同人誌を語ってみると | 男性サークル編
オリジナル(創作系)から、アダルト作品、つまり18禁作品へと路線変更を余儀なくされたのはすでに書きました。
当時は18禁作品という用語はなく、ひらたくエロ同人誌またはアダルト作品と呼んでいました。エロだけどオリジナルというのは本当にごく僅かで、殆ど全てが「エロパロ」と呼ばれる二次創作でかつまた18禁作品というものでした。ここでも二次創作は動かしがたいほど強いものでした。
この「エロパロ」は二次創作でかつまたアダルト作品でもあるのですが、これはボーイズラブでも同じでした。当時も今もですが、アニメの二次創作ありきの同人業界で、パロディなくしては当時も今も同人人気は語れません。アニメ人気に全て乗っかっている世界でした。
アダルトと二次創作がなければ、当時の同人人気から続く今の人気はなかったものと断言できます。それほどこの二つの要素は密接につながっていて、かつまた人気が集中していました。
一般の人に誤解を受けているのはパロディといってもアニメです。アニメ化される前の漫画のパロディはありませんでした。ごくまれに「創作系」で映像化されていない作品のパロディ作品があった程度です。
コピー文化などとも呼ばれていますが、まさにそのとおりだと思います。
それほど二次創作が強かったのです。
さらに説明すれば当時のアダルト、18禁作品というものは今とは表現そのものが違います。規制がまったくなくて好き放題描かれていて、女性器も男性器も隠すわけではなくすべて描かれていました。
つまり人気アニメのキャラクターの性器も描かれた絵ばかりでした。これは女性サークルが作る「BL」同人誌でも同じです。女性サークルの場合は、この部分だけを強調される訳ではいですが。
当時も今も、売れるという視点で見た場合、アダルト以外は考えられないと
いってよいと思います。今のようにインターネットの普及から同人ファンではない方たちも同人作品に接するようになってきて、少しはオリジナルにも関心が向くようになってきた感はあるのですが。
ですが若干の違いはあると思いますが、やはりアダルトつよしは動かしがたいですね。
もっと具体的な同人作品とはどういった内容であったかというと、主に漫画が多いと思われていますが、ちゃんと漫画が描かれているのは全体で見た場合は少ないといえます。簡単に言ってしまうとそれだけの力がない人が殆どでした。
昔は今と違って同人誌という方法しかなかっただけで、同人誌を作りたい
というよも即売会へ参加したいがために同人誌を作っているという人の方がはるかに多かった。
これは「コミケ」のところでさらに詳しく解説しますが、だいたいにおいて
同人誌と銘打っていても雑誌の体裁を整えてさえいない場合が多かったといえます。正直、どうしてこんな本を作る気になったのかと聞きたくなる本のほうが多かった。また即売会へ参加したいがために同人誌を作ることも当時は理解できませんでした。
雑誌やまたはニュースなどで紹介されている同人誌の場合は、出来の良いものばかりで、全体から見た場合は非常に少ないものです。
同人誌といっても漫画が掲載されているものは少なく、掲載されていても8ページの程度の分量が普通でした。むしろイラストの方が多くて、画が描けなければ評論やファンジンで良いのではないかと思ったものです。
とにかく人気のあるアニメキャラクターのエロい描写だけが描かれている
ものがもっとも多い同人誌の体裁でした。また、全てのページになにかを掲載されていればまだ良いのですが、なにも描かれていない真っ白なページの方が多い同人誌も多く存在しました。むしろこちらの方が多いくらいです。
なにも描かれていない白紙のページがない同人の方が少なかった。そして画が下手というレベルではなく、悪い表現で「便所の落書き」という言葉がありますがまさにこの言葉通りの絵が描かれていた同人誌が多かった。
髪型やリボンなどの目印でなんとか判別はつきましたが、何のアニメのキャラクターか分からない絵が多かったこと。これを見たとき、どうして同人誌を作る気になったかと聞きたくなった位です。
それが性器だけをドアップで描く、まさに「便所の落書き」でした。我々の作った創作系同人誌はけっこう評判が高くて、ある雑誌で高評価して頂きました。これは同人誌を紹介する雑誌ではなかったのですが、誌面も多く割いて頂けました。
ですがこの「性器」だけを描いたような稚拙なイラストに頒布部数では負けてしまうのです。イベントの運営側の人たちが、まるに線を幾本もひいた性器マークだけでも売れるんじゃないかと揶揄していましたが、あながち間違っていないのではないかと思ったほどです。
それでも表紙だけは絵の上手い同人作家などに依頼して描いてもらい、同人誌の判型を大きくして見た目だけはある程度のレベルを保っているように見せていました。中身はまったく表紙を裏切っており、真っ白いページばかりでした。
このように一番多い同人誌がページ数が極端に少ない薄っぺらいイラスト同人誌だったのです。
自分たちはこれらとは全く真逆のことをしており、印刷料金を押さえるために判型を小さく逆にボリュームを増やして100ページ以上の同人誌も作っていました。
漫画もしっかりと20ページ位のものも掲載していましたし、自分たちのできる限りものは作っていました。色々と調べていましたので、学習した結果で判型も大きく表紙もカラーという風に後に進歩してはいきましたが。
同人誌を全体的に見た場合は、多いのはこういう薄い本で、これらの同人誌に何かを表現したいというものは感じられませんでした。ある意味では「便所の落書き」以下と言えるものも多くありました。
本当の「便所の落書き」の場合はまるでこもった怨念のような強い欲望を感じさせるものがあります。これは絵の上手い下手ではなくて別の部分で感じるものがあるのですが、そういう気持ちがまったく伺えないものが多かった。
また、自分ではまったく制作しなくて編集だけをするサークルも多くて、これらは絵の描ける人などに依頼して描いてもらって最終的に編集してから製本に出すというサークルです。同人誌を制作するからサークルがあるのに、どうしてそんな活動をするのか理解できませんでした。
変わったものならば、人気漫画のコピーを同人誌化して、台詞だけをかえると言うものまでありました。とにかく労力を使わずに──それだけの力もない場合が多いのですが──同人誌を製作していたサークルがとても多かったですね。むしろ同人誌をまともに作っていたサークルは少なかった。
これも最初はよく分からなくて、何かを作りたいから同人誌を作っている訳でそれがないのにどうして同人誌を作っているのか分からなかった。これも後でだんだんと理由が分かってくることになります。
この18禁作品であるアダルト同人誌ですが、異常なほどの人気に支えられて数もものすごく多かったのです。同人誌の大半が18禁作品である言っても良いほど多くて、この中に大量の「BL」作品も含まれます。
大きな即売会では時々、「鉄道」や「ミリタリー」といった同人誌が間違って紛れ込んだように参加していました。これは増えも減りもしない一定数のジャンルです。あとは「ファンジン」や「批評誌」もありましたが、これらもあまり多くはありませんでした。
サークル活動が終わる頃にゲーム制作や、ゲームキャラクターの同人誌が現れて急速に増えていきました。
また「ロリコン誌」については誤解の大きなジャンルですので、別に少し説明したいと思います。広い意味での同人作品は今の方がはるかに多く制作できますがこれもまた別に紹介いたします。