エースの打撃センス
日本球界のエースクラスの投手というと、NPB内では菅野智之、MLBも含めるとダルビッシュ有や田中将大や前田健太、少し遡って松坂大輔らの名前が挙げられるのではないでしょうか。
上記のような日本球界のエースクラスの投手は、投球以外に打撃にも優れているような印象があります。
菅野は、東京ドームで本塁打を放ったことがありますし、現在活躍の場をMLBに移した三名も、高校時代からその投球のみならず打撃でも周囲を唸らせるものはありましたし、松坂もその類にあたります。
このレベルの投手たちになれば、単純に野球センスに優れる選手が非常に多くなり、かつ各々で持ち合わせている理論等を打撃にもある程度応用できるところから、投手の中でも打力に優れがちなのではないかと考えられます。
そこで、上記に挙げた選手のみならず、NPBにおいて球界のエース級の成績を収めるような選手は、果たして打力も持ち合わせているのかについて以下より検討していきます。
目次
1.球界のエースの定義
2.球界のエースの打撃成績とは
3.結果からの考察
4.まとめ
1.球界のエースの定義
今回、球界のエースを定義するに当たっては、基本的には沢村賞受賞経験者とし、毎年両リーグから一名ずつ沢村賞選考基準に基づいて、その年のNo.1投手を選定しています。
※選定については、下記のまとめサイト等も参考にしながら行いました。
そして、選定された各投手の一覧が表①の通りとなります。
古くは杉下茂や金田正一や稲尾和久らから、最新のところで言うとダルビッシュ有や田中将大や前田健太や菅野智之らを含む、野球ファンなら一度は名前を耳にしたことがあるような非常に豪華な顔ぶれとなっています。
2.球界のエースの打撃成績
では、上記の投手たちの打撃成績は如何ほどのものなのか、についてまとめたものが表②となります。
まず、NPBで安打を記録した投手の平均打数が155であるため、この155打数以上をクリアしている選手を対象とし、対象選手の打率・出塁率・長打率・OPSを算出しました。
打率 .163 出塁率 .203 長打率 .208 OPS .412
上記が対象選手から導き出した平均的な投手の打撃成績です。
この成績を見て、平均的な投手にしては高すぎる数値ではないかと感じる方も多いでしょう。
これは、戦前から戦後にかけて活躍した投手が、軒並み打撃に優れていたこともありますが、完投するのが当たり前だった時代ということもあり、打数が非常に多くなっている点が大きな要因です。
打撃に優れた選手の打数が非常に多くなるわけですから、平均の打撃成績はどうしても上がってしまいます。
※対象400人中、打数上位20人(5%)で総計400人の総打数の15.5%と安打数
の19.4%を占めている。
それ以外にも、戦前に特に顕著なのが、コントロールが悪かったのか審判のゾーンが厳しかったのか、非常に四球の数が多いという点で、現代よりも数字を稼ぎやすい環境にありました。
※三桁四球を獲得している八選手中、全八選手がキャリアを戦前よりスター
トさせている。
以上から、戦前からの黎明期の野球の影響が大きいため、数字が高く出ていることが分かります。
表②に戻り、セルが赤くなっているのが上記の平均成績を超えた部分となります。
155打数以上を対象としましたが、主戦場がパリーグで打席に立つ機会の少なかった選手も、参考程度に併せて記載しています。
3.結果からの考察
結果をまとめたものが表③となりますが、全体と比較しても今回エースと定義した選手たちの方が、それ程大差はないものの、いずれも平均を上回った確率が高かったため、やはりその他の投手よりもエース級の投手の方が、打力に勝ると言えるでしょう。
また、該当選手を見ると、やはり1950年代~1970年代に活躍した選手が多く、時代が下るに連れて人数は減っていき、2000年代に入ってくると、平均を上回ってくる打力を持つような選手は二刀流・大谷翔平を除き壊滅状態となっています。
要因として考えられることとしては、近年になり、全体的な投手のレベル向上に伴い、もう少し時代が前なら打力を発揮できていた投手が、発揮しづらい環境下にあるという点が考えられます。
平均球速という点は、そのカテゴリーのレベルを示す上で、非常に分かりやすい指標となると思いますが、@aozora__nico2さんのnoteにもある通り近年NPBの平均球速は上がり続けており、レベルの向上は明らかでしょう。
1950年代~1970年代は、スピードガンもなかったためあくまで推測の世界ですが、平均球速130㎞そこそこの世界だったでしょうから、単純に野球のレベルが違うわけです。
※YouTubeに1980年代の投手の動画が上がっていますが、140㎞台ですらあ
まり出ておらず、高校野球も1990年初頭くらいまでは140㎞を計測した投
手が大会No.1投手と称されるような時代でした。
ですので、中々数値による単純比較とはいきませんが、前田健太や菅野が決して過去のエース級の投手と比べて特別劣っているということはないと思います。
4.まとめ
最後にまとめると、当初の予想通り、大きな差はありませんでしたが球界のエース級の投手の方が打力に優れていることが分かりす。
しかし、時代によっては、四球の数が多かったり、投手のレベルの向上で打力が発揮しづらい環境となっているため、環境を一律に整えた上での打力比較も今後は行ってみたいと思います。