10年コーヒー屋をやってみて
こんにちは、川野優馬です。
少し前ですが今年の夏で、東京の吉祥寺にLIGHT UP COFFEEという名前でコーヒー屋をはじめて、ちょうど10年が経ちました。
コーヒー屋を10年やってみてどんな感じなのか、10年の流れや変化、困難を振り返ってみて書いてみたいと思います。
なぜコーヒー屋をはじめたのか
そもそもコーヒー屋をはじめたのは、シングルオリジンコーヒーというものにとても可能性を感じてわくわくしたからです。シングルオリジンコーヒーというのは、農園ごとに分けて仕入れるコーヒーです。農園の努力や環境、品種の違いなどがダイレクトに楽しめる、風味の個性が豊かなコーヒーです。
僕がコーヒー屋をオープンする前の12年前ごろは、ちょうど雑誌BRUTUSでスペシャルティコーヒー特集が組まれて話題となった頃で、果実のような風味がする軽い味わいの浅煎りのコーヒーを飲んで衝撃を受けました。コーヒーを農作物として捉えて、生産者ごとにコーヒー生豆を分けて仕入れて、その個性を浅めの焙煎で透き通った味わいで提供するという文化や考えがとても面白く新しく感じたんです。
もっと多くの人にこんなおいしいコーヒーを伝えたい、そしておいしさに応じて対価を払っているコーヒーなので伝える分だけ生産者も潤うだろうと、コーヒーの仕事にとても魅力を感じていました。
最初は家で焙煎をして1年間オンラインショップだけやっていたのですが、実際に飲んでもらえる場所をつくりたい、魅力を発信するにしても店舗をやっているということでの説得力も持ちたい、などと思い、一緒にコーヒーにはまった友人である相原を誘い、2013年の10月ごろから物件を探し始めました。
コーヒーにはまった頃の話は過去のnoteをぜひご覧ください。
コーヒー屋をはじめるまで
1階路面の軽飲食可で家賃30万円以下で駅から徒歩10分以内で探していたのですが、なかなかコーヒー屋にぴったりな小さい物件は見つからず、あったとしてももっと広いレストラン向きか雑居ビルの4階みたいな物件ばかりでした。
しぶとく街の仲介業者に挨拶を重ねているとようやく1本の電話があり、条件に合う物件が出たとのことですぐに内見に行ってきました。しかし、吉祥寺駅徒歩7分で、有名なドーナツ屋さんの横で公園の向かいという好立地ということもあって、既に5件も申し込みが入っていました。
僕は、コーヒーに向き合える穏やかな場所でありながらも土日には外から多くの人に来てもらえるこの場所こそ、おいしいコーヒーを伝えるには理想の場所だと思い、物件のオーナーさんに会わせてもらいました。僕が始めるコーヒー屋が、この街で、東京で、こんなコーヒー文化をつくるんだという思いや、なぜこの場所でやらせて欲しいのかという理由や、どんなコーヒーを出すのかとか、ひたすらと情熱と考えをまとめた資料を持って、物件を借りさせてもらえないか直接お願いしてみました。ありがたいことに気持ちは伝わり、君みたいな若者を待っていたんだよ、とアツいセリフと共に、物件の賃貸許可をもらいました。とても嬉しかったのを覚えています。
すぐさま融資を受け、物件を契約しました。7月1日から物件の契約スタートとなったのですが、鍵をもらった時は、ついにこの場所は自分たちの場所になるんだという実感がわきました。今でもあの時のワクワクした気持ちは鮮明に覚えています。
一緒に店をやる相原と仲間たちの協力ももらい、物件の採寸をして、どこにエスプレッソマシンや焙煎機を置いて、どこがレジでどんな客席を作るかひたすら話し合い、デザインも模型をつくりながらあれこれ議論し、材料を調達して自分たちで内装をつくっていきました。どんな空間だと自分たちが感動したコーヒーの魅力が伝わるんだろうか、来てくれた人は楽しんでもらえるんだろうかと考えながら店をつくる日々はとても楽しく、壁ができて、テーブルができて、マシンが届いて、と徐々に店ができていく様子を実感しながらワクワクしていました。
当時は僕も大学生で資金もなかったことや、自分の手で理想の店をつくりたいという気持ちもあり、水道、ガス、電気、床のモルタルだけ街の業者に依頼して、あとの内装はぜんぶ自分たちでやりました。塗装など手伝ってくれる友人たちのおかげもあり、詰め込みでなんとかギリギリ7月31日にオープンすることができました。オープンした日、前日まで磨いていた客席にお客さんが座りコーヒーを飲んでいる光景をカウンターの中から見たあの時の感情は今でも忘れられません。
オープンしてから
それまで間借りでコーヒーのイベントやセミナーをやっていたり、ラテアートの大会に出てみたりしていてコーヒー関係の知り合いも多かったため、オープン直後の1ヶ月は業界や大学の友人知人がたくさん来てくれて、ありがたいことにとても賑わいました。
そのままうまくいくかと思いきや、2ヶ月目以降はお祝いでの来店もなくなって、そのエリアに住んでいる地元の人に来てもらう難しさを実感しました。ある1日は、僕ら2人で立って10時間営業していて、500円のコーヒーが2杯だけ売れて売上が1000円という日もあったくらいです。これはなかなかに頑張らないといけないぞとやや焦り、Instagramでお店のことを発信し続けてみたり、歩いている人に試飲を配りまくってみたり、外に看板を立ててメニューを載せたり写真を載せたりと試行錯誤して、なんとかちらほらと寄ってくれる人が増えていきました。
来てくれた人に全力でおいしいコーヒーを出し、このコーヒーはコスタリカの農家さんがこうやってつくったコーヒーで、かつては混ぜられて出荷されていたものを分けて仕入れているから、こんな個性が感じられるんですよ、といった風に魅力を語って伝えていきました。気に入ってくれた人が友人を連れてきてくれて、というように徐々にお客さんも増えていきました。
お店が軌道に乗るまで
ひたすら、とにかく自分達が思うおいしいコーヒーを出そうと、自分たちが思うベストな豆を仕入れ、焙煎レシピを毎日のように議論して改善し続け、ドリップやテイスティングのセミナーも毎週末開催して、来てくれた1人1人にその魅力や楽しみ方を伝えつづけていました。
オープンしてから半年後くらいの頃、少しずつお客さんに来てもらえるお店になってきて、雑誌のHANAKOから取材の依頼がありました。吉祥寺の新店舗として大きく取り上げてくれて、そこから雑誌を見て来てくれるお客さんが一気に増えたように感じます。当時はまだ少なかった浅煎りのスペシャルティコーヒーショップとして、コーヒー好きな方がたくさん訪れてくれて常連さんも増え、お店として忙しくなったように感じました。
そして、オープンから2年経った頃、NHKのテレビ番組 U29という、29歳以下で活動する人を取り上げる30分の密着ドキュメント番組が取り上げてくれて放送してくれました。この反響も大きく、いまだにあの時の番組見て知ってました、と言ってくれる方もいるくらい、多くの方に知ってもらう機会になりました。雑誌も番組も、メディアの力って大きいなとも感じました。取り上げていただいて感謝しています。
店舗展開とコロナ
そして2016年には京都店、2017年には新焙煎所として下北沢店、2019年には渋谷PARCO店をオープンして、おいしいコーヒーを楽しめる場所を増やしていったのですが、店舗を増やす分人も採用することになっていきます。2人ではじめた僕たちの店はバリスタだけで当時10~20人くらいのチームとなっていったのですが、チームづくりには苦戦しました。それまでは組織とか、チームの構造みたいなものを意識しないまま、ふわっとゆるっと人と仕事が増えていったのですが、やっぱり20人近くになると1人1人の責任範囲を明確にしないと仕事が進まなかったり、やりたいことやモチベーションに合わせて役職を再分配したり、働きやすい会社にするための制度づくりなどの必要性も増していきました。メンバー1人ずつ個別面談をしたり、外部からバックオフィスにサポートに入ってもらったりとできることを積み重ねながら、いい感じになってきた所、2020年にコロナがやってきました。
京都も出歩く人が一切いなくなり、渋谷PARCOも休館となりました。そのタイミングで急遽京都店と渋谷PARCO店を閉店させて、オンラインでコーヒー豆を売るということに注力をシフトすることにしました。
感覚としては店頭の仕事が手触り感があって楽しく感じていました。リアルな現場で、来てくれた人に直接体温を持ってコーヒーを伝えて、リアクションもその場で得られるので、やりがいはストレートに感じます。そこがバリスタの仕事の魅力でもあり、コーヒー屋をつくる楽しさでもあるのですが、広く多く伝えるということを考えるとオンラインでコーヒーを届けることも必要でした。ロースターとして豆を売る、ということが、コーヒーをどれだけ伝えられているかということに直結している気がします。コーヒーを好きになってもらい、家で淹れて楽しみ続けてもらうことがゴールだとしたら、豆を買ってくれる人がどれだけいるかということが、その目的の達成具合を表していると思うからです。
そんな気持ちで、ロースターとして豆をもっと広くの人に届けようと思い、オンラインストアをリニューアルして豆を買いやすくしたり、豆の定期便をはじめたり、YouTubeをはじめてコーヒーのことを発信したりと、コロナ以降オンラインに注力していきました。
定期便の工夫
おいしいコーヒーを日常的に楽しんでくれる人を増やす、という目的であれば、定期的に豆をお届けする定期便に入ってもらえるのが一番嬉しいことではあります。もちろん定期便は普通に買うよりも安く設定しているので、店舗のドリップだったり、単体で豆を買ってくれる方が利益率は高くはあるのですが、毎日気軽にコーヒーを楽しみ続けてもらうために一番やりたいことでした。
コーヒーの何が面白いかって考えると、生産国ごと、農家さんごと、つくり方ごとで味わいが違うということです。僕も10年以上コーヒーに関わっていますが、いまだに新しい味に出会えてずっとコーヒーのことが飽きずにわくわくしつづけています。
だからこそいろんな味に出会える定期便がいいだろうと、毎月3種類のシングルオリジンを届けるようにして、豆の仕入れをめっちゃ頑張りました。自分たちが思うおいしさ、デイリーユースで最高においしい味を叶える豆を、いろんな商社さんの力で仕入れて毎月代わる代わる届けるようにしていきました。
定期便に入ってくれる人が増えたおかげで、10年経ってやっと会社としてバックオフィスのメンバーやオンラインに関わるメンバーも増え、会社も組織も安定してきました。念願の大きな22kg焙煎機も導入して、焙煎自体も前よりもさらにおいしく安定してきました。
今やりたいこと
10年経って、今改めて店舗や人の大事さを感じています。コーヒーを知り、飲んで好きになる場所はやっぱりお店です。
そして生産地でコーヒーをつくっているのも、最後飲み手に伝えるのも人の仕事です。もちろん僕たちはコーヒーという液体や、コーヒー豆というモノを売っているし、コーヒーがおいしいかということに神経を注いでいるのですが、その魅力や価値が伝わるかどうかは、特に最後人に伝えるバリスタの仕事にかかっています。
自分が働いていて良かった、自分がいる意味がある、と思えるチームにしたいんです。人でコーヒーはおいしくなって、人で会社は成り立ってるんだと最近は感じます。そして人だからできるサービスがあります。
下北沢店を一度解体してつくりなおして、カウンター席を中心にするお店にリニューアルしました。人だからできるサービスが活きて、コーヒーを好きになってもらえるお店を目指しました。
これからも、おいしいコーヒーが伝わるお店はつくりたいと思っています。もう少し自分たちがコーヒーを伝える場所が増えてもいいのかもしれないと考えています。コーヒーがおいしいのは当たり前として、それをどう好きになってもらえるか、どう心地よく感じてもらえるかが大切です。10年経って、ある意味気持ち新たに2周目な感じです。
コーヒー屋をやっていて良かったと今も感じます。好きなコーヒーを通して、いろんな人と出会いました。同じくコーヒーを伝える業界の仲間、生産国の生産者さんたち、同じようにワインや日本酒や料理など他の嗜好品に情熱を注いでいる人たち。いろんなものの面白さを知ることができたり、考え方を知ることができて楽しいし、どの経験もコーヒーに通じてもいます。コーヒーを通して生まれた出会いのおかげで、コーヒーの仕事や表現の幅も広がっています。
初心のままに、おいしいコーヒーをこれからも楽しく伝え続けていきたいと思います!
川野優馬
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