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良いチェンジアップとは?
チェンジアップという球種は、投球腕やNPB・MLBといったリーグの垣根を越えて幅広く投げられる、ポピュラーな縦変化系統のボールではないでしょうか。
そんなチェンジアップを得意とする投手と言うと、MLBだとヨハン・サンタナやペドロ・マルティネス、NPBでは杉内俊哉や岸孝之らの名前が挙がってくるでしょう。
そんな彼らのチェンジアップは、なぜ打者に対して効果的かつ質が良いとされるのか、という点について本稿では述べていきます。
まず良いチェンジアップの定義付けとして、様々考えられるでしょうが、ここではより客観的にジャッジを下すため、PitchValueの数値が高いチェンジアップを良いチェンジアップとします。
そして、2018年シーズンのMLB内でPitchValue上位20名のチェンジアップの球質について、PITCHf/xから取得できるデータを基に分析していき、打者にとって効果的かつ質の良いチェンジアップについて結論を出していきたいと思います。
まず、2018年シーズンのMLB内でチェンジアップのPitchValue上位20名についてのデータが表①となります。
デグロムやスネルといった今季のサイヤング賞受賞者や、グレインキー・シャーザー・セールといった実力者、MIAのリチャーズといった新鋭と様々な選手がランクインしています。
ただこのデータだけだと何とも言えないので、ファストボール(4シーム・2シーム・シンカー)との球質比較を行うことで、その特徴を明確にしていきます。
表②のようにファストボールと比較していくと、以下の三通りに大別できるのではないでしょうか。
①落差はないがボールが来ない
所謂抜けの良いチェンジアップと言われるものは、このタイプに当たるのではないでしょうか。
特に日本人投手の投じるチェンジアップはこのタイプのものが多く、金子千尋・岸孝之・杉内俊哉・松井裕樹らチェンジアップの質が良いと一般的に言われている投手は、Pitchf/xのデータこそ無いものの、このタイプと言っても良いでしょう。
落差はそれ程出ないものの、フォーシームよりもボールが来ず、打者のタイミングを崩すようなボールです。
2018年のPitchValue上位20名の中だと、FFとCHの縦変化差が3~4の間とあまり値の大きくないルクラーク・スネル・アンダーソン・柳賢振辺りはこのタイプに当てはまるでしょう。
また、ノビ型フォーシームとの親和性が高く、FFのVerticalの値が10付近もしくはそれ以上のルクラーク・スネル・アンダーソンはこのタイプです。
日本人投手でこのタイプのチェンジアップを投じる投手が多いというのも、ノビ型フォーシームが質の良いものとして好まれる傾向にあるからかもしれません。
過去の投手ですと、サイヤング賞を2回受賞したヨハン・サンタナは「パラシュートチェンジ」と呼ばれるチェンジアップを一番の武器としており、Pitchf/xの数値を見ると、大別した3種類の中ではこの①に分類されます。
②ファストボールと軌道を似せる
2018年のMLB内チェンジアップPitchValue1位のヘンドリクスはまさにこれです。
表②を見ても分かる通り、縦変化・横変化・回転角度がシンカーとほぼ変わらない数値を記録しており、大きく違うののは球速のみです。
ですので、打者はシンカーだと認識してスイングに行くと、ボールが思ったよりも来ずに空振りや凡打に打ち取られてしまうわけです。
ヘンドリクス以外だと、ワトソンやクラウディオといった左のシンカーボーラーはこの手のチェンジアップを用いて打者を惑わせています。
一応①と②で種別しましたが、フォーシームかシンカーかというだけで①と②はボールが来ないという点では一致していますから、本質的には同じボールと言っても良いのかもしれません。
日本人投手で、この手の組み合わせのボールを投げる投手はあまりいませんが、野村祐輔なんかはツーシームとチェンジアップの軌道が非常に似ており、ツーシームを投じた次のボールに同じコースからチェンジアップを落としたりと、打者の空振りを誘うような使い方をよくしています。
③高速化+落差
デグロム・シャーザー・セールなど、MLB内でも正統派のエース格の投手は80マイル後半のスピード、かつ落差も担保されているという恐ろしいチェンジアップを投じています。
今回ランクインしている投手で見ると、デグロム・グレインキー・カスティーヨ・セール・前田健太らはこの類にあたるでしょう。
データから見ると、ファストボールとの球速差やその質(ノビ型や真っ垂れ型等)はそれぞれですが、縦変化の数値はほぼ3以下と比較的落差の大きなものとなっており、回転角度が240~260後半辺り(右投手の場合)に収束しているという特徴を持っておいます。
ある程度スピードがあり、縦変化の数値としては3以下、かつ回転角度が240~270内(右投手の場合)に収まっているものが、この落差の担保された高速チェンジアップに当てはまるのでしょう。
ランクインしていない投手でも、ストラスバーグやカラスコといったエースクラスの投手もこの手のボールを投じており、MLBでエース級のスターターになるためには、高速チェンジアップもしくはスプリットといった落ちる系のボールは必須なのかもしれません。
日本人投手だと、本格的に投じているのは前田健太と上記リンクの動画にも登場するダルビッシュくらいで、NPBに所属する投手で高速チェンジアップを投じる投手はあまり浮かびません。
NPBではその代わりにスプリットを投げる投手が多いため、これまでも流行っていませんし、今後もトレンドを彩るようなボールになるかは疑問符が付くところです。
まとめ
球質という面からチェンジアップについて見ていくと、いかに打者にストレートだと思わせるかという点か、スピードと落差を追求してスプリットのように用いていけるか、の2点のどちらかを極めたチェンジアップこそが打者に対して効果的かつ質の良いものと言えるのではないでしょうか。
他の球種についても、何をもって打者に効果的かつ質が良いと言えるのか追求していこうと思います。