出塁率が高すぎるのも考えもの?
昨年、丸佳浩が実に130もの四球を選び、出塁率は2000年代では2015年に柳田悠岐が記録した.469に迫る.468を記録し、その驚異的な四球奪取力と出塁率の高さが注目されることとなりました。
それに加えて、それまでは中距離打者という位置付けであった丸が、大きく本塁打数を伸ばし、最終的には自己記録を16本も上回る39本もの本塁打数を記録するなど、驚異的な活躍を見せたのは記憶に新しいでしょう。
しかし、シーズン終盤には打撃を崩し、途中本塁打王争いのトップを走っていたのをN・ソトにその座を明け渡し、9/15には.331あった打率も最終的には.308まで落ち込んでしまいました。
丸は、週刊ベースボール内での菅野智之との対談内で、2018年は出塁率が高く、塁上にいることが多かったため、疲れたという趣旨の発言をしており、走る野球を求められる広島というチームの中で、一塁に出塁して投手にプレッシャーをかけ続けることは、身体的な負担がそれなりにあったものと推測されます。
そのような点が多少なりとも影響して、シーズン終盤の打撃成績の下降が起きたのではないでしょうか。
そこで、本noteでは、丸と同じようなパワーとスピードを兼ね備えた過去の選手たちが高出塁率を残した場合、翌年の成績はどのように推移したのかという点に着目して、高出塁率がどれほどの影響を与えるのかについて述べていきたいと思います。
1.高出塁率を記録した過去のパワー&スピードタイプの選手
まず、歴代で見ても上位に入る高出塁率を記録した、過去のパワー&スピードタイプの選手を洗い出していきます。
その前に、パワー&スピードタイプの選手とする条件としては、過去に1シーズンでも20本塁打-20盗塁(以降20-20)を達成したことのある選手とします。
そして、シーズン歴代出塁率TOP100内で、上記に当てはまる選手を抜き出したのが下記表①となります。
複数回ランクインしている選手もいますが、今回はその中でも最高の出塁率を記録したシーズンのものを採用しています。
また、右に出塁率傑出度を示していますが、これは「日本プロ野球RCAA&PitchingRunまとめblog」さんからデータをお借りし、プロ野球を長期的に見た際に最も平均的な出塁率はおおよそ.330であり、平均出塁率が.330の環境の際にはどのような数値を残したかを推定したものになります。
丸を含め対象は全14名で、1950年前後に活躍したプロ野球黎明期のスター選手と、2000年代に活躍したような割と最近の選手の二層に固まっているような印象を受けます。
傑出度で見ると、打低時代に高出塁率を残した大下弘や長嶋茂雄が上位に食い込んでくるという様相を呈しています。
2.翌年との成績比較
それでは、上記に示したような選手たちが、翌年どのような成績を残したのかについて、まとめたものが下記表②となります。
表中のOPS傑出度も、出塁率傑出度と同様にして算出されたものになります。
毎年記録されるOPSを比較しても、その年によって打高投低のシーズンであったり、投高打低のシーズンであったりと様々なため、今回はこのOPS傑出度を用いて、同一環境下であるとの仮定から成績を比較していこうと思います。
そして、成績比較において、どのくらい数値が変化すれば成績が上昇/下降したとみなすのかという点については、OPS傑出度が前年比±.100を超えると成績が上昇/下降したとみなすこととします。
そのような点から見ていくと、今回対象で比較可能な12選手中*成績上昇者は0人で、±.100の範囲内に収まった選手も、山本浩二と井口資仁のみという結果となりました。
※丸は昨年の成績のみ、イチローは翌年MLB移籍のため、比較不可
高出塁率を残したシーズンの成績レベルが非常に高いため、中々このレベルの成績をキープするのは難しいというところでしょうが、ここまで顕著だと、前年の出塁のし過ぎによる疲労の影響というのも関係あるのかもしれません。
また、高レベルな出塁率を残すために必要な、四球を選ぶという観点から、打席に立った中で四球を選んだ割合を示すBB%についてまとめたのが表③となります。
前後の打者の弱さやよりマークが厳しくなったことから、勝負を避けられがちであった2016年の柳田悠岐以外は、どの選手も数値が下がっており、より自身のレベルアップを目指すために、選球というよりも自分が打つことに重点を置いた結果、多少打撃を崩してしまったということなのでしょうか。
3.シーズン終盤からその傾向は出ていたか?
冒頭にて、丸がシーズン終盤に打撃を崩したという話をしましたが、上記にて成績を下げたと判明した選手たちにも、同様の傾向は出ていたのかという点を検証していきます。
高出塁率を残したシーズンの出場LAST20試合において、どのような打撃成績を残したのかについて、まとめたものが表④となります。
明確に数字を落としたのは、OPS.700台にとどまった丸と長嶋茂雄くらいで、その他の選手たちはシーズン終盤でも疲れを見せずに打ちまくっていたことが分かります。
ですので、シーズン終盤から翌年不振に陥る一端が現れ始めたわけではないことが分かります。
このレベルになると、タイトル争いも絡んでくるため、集中力も途切れることなく打席に臨んでいけたのでしょう。
4.2019年丸佳浩の成績はどうなる?
丸と同様に最終盤に大きく成績を落とした長嶋は、翌年から打撃開眼した王貞治とON砲を組むこととなり、後ろ盾となる存在が現れたにも関わらず成績を落としており、翌年は単に不調であったことが分かります。(それでもOPS傑出度は1.016と高水準ですが)
また、丸と同様に多くの四球を選ぶことで出塁率を稼いでいた金本知憲は、翌年四球の数を半減させて、より積極的に打ちに行った結果、打撃成績は下降してしまっています。
サンプル数は極小ですが、丸と似たような傾向を示していた選手は、翌年OPS傑出度比較で成績を落としてしまっています。
丸もタナキクや鈴木誠也に囲まれていた広島時代と同様に、坂本勇人や岡本和真など優秀な打者が前後を固めるでしょうから、自分の打順周辺の打者が弱体化したため、勝負してもらえずということは考えづらいですが、環境が変わったことが影響して自分で決めようとし過ぎて打撃を崩す恐れはあるでしょう。
5.まとめ
①対象全選手中、翌年に成績を伸ばした選手は皆無で、大きく成績を落としてしまっている選手も多いが、そもそもの成績レベルが高すぎて再現が難しいレベルである。②四球を選びに行くよりも、より打ちに行った結果、前年比で多少打撃を崩してしまう?③シーズン終盤は、その年の良好な打撃状態を維持できており、不調に陥る選手は多くない。
当初の見立てでは、パワー&スピードタイプの選手においては、疲労という面も多少翌年の成績に影響があるのではと考えていましたが、その点は成績推移からも見立て通り多少影響はあるのでしょうが、基本としては前年がキャリアハイレベルの成績のため、同様の成績を残すのが難しいというところでしょう。
ただ、疲労によって前年の上手く行っていた打撃フォームの再現が叶わず、成績の低下を招いた可能性もあるため、もしかしたら疲労という部分は非常に大きな要素となっているのかもしれません。
もしそうであるとしたなら、パワー&スピードタイプの選手があまりに突出した出塁率を残してしまうことは、翌年の成績低下をもたらす因子となると言わざるを得ないのではないでしょうか。