見出し画像

左腕投手育成と左腕投手コーチ

ポスティングシステムにより、今季西武からマリナーズへと移籍した菊池雄星が、投手として本格化したのが今から2年前の2017年でした。

その本格化の要因として、各種メディアにて取り上げられたのが、一軍投手コーチであった土肥義弘の存在です。

2015年のコーチ就任以降、二人三脚でフォーム改造に取り組んだ結果、腕を振るのではなく体に巻きついて振られるフォームを身につけ、ストレートの球速アップとスライダーのスラッター化に成功し、MLBへの扉をこじ開けました。

そんな中、飛躍の要因について追求する記事の中で、下記のような記事がアップされていました。

記事の内容としては、土肥コーチと信頼関係を築いていく中で、同じ左腕投手としての悩みを共有しながらも、左投手と右投手の間には左右非対称であるという根本的な人体構造の隔たりから、身体の使い方が異なり、感覚的にも共有できない点の解決のため、PRI理論を取り入れ、左投手に適した身体の使い方を変えたことが飛躍に繋がったのではないかとするものです。

この記事を見て思ったのが、NPBにおいて投手コーチが左右別に分けて置かれることはなく、技術的な指導面を考えれば、分けて置くのも一考の余地があるのではないかということです。

そこで、左腕投手の育成と左腕投手コーチの存在には何かしらの関係があるのかについて以下にて検証していこうと思います。

1.各球団左腕投手コーチの存在

左腕投手の育成と左腕投手コーチの存在との関係を明らかにしていくために、まずは各球団の左腕投手コーチの存在をはっきりさせたいと思います。

※申し訳ありませんが、表が大きすぎて見えにくくなっております。

1966年以降、各球団ごとに一軍二軍それぞれ左腕投手コーチがどれだけ在籍していたかを示したものが表①となります。

ヤクルトや中日には、一軍二軍ともに継続的に左腕投手コーチが在籍している一方、ロッテは、54年間で片手で数えられそうな年数しか左腕投手コーチが在籍しておらず、球団によってはかなり隔たりがあることが分かります。

また、年度別に見ると、1980年代あたりまでは、広島・阪神・西武・ロッテ・近鉄といった球団には、ほとんど左腕投手コーチが在籍していないことが分かります。

その後、支配下選手数の増加や、育成選手制度の創設に伴うコーチ枠の増加によって、各球団それぞれ左腕投手コーチを置くケースが増え、2019年シーズンを見ると、横浜とオリックスと楽天以外の9球団は一軍から三軍の中に一人は左腕投手コーチが所属するなど、その重要性を各球団認識を始めたのかもしれません。

2.各球団の左腕投手育成能力

次に各球団がどれだけ左腕投手を育成した実績を持っているのかを確認していきます。

ここでの育成成功の基準は、ドラフト制導入以降入団した左腕投手の内、通算30勝もしくは200試合登板者とします。

そして、球団ごとに育成に成功した左腕投手をまとめたものが表②となります。

中日やヤクルトといった、一軍二軍ともに左腕投手コーチが長期にわたって在籍している球団は、比較的多くの左腕投手を育成成功に導いていることが分かります。

球団創設15年目の楽天は、既に6名の左腕投手が育成成功の基準を満たしており、球団創設から継続して左腕投手コーチを置いてきたことが功を奏しているのでしょうか。

一方、横浜・オリックス・ロッテといった、育成に成功した左腕投手を一桁しか輩出できていない球団は、いずれも二軍に左腕投手コーチが在籍している割合が低くなっています。

育成の場である二軍において、左腕投手特有の動作や悩みへの指導ができない状態にあったため、育成に成功した投手が少ないことが窺えます。

そんな中、一軍二軍ともに左腕投手コーチが在籍している期間が長くはない阪神が、トップの16名の育成に成功している点は興味深いです。

球団として、左腕投手の育成メソッドを確立させているのか、もしくは大卒・社会人の投手の割合が高いことから、この投手なら活躍するというスカウトの眼力が素晴らしいのでしょう。

しかし、以上のデータのみでは、各球団の獲得左腕投手の差がハッキリしていないため、各球団のドラフト獲得人数から成功人数を割り出したものが表③です。

おおむね、成功人数の多さと相関する形となっており、やはり阪神や楽天の育成や眼力が光る形となり、横浜・オリックス・ロッテは中々育成が上手く行っておらず、素材を見る目にも問題があるのかもしれません。

3.左腕投手と左腕投手コーチの関係

ここからは、本題である左腕投手育成と左腕投手コーチの間にはどれだけの関係があるのか、について考察していきます。

左腕投手の育成成功人数と、左腕投手コーチ在籍人数を散布図に落とし込んだモノが表④です。

サンプル数が13球団分のみのため、正確性には欠けますが、両者には然程強くはないものの正の相関(相関係数は0.39で弱い相関ありに分類される)があることが分かり、やはり左腕投手コーチを置けばある程度は左腕投手も育ちやすくなることが分かります。

また、年代別にコーチ在籍人数を見ていくと、セリーグでは2000年代から、パリーグでは1990年代から大きく増え始め、2010年代には中日・西武の2チームには毎年一軍二軍ともに左腕投手コーチが在籍しているなど、コーチポストの増加の煽りを受けてか、左腕投手コーチの人数も増加していることが分かります。

そのためか、2000年代以降を主戦場として成功基準を満たした左腕投手の数は62名/135名と、全体の成功投手の半分近い46%が活躍を見せており、単に大学や社会人で即戦力級の左腕投手が多くいたという事情もあるでしょうが、多少なりとも左腕投手コーチの増加も成功の増加に寄与しているのではないでしょうか

また、この関係を解き明かす上で、上記の通り2010年代を通して中日・西武の2チームが一軍二軍ともに左腕投手コーチが在籍していたことは見逃せないでしょう。

中日は、大野雄大・岡田俊哉といったドラフト1位左腕が2010年代に戦力化に成功していますが、それ以外はそもそもこの期間の獲得人数も多くなく、かつ山本昌や岩瀬仁紀といったレジェンドの存在が育成の妨げになったのか、育成に成功しておらず、然程成果が出ていません。

左腕投手コーチを置いた意図として、左腕投手の育成という点をあまり加味していなかったのかもしれません。

西武は、菊池雄星・武隈祥太の高卒2名のみが成功基準を満たしているところを見ると、こちらもあまり成果が出ていないように見えますが、中日と違いその他に年間50試合登板経験のある松永浩典・高橋朋己・小石博孝・野田昇吾らがいます。

これらの投手は、入団してすぐ戦力になり、50試合もの登板を果たしたわけではなく、数年置いてから戦力化し、50試合登板を果たしていることから、西武の方には菊池の覚醒以外の面でも、左腕投手コーチを置いた成果アリと見ても良いでしょう。

左腕投手育成と左腕投手コーチの関係は、複合的に事象が絡み合う中で、単純に解き明かせるものではありませんが、以上より、ある程度の正の関係性は見えてきて、そのためか各球団左腕投手コーチの起用方針を強めていることが分かるように思います。

4.まとめ

・近年左腕投手コーチが増加
⇒球団ごとの保有選手数増によるコーチポスト増の影響や左腕投手コーチの重要性の認識がなされているため?
・各球団の育成
⇒阪神・楽天の育成力や眼力が光る一方で、横浜・オリックス・ロッテは二軍に左腕投手コーチが在籍している期間が短いせいか、育成に成功した投手が少ない
・左腕投手と左腕投手コーチの関係
⇒左腕投手コーチの増加がみられる2000年代以降、活躍する投手が増えており、もちろん要素はそれだけにないにしろある程度のプラスの関係はありそう

以上が、本noteのまとめとなります。

近年は、各球団が左腕投手コーチを置くようになったと述べましたが、それとは反比例するように各球団のドラフトでの獲得左腕の数は減少しています。(2000年代は158名が指名されたが、2010年代は141名と減少)

しかし、そんな中でも三軍制を敷く巨人とソフトバンクは、その他の球団が2010年代で10名前後の獲得の中、19名(巨人)・18名(ソフトバンク)とそれぞれ非常に多くの左腕投手を獲得しています。

三軍制を敷いているため、他球団と比較しても多くの選手が必要になることは分かりますが、セとパ両リーグの盟主がもしかしたら何かしらの考えを持って積極的な獲得を進めているのかもしれません。

様々な憶測が浮かんできますが、いずれにせよ、ここで見てきた左腕投手と左腕投手コーチの関係に注目して、今後は育成状況をチェックしてみるのも面白いのかもしれません。

#野球 #プロ野球 #左投手 #コーチ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?