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投手力で王朝は築けるのか?
1シーズンを戦い抜いて行く中で、投手力は当然ではありますが、非常に重要な要素となってきます。
試合単位で見ていくと、打線は水物とよく言われる通り打撃面はブレが大きく、計算が立つとは言い難いものです。
しかし、シーズン単位という長期的な視点で見ると、成績的には打撃の方が投手よりシーズンごとの相関性は高く、チーム単位で打撃が良いことが常勝軍団を築く基となるように感じます。
以前noteにも記しましたが、実際に、現在セリーグを3連覇中の広島は、野手の圧倒的な層を強みとしていますし、V9時代の巨人を見てもONを中心とした得点力が常に他球団よりも抜きんでており、それが他球団に対する大きな強みとなっていたことが分かります。
そこで、本noteではそのように感じるのは正しいのかについて、逆説的に打力が弱く投手力が強いチームにおいて、常勝軍団を作ることは可能なのかにを、過去の事例から探っていくことで、上記について簡単ではありますが実証したいきたいと思います。
1.失点数傑出度から投手力の強いチームを探る
上記を実証していくにおいて、まずシーズン単位での投手力の強さについて、単純に失点数という簡単からを比較しても、その年その年で環境は異なるため、チーム失点数がリーグ平均からどれだけ傑出していたかという観点から見ていきます。(投手力を測るという点からは、失点数で測るのは不適当なのでしょうがご容赦ください。)
そして、各チームの本拠地毎の球場特性の相違を考慮するために、それぞれに得点PFの補正を加えていきます。(PFの数値については日本プロ野球RCAA&PitchingRunまとめblogさん算出数値を参照)
※傑出度の算出は、PF補正後の当該年度優勝チームの失点数/当該年度のリーグ平均失点にて行った。
また1957年以前のものはPFが存在しないため、参考記録ではあるがそのまま記載している。
まず、セリーグ分をまとめたものが表①となります。
傑出度ランキングで見ると、1950年代や1990年前後の巨人がリーグ内で突出した投手力を保持していたことが分かります。
近年で言うと、2012年巨人は違反球の恩恵にあずかりながらも、傑出度では群を抜いており、チーム防御率換算では2点台の前半と驚異的な数値を記録し、上位にランクインしています。
下を見ると、リーグ平均以下の失点数でリーグを制したチームは少なく、わずか8チームにとどまっています。
ですので、リーグ平均以下の失点数ながら優勝を果たした昨年の広島は、珍しい例でもあったわけです。
続いて、パリーグ分をまとめたのが表②となります。
こちらもセリーグと同様に上位に1950年代の西鉄(現西武)が参考ながら多くランクインしており、相違点としては近年のチームである2011年ソフトバンクや2016年日本ハムがかなり上位にランクインしていることでしょうか。
中でも、1950年代の西鉄に関しては、稲生和久を中心に250イニング以上を投げ、防御率1点台前半を記録した投手が3人いた年もあり、打低時代という考慮点はありながらも驚異的な投手力を誇っていたことが分かります。
近年で言うと、こちらも違反球の恩恵にあずかりながらではありますが、上述の通り2011年のソフトバンクが和田毅・杉内俊哉らの豪華先発陣に加え、盤石のリリーフ陣で、トップ3に入るような高い傑出度を見せました。
また、2016年日本ハムも投手力が図抜けていたという印象はないながらも、大谷翔平を軸とした多彩かつ実力者揃いの面々が揃う投手陣で、上位に食い込んできています。
下を見ると、やはりセリーグと同様に、リーグの平均以下の防御率ながら優勝したチームは非常に少なく、昨年の西武で4チーム目となっています。
昨年のプロ野球は、両リーグともにリーグ平均以下の防御率のチームが優勝するという、非常に珍しい年だったわけです。
2.投手力の強かったチームの中で打力の弱かったチームは?
次に、優勝チームがどれだけの得点力を保持していたのかを明らかにすることで、打力が弱く、投手力が強いチームを捜索する足掛かりにしたいと思います。
その手法としては、失点計測時と同様の手法を用い、今回は得点数から傑出度を算出していきます。
まず、セリーグ分をまとめたのが表③となります。
失点傑出度計測時と同様に、1950年代のチームが上位を占めており、当時リーグ5連覇を果たした巨人が、投打ともにどれだけ抜きんでた存在であったかがよく分かります。
その中で、近年では唯一といっても良い上位ランクインのチームが、2017年の広島です。
実に平均よりも1.3倍近くの得点を挙げており、それだけの得点力を持っているわけですから、3連覇を達成するのも頷けます。
下位を見ると、1980年代後半から1990年代前半の黄金時代の終わりかけに優勝した広島が複数回ランクインしています。
山本浩二・衣笠祥雄といった主軸が高齢化による衰えや引退するにあたって、得点源となる主軸の野手が中々出てこなかった時期で、北別府学・大野豊・川口和久らの強力な投手陣や全体的な守備力の高さによって、優勝を勝ち取っていたのでしょう。
続いてパリーグ分をまとめたものが表④となります。
パッと見ると1980年代~1990年代前半の西武黄金期から複数回上位にランクインしていることが分かりますが、驚きなのが2003年ダイエーのダイハード打線や2018年西武の山賊打線を上回るほどの破壊力を見せていた2005年ロッテのマリンガン打線です。
これと言った傑出力を持った選手はいませんでしたが、中距離打者を揃えた野手編成に加え、野手の層の厚さで他のチームを圧倒し、球場特性による補正も相まって、歴代トップの数値を記録しました。
2018年西武の山賊打線は、PFによる補正抜きにすると傑出度はトップになるのですが、西武ドームが比較的得点が生まれやすい球場という影響を受けて傑出度で見ると順位は後退してしまいました。
下位を見ると、福岡移転後初優勝から連覇を果たした1999年・2000年のダイエーがランクインしています。
福岡ドームという球場の環境を考えても、得点力は低迷しており、かと言って投手力に優れていたわけでもないので、連覇できたのが謎なようにも見えててきますが、おそらくこ得点と失点という数字には表せない強固なリリーフ陣による接戦への強さがこのチームの強みだったのでしょう。
そして、以上のデータを基に得点力傑出度が平均以下かつ失点傑出度が平均以上であったチームについてまとめたものが表⑤です。
以外なのが、落合政権時に黄金時代を築いた中日が2010年のみのランクインとなっている点ではないでしょうか。
よく投手力のチームであると称されていましたが、ナゴヤドームという傘の中に隠されていただけで、球場特性を除くと実は投手力というよりは打撃力に優れていたということでしょう。
3.投手力で王朝は築けたのか?
そして、本題である投手力で王朝は築けたのかという点について、ここからは検証していきます。
まず、王朝の定義についてですが、今回は当該年から5年間で3度以上の優勝を記録したら王朝とします。
ですので、現在にこれを当てはめると、セリーグでは広島が王朝を築き、パリーグではソフトバンクが王朝を築いているということになります。
では、王朝の定義が固まったところで、上述した得点力に乏しく投手力が強かったチームの優勝後の5年間をたどっていきます。
ここには、得点力に乏しく、失点数の面から見て特段傑出力が高くないにも関わらず、接戦への強さから優勝を勝ち取っているチームもあり、そのようなチームは今回は対象外とします。
ですので、対象としては、失点数の傑出度が1.1倍以上のチームを今回は対象とします。
そして、その対象チームとその後の順位変遷をまとめたものが表⑥となります。
この中で王朝の定義に当てはまるのは、1975年の阪急と1985年の西武と1993年の西武で、阪急はリーグ4連覇の黄金期にあたり、西武は10年間で9度優勝を遂げた黄金期にあたります。
では、翌年以降の得失点の動きを詳細に見ることで、該当年と同様に投手力を強みとして勝ち続けてきたのかについて検証していきます。
翌年以降の傑出度の推移についてまとめたものが表⑦となります。
1975年の阪急は、投手力も優秀な数値を残していますが得点力も翌年以降は傑出力は高く、総合的に優れていたことが分かります。
1985年の西武は、投手力だけでなく得点力の傑出度も高く、阪急と同様に総合的に優れたチームであったことが分かります。
1993年の西武は、投手力に優れながらも得点力の劣る1995年と1996年は優勝を逃しており、1993年と同様の得失点傑出度の傾向ながら優勝できていないことが分かります。
このような傾向を見る限りは、得点力には乏しくとも投手力を大きな強みとして王朝を築くのは難しく、野手も含めた総合力が必須であると言えるのではないでしょうか。
4.まとめ
投手力で王朝は築けるのか?というタイトルの元、過去の事例より実証していきましたが、やはり最初の感覚通り、投手力だけで王朝を築くのは非常に難しいことが分かりました。
得点力に乏しく投手力を強みとして連覇したチームも、1999年~2000年のダイエーのみであり、投手力をすり減らしながら連続的に強さを維持するのは本当に難しいことです。
ですので、チーム作りとしては、やはりしっかりコアとなる野手を作り上げることを第一に置くべきではないでしょうか。
そうすることで、投手の負担も減らすことができ、戦力の連続性が維持できることで王朝への第一歩を作り上げられるのではないでしょうか。