スイング率/コンタクト率の変化と打撃成績
突然ですがPlate Disciplineというワードを皆さんはご存知でしょうか?
投手の投球に対する打者のリアクションを表したデータのことで、投球に対してどれだけスイングを仕掛けたかや、どれだけバットに当てたや、空振りしたかといった項目に分かれています。
打者の選球眼や積極性/消極性を示すのによく用いられますが、基本的には打者各々に生得的なものであり、それを変えるのは容易ではないでしょうし、単純に打撃成績に結びつけられるものでもないと思います。
ただそんな中でも、打者のタイプによって取るべきアプローチは変化するのではでしょうか。俊足のアベレージヒッターなら、コンタクト率を高くしてインプレーを増やせるほうが良いでしょうし、パワーヒッターなら多少のコンタクト率の低さには目をつぶっても、強い打球を打つことを志向すべきでしょう。そうすることで、打撃成績にも変化が生じるように思います。
そこで本稿では、スイング率やコンタクト率といったPlate Disciplineデータの観点と打者のタイプを結び付けながら、どのようにこれらを変化させれば打撃成績の向上や低下に至るのかについて、探っていこうと思います。
1.検証方法
まずどのように検証を進めていくかについて、定義しておきます。
対象としては、2014年~2019年の両リーグで100打席以上の立った選手とし、年度間での打撃成績の変化とPlate Disciplineデータにどのような関係があるのか、確認していきます。
ここでの打撃成績は、年度間での打高・打低バランスや球場補正を考慮しているwRC+*を利用し、この数値の年度間での増減で打撃成績の向上や低下を確認します。
※wRC+とは‥打席当たりの得点創出の多さを、平均を100としてその増減により評価する指標。球場補正もかけられているため、打者の貢献度をより正確な形で把握することができる。
このwRC+とPlate Discipline各種データについて、相関関係を探っていくことでどのようなアプローチを行うのが、打撃成績を向上させるのに最適なのかを以下にて明らかにしていこうと思います。その後に、打者をタイプ別に分類しながら更に深堀りしていきます。
2.年度間の打撃成績の変化とPlate Discipline
では、まず年度間の打撃成績の変化とPlate Disciplineデータの関係を明らかにしていきます。
年度間の打撃成績の変化については、大きく向上させた場合と大きく低下してしまった場合の2パターンでデータを抽出し、両極端な2つのサンプルではPlate Disciplineデータにどのような違いがあるのかを、確認していきます。
打撃成績を大きく向上させた選手と打撃成績を大きく低下させてしまった選手の一覧は以下の通りです。
上昇幅と下降幅のそれぞれ上位10%をサンプルとして抽出しましたが、上昇幅のトップは2017年に打率.413と驚異的なアベレージを記録した近藤健介、下降幅のトップは前年OPS.924と好成績を収めながら、翌年はOPSを.412まで下げてしまった岡大海とそれぞれなっています。
これらの選手について、打撃成績と年度間のPlate Disciplineデータの変化の相関関係について確認していきましょう。
以上が、ボール球スイング率(O-Swing%)/ストライクスイング率(Z-Swing%)/スイング率(Swing%)/ボール球コンタクト率(O-Contact%)/ストライクコンタクト率(Z-Contact%)/コンタクト率(Contact%)/空振り率(SwStr%)について、相関関係をまとめたものになります。
成績が上昇している選手は、ボール球スイング率とスイング率において、相関係数が-0.4前後と中くらいの負の相関関係にあることが分かります。要するに、スイング率を落とすほど成績が向上する傾向にあるということです。
一方成績が下降している選手は、どの項目においても低い相関係数となっていますが、その中でも唯一高いのがボール球スイング率となっています。こちらも負の相関関係にあり、ボール球スイング率が上がるほど、成績の下げ幅が大きくなる傾向にあると言えます。
ということから、成績の向上や低下には、ボール球スイング率とスイング率が最も関係が深いのではないかと推測が付きます。ただ、一人一人のデータを見ると、スイング率が上昇していながらも打撃成績が向上している例も多くあり、かつ選手各々でアプローチの仕方が違うことを考えると、全ての選手を一緒くたには語れないようにも感じます。
ですので、ここからは選手をそれぞれスイング率とコンタクト率をベースとし4つに分類することで、その分類においてどのようなアプローチをとるのが最適なのかという点を検証していこうと思います。
なお、ここでボール球スイング率ではなくスイング率を用いているのは、この両者が相関係数0.84と高い相関関係にあり、どちらを用いても同様の結果が期待できることと、コンタクト率を用いる都合上、便宜的にスイング率を用いる方がよいと判断したためです。
3.打者のタイプ別の最適アプローチとは?
スイング率とコンタクト率を基に、打者のタイプを4つに分類していきますが、それは下記のように分類できると思います。(高低はリーグ平均と比較する形で判断しています。)
①スイング率高/コンタクト率高
②スイング率高/コンタクト率低
③スイング率低/コンタクト率低
④スイング率低/コンタクト率高
また2019年の打者データを基に、散布図に落とし込んだものからその特徴を探ってみると、①はビシエド、森友哉などアベレージタイプの選手が多い印象で、②はバレンティン、中村剛也に代表されるような長距離打者、③は柳田悠岐、山田哲人など四球も勝ち取れる長距離打者、④鈴木誠也、吉田正尚のような率も残せれば長打もある選手が多くいる一方、コンタクト率が上がるとともに中村晃や銀次といったアベレージタイプが増えている印象です。
総合すると、スイング率よりもコンタクト率でタイプ分けを行うことができ、もちろん例外はありますが、コンタクト率の高い選手はアベレージタイプ、コンタクト率の低い選手は長距離打者タイプという区分けがざっくりとできそうです。
この分類を基に、それぞれスイング率とコンタクト率の変化を確認していこうと思います。その前に、打者のタイプ分けと同様にスイング率とコンタクト率の増減についても、分類を行っておきましょう。
Ⅰスイング率UP/コンタクト率UP
Ⅱスイング率UP/コンタクト率DOWN
Ⅲスイング率DOWN/コンタクト率DOWN
Ⅳスイング率DOWN/コンタクト率UP
この分類と打者のタイプ別分類を組み合わせて、打撃成績向上者と低下者をそれぞれ比較したものが、下記表となります。
まず成績向上者について、打者タイプ目線で見ると、①はⅢとⅣの変化がほとんどで、スイング率を下げるアプローチが有効と言えそうです。②も①と同様にⅢとⅣの変化が75%を占めており、こちらもスイング率を下げるアプローチが有効と言えましょう。③はそもそもサンプル数が少ないため、これといったことは言えませんが、変化がⅠとⅣのみであることから、コンタクト率を高めることが有効なのかもしれません。最後に④はどのアプローチにも満遍なく分布しており、これといった傾向は見えてきません。
以上より、成績を向上させるには、スイング率の高い打者はスイング率を下げるアプローチが適切と言えるでしょう。一方、スイング率の低い打者はこれといった傾向は見つからず、様々なアプローチの仕方があると言えそうです。
成績低下者も同様に見てみると、①はⅡとⅢの変化が多く、コンタクト率の低下が成績低下を招いていると言えそうです。②ははっきりとした傾向はないものの、ⅠやⅡのスイング率を高めて失敗するケースが多いようです。③はⅠとⅡで75%を占めており、こちらはより明確にスイング率を高めて失敗する傾向が出ています。最後に④はよりはっきりとⅠとⅡの傾向に振れており、①以外はスイング率の上昇という点に成績低下の要因を求められそうです。
以上より、成績低下してしまう場合には、スイング率が高くコンタクト率も高いアベレージタイプの選手以外は、スイング率を高めることがマイナスに働いていると言えそうです。
タイプ別に分類したところで、コンタクト率はあまり関係なく、傾向としては相関係数の高かったスイング率をキーにする形で、成績の向上と低下が生じている形になっています。タイプ別にもあまり区別がなく、どのタイプでもスイング率の増減が成績の変化に繋がっている形になっています。
以上の結果は、何でもかんでもスイングするのではなく、積極的にスイングするにしろ狙い球やコースなど何かを絞った形でスイングすることが、成績の向上に繋がることを示唆していると言えそうです。
ですので、単純にスイング率を低く抑えた方がよいという偏った見方になるのではなく、自らの意思でスイングすべきボールをチョイスして、スイングするという過程を辿る必要があることは頭に入れておくべきです。当然ではありますが、闇雲にただ振らなければ、成績が向上するわけではないということです。
4.まとめ
・成績の向上or低下には、ボール球スイング率/スイング率が大きく関係しており、スイング率が低下するほど成績も向上する傾向にある
・スイング率とコンタクト率をキーに、打者をタイプ分類しても、元々スイング率の低い打者とスイング率とコンタクト率が高い打者を除いて、スイング率を落とすと良い結果になる傾向あり
以上が本稿のまとめとなります。
ここで見えてきたのは単なる傾向だけですので、今後はアプローチの変化によってもたらされる打撃成績の変化が、どのくらいと推定されるのかについて、もう少しデータ量が集まってくれば取り組んでみたいと思います。