。

補正のかけ方としては、移籍前の年の平均的な打者の本塁打率と移籍後の年の平均的な打者の本塁打率の差を取り、それを既に算出済みの本塁打率差分に足していくという形をとっています。

そして、それを再び差分矛盾という形で本塁打の出やすさと本塁打率の数値が比例関係にあるかチェックします。

その結果、25件/57件と矛盾を生じない件数が減少し、おおよそ44%にまで球場的な本塁打の出やすさと本塁打率の数値の変化が正の関係となっている件数が減少していることが分かります。

3.パワーの向上or減退はあったのか?

以上より、本塁打の出やすい/出にくい球場への移籍と本塁打率の変化は然程関係のないことが分かってきました。

環境面とはまた話が変わってきますが、本塁打率の変化には、移籍前年と移籍年でボールを飛ばすコツを覚えたのか急激にパワーが向上した、もしくは急激にパワーが衰えたという場合も考えられます。

最後にこの点についても考慮してみることで、結論へとつなげていきたいと思います。

まずは、移籍前と移籍後で大きく本塁打率の変動があった(±10以上)選手を列挙し、該当選手たちのその後3年の本塁打数/率についてまとめたものが表④となります。(※移籍後、その翌年プレーしていない選手は除く)

該当選手たちが、その後も同レベルの本塁打率をキープできているのかについて確認していきます。

その手法としては、移籍時の本塁打率とその後3年の本塁打率を比較することで、大きな差異(±10)が無ければ移籍年次にパワーの向上/減退があったと捉え、そうでなければ一時的にそのような傾向が出ていただけだと捉えます。

上記手法で該当選手を見ていくと、大きく差異の無かった選手は計5名おり、この選手らに限っては移籍のタイミングでパワーの向上/減退があったということになります。(本当は計6選手だが、打席数が29とあまりに少ないため、今回は対象からは除く)

今回の環境面から捉えることとはまた別の話になりますが、移籍したタイミングで新たな指導であったり、チーム方針の違い等でパワーが開花するもしくは減退してしまう例も複数あることが分かります。

4.まとめ

今回、球場とボール等の環境的な要因を極力排除したつもりで考えていきましたが、球場が狭くなれば本塁打が増えるなどの、どの選手でも当てはまるような法則はとりわけ見つかりませんでした。

例えばFA移籍であればそれに伴う重圧のかかり方の違いや、前後の打者の違い等で打撃が変化するケースも考えられるような、上述のような環境以外の要素も非常に大きく、それだけでは単純に本塁打の増減は測れないということでしょう。

ですので、現状は数値で可視化できていないような人間の感覚的な部分もここには大きく関係している可能性が高いと言えるのではないでしょうか。

最後に、投打バランスの補正部分はその手法にはかなり悩んだので、このような手法の方がより年度間バランスを補正できるという考えをお持ちの方がいらっしゃればご教授ください。

#野球 #プロ野球 #本塁打 #移籍 #球場

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