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同人誌を語ってみると | 女性サークル編


今も昔ももっとも大きな誤解があるのはこの「BL」という特異なジャンル
の存在です。これはもう、ジャンルという枠を超えてサブカルチャーとしての文化であるといって良いと思います。

また「BL」同人誌は同人誌の印刷業者と非常に深い関係がありますので、
印刷会社の紹介も一緒にからめて紹介していきたいと思います。

ここで少し女性の同人サークルとファンのことについて触れておきます。
これも「BL」と同じく、ただしく報道されたこともなく一番大きな誤解が
あることだからです。

ここまで振り返って書いてきましたが、我々が男性サークルであったことから男性目線で書いていますから誤解を受けますが、実は同人は同人サークル数も一般参加者も女性の方が数は多いのです。

「コミックマーケット」のサイトにアクセスしていただいて、過去の参加者数を調べてみてください。男女比も一緒に掲載されていますので一目瞭然です。今でこそやっと男女比は半々の状態になっていますが、それまでの殆どの期間、女性の参加者の方が数は多かったのです。
これも後で解説しますが、同人とは女性優位の世界でもありました。

これは「コミケ」以外の即売会でも同じでした。参加したイベントで男女比を数えていたわけではありませんが、一目見てイベント会場には女性の方が多いと分かるほどの違いがありました。

この頃は商業誌ではまだ「BL」というジャンルはなかったこともあって、
女性ファンたちの「BL」人気は同人誌に集中していたのです。商業誌の「BL」というジャンルは同人誌から作られてきたといっても良いと思います。それほど絶大な人気がありました。
 

一般の人たちは報道などで紹介されているのを見ていると男性が多い世界であると勘違いするのも分かりますが、同人に関係している人たちも男性が多いというのが理解できませんでした。

特に我々がサークル活動をしていた時は、即売会に行けば女性が圧倒的に多かった。数を数える必要もない、会場を見渡せば一目瞭然です。それでも話を聞くと、男性が多いという前提で語ります。ここでも現実との認識のズレ、「解離」がありました。

当然ですが、当時は男性向け作品よりも女性向けのBL作品の方が作品数も
サークル数も多かった

俗に言われる「やおい」本です。
それを求めにやってくる一般参加者も女性が多いし、作る側の女性サークルも男性よりも多かったのです。

初めて即売会へ参加したときも両隣を女性サークルさんに挟まれて男だけの
サークルとしてはとても居心地の悪いものでした。なかなかカルチャーショックを受ける出来事でもありました。

これは女性サークルさん特有なのですが、一般参加してくる女性たちと雑談をされて盛り上がるのですが、これが我々の予想をはるかに超えるものでした。女性が良く雑談されるのは誰でもが知るところですが、そんなレベルではなくて、話が盛り上がるとかと意味が違う。

サークルさん一人に対して一般参加の女性二人がお互い休みなく一方的に話し出すのです。普通会話は相手が話してそれに相づちを打つとかしてから、答えるように話ますよね。

ですがこれがお互いに三人が同時に一方的に休みなく話すのです。絶対に会話の内容が理解できないだろうと思うのですが、時々笑ったりとちょっと異次元の会話でした。こういう光景は即売会へ参加するたびに目撃することになります。

当時は「CLAMP」や「高河ゆん」がまだ同人にいましたのでものすごい人気
でした。大型の即売会でなければ参加しない「CLAMP」でしたが、このCLAMP作品を求めて大勢の女性ファンたちが殺到していました。

お会いしたことはありませんでしたが、超がつくような売れ線サークルで
あって、完売必至の人気でした。どの即売会へ参加するかでそのイベントの一般参加者の動員数が違うほどでした。それほど当時の同人とは、作る側も読む側も女性ファンが多かったのです。

 
◇ボーイズラブの世界。

ここからは「BL」同人誌を含めた女性サークルの製作する同人誌などに
ついて解説していきます。

ボーイズラブというのは、今では商業出版で「BL」というジャンルがあるほど一般的になっています。ですから一度や二度は読んでいる方も多いと思いますが、知らない方は「ホモ」雑誌とどれだけ違うか分からない方もいるかも知れません。

我々も初めはそうでした。ですが中身を見ていくと内容の違いがすぐに分かります。これは日本文化独自ではないかと思うのも、これがあるからです。

「宝塚歌劇団」を思い浮かべてもらえばわかりやすいのですが、宝塚は女性が男役と女役に別れて舞台演劇を演じますが、この女性だけが男性だけに置き換わったと思ってもらって間違いはないと思います。つまり男女の恋愛や性愛を男性だけに置き換えて表現しているということです。これが初めは分からなかったのですが、こうしたボーイズラブに対する偏愛は予想以上に強いものでした。

これを好きなアニメの男性キャラクターを使って描くのですが、これはなにもアニメに限ったことではなくて好きな男性アイドルグループのグループないでの同性愛を描いていたりもしました。ただやはりアニメキャラ強しは動かしがたいのですが。

この場合、漫画だけではなくイラスト集もありますし小説や評論的なものものありました。表現方法は違うのですがとにかくボーイズラブに偏っていましたね。だから男性が考える同性愛とは本質が違っています。いわゆるガチムチのホモ雑誌ではなく、おやまの世界といっても良いかも知れません。

どうしてなのかはずっと後で分かってきましたが、ある意味、現実逃避の
心理が隠れているようです
。このボーイズラブの設定に一人でも女性キャラが加わるだけで「BL」ファンはその生々しさに傷付くようです。あくまでも現実にはありえない男性だけの性愛を描くことでリアルな男女の性愛を避けているようなところがありました。

そしてこれらのボーイズラブも男性同人誌と同じで18禁が多い。ですがアダルト規制が始まったときに、なぜか自分たちの作る「BL」作品は規制されないと思っていた女性サークルが多かった。もちろん「BL」同人誌を製作している女性サークルも摘発されています。

男性の作る18禁作品は汚くていやらしい、だから違法。自分たちの作る「BL」作品は美しいから法に触れないとでも思っているようなところが強かった。自己中心的な考えなのですが女性心理が凝縮しているようなところがありました。

そして同人誌を作らないサークルは女性サークルの方が多かった。ではどうしているのかというと、男性サークルとは違って好きなキャラクターを使ったレターセットや便箋という小物を販売するというサークルが多かったのです。

小物に対する執着は女性特有で、とにく可愛い小物を作るサークルは多かったのですが、ある意味版権侵害という点では二次創作という言い訳もきかないほど強いものでした。二次創作もある意味では創作作品ではあるのですが、キャラクターを使ったグッズとなるとまったく意味が違ってきます。

もちろん女性サークルも摘発されています。ですが自分たちは摘発を受ける対象外であると思い込んでいた女性サークルはとても多かった。こういうことは長く同人活動をやっていると至る所で見ることになります。


◇同人誌の印刷会社とBL同人誌の関係。

実は「BL」同人誌の繁栄の影にはこれらの同人誌を印刷する印刷業者の姿が
ありました。同人誌の印刷会社を語る上では、「BL」同人誌とこれらの制作者である女性サークルを外しては説明できません。

この事実を同人サークルは知りませんでしたし、イベント参加者ももちろん
知りません。これもほぼ同人活動が終わるころに分かったことでもあります。

同人誌の即売会は「コミケ」のような参加サークル数が数万という巨大同人
イベントは、数イベントに限られてきます。参加サークルが数千から数百単位のイベントが一番数が多く、これらは日本各地で開催されています。

我々が活動していた時はコミケの運営母体である「コミックマーケット準備会」はまだ企業化されていませんでした。今では大型イベントの運営団体の殆どが法人化されています。

そしてこの即売会へ参加するサークルの同人誌の印刷は、小さな印刷会社が
殆ど行っているのですが、実は中小の即売会のスポンサーとなっている場合が多いのです。

ですが殆どの人が有志の集まりで運営されていると思い込んでいます。こういう有志だけのイベントは大きくても数十サークルから百前後の参加サークル数のイベントが限界です。

これらについては「コミケ」のところでもう少し詳しく解説しますが、各都市で行われる小規模から中規模程度のイベントのスポンサーは同人誌の印刷
会社だと思ってもらって良いと思います。
こういう裏事情があるので18禁規制が始まったときに、サークルだけではなく印刷会社も摘発されることになるのです。

先にも説明しましたように──今は違うと思いますが──同人サークルも
同人誌ファンも女性の方が数が多い。当然、これらの同人誌を印刷する数も「BL」同人誌などが多かったのです。これはもうはっきりとしていました。ですが活動当初はこれが分からなかったのです。

実際に経験していることですが、初めて参加した即売会では両隣が女性サークルさんでした。もともと運営側の方に紹介されて参加したのもあって、場所的には良い場所を確保していただいたのですが、女性サークルが多い場所でもありました。

これは他の即売会でも同じなのですが、イベントの開始直前や直後に同人誌の印刷をする印刷会社の営業の方が各サークルにパンフレットを持って挨拶にまわってきます。次の印刷はうちの印刷会社へどうぞと積極的に売り込みをしてきます。

この時、両隣の女性サークルさんへは幾社もパンフレットをもって挨拶に
きているのに、なぜか我々のような男性サークルを避けて通り過ぎるということがありました。見ていると分かってくるのですが、男性サークルへは行かず女性サークルにだけにパンフレットを配って挨拶周りをしていたのです。

この営業にまわっている人も女性が多かったですね。それくらい当時の同人誌は女性同人誌中心にまわっていました。

つまり同人誌印刷会社が自らの手で、「BL」同人誌を中心に即売会を開催し、その印刷物を自分の印刷会社が請け負うという構図で業績を伸ばしていたのです。

これは男性の18禁作品でも同じで、「男性同人誌印刷いたします」という
ような広告まで出して、同人誌人気を煽っていました。この最初に参加したイベントを紹介してくれた方も印刷会社で働いていた方で、サークル入場するときに裏側に印刷会社の車が停まっていて社員の方が忙しそうに作業していました。

そのときはまだ分からなかったのですが、初めて参加した即売会もスポンサーが印刷会社だったのです。こうした印刷会社が直接、または間接的に同人誌の即売会を開催して自分たちの仕事を開拓、発展させていったという裏事情がありました。

しかしながらイベントの運営をしている人たちは有志の集まりで運営していると思い込んでおり、自覚がまたくありません。それは直接的に印刷会社がイベント運営に関わるだけではなく、間接的に──スポンサーとして協力していたことがあったからです。

この「スポンサー協力」というものも印刷会社で働いている人間にたいしてであり、言わば印刷会社が前面に出てこないだけなのです。ですが運営している側は協力してくれているという認識で後から考えればピント外れの認識であり、ここでも「解離」が存在します。

もう少し詳しく解説すると、当時はバブル景気がまだ続いていて正社員として印刷会社に──印刷会社だけではなく他の企業でも──就職する人は少なくアルバイト社員なくしては仕事にならなかった時代です。「フリーター」という言葉が出てきたのもこの頃で、正社員になるよりも給料の良い仕事に次々とかわっていくというライフスタイルがもてはやされていた時代でした。

我々もこの頃は忙しくなかなか休みを取れませんでした。それは転職する人が多くて定着率が悪く、人が少なかったからです。それもあって即売会へは多く参加できませんでした。こうした裏事情もあって印刷会社へ沢山の同人関係の人間がアルバイトとしてつとめていました。こういうところでも女性の数が多かったそうです。

これらのアルバイト社員もだいたいが同人に関わっている人たちで、同人と印刷会社の社員は切り離せない存在でもありました。こういう人たちの意識の中では、印刷会社は自分のたちのイベント開催に協力してくれているという認識でいる人も少なくなかったのです。

また、印刷会社には「BL」同人誌を作っている女性たちがアルバイトとして
多く働いていました。
 

これら女性社員が、男性の18禁作品の印刷を自分の判断だけで勝手に拒否して原稿をサークルへ送り返すということまでおこっていました。もちろん印刷会社は「18禁作品」でも印刷を受け付けているのですが、女性アルバイト社員の公私混同の判断でした。

このように身近で見ていると、女性のヒステリックな側面がとても強く表に出ていることが分かってきます。同じ同人同士、仲良くやれば良いのと思っていましたがとにかく感情的な側面が前面に出ていましたね。いわゆる女の子たちの楽しい集まりというのとは本質が違っていました。こういう所は同人活動でいやでも感じることでもありました。

純粋に有志の集まりでイベント開催をしようとする人たちもいなくはなかったのですが、スポンサーなしでは順調に開催することは難しいものがありました。

こういう人たちが開催できる規模は多くて100サークル参加程度の規模でしたし、例えば場所を借りるにしても何ヶ月も前からの抽選できまりますし、開催が決まっても場所の借り代もいりますし、テーブルや椅子などのレンタル料はまた別に必要になってきます。くわえて当日の設営準備のために必要な人数などかなりの労力と費用を必要とします。

場所によっては色々と注文があったり禁止事項が多かったりと、使わせてもらった場所で設備が壊れるなどした場合は二度と使わせてもらえないなど気を使うことが多くあります。一般参加者が花壇を壊してしまって二度と借りられなくなったなど、こういうトラブルの話は多く聞きました。つまりイベントを順調に開催するためには管理するためにけっこう人数も必要になってきます。

これらをすんなりと用意できる有志の集まりは少なく、予定していた開催ができないなどは当たり前のように多くありました。中には運営メンバーの意見の対立などで中止になってしまう場合も多くありました。

告知していたイベントが中止になることも多くありましたが、広く告知する前に計画途中で頓挫したイベントを入れると実際に開催できたイベントと同じくらいの数が中止になっているのではないかと思えるほど多かったですね。

特に女性がイベント開催をしようとする場合、やりたいという気持ちだけが
先行して──またイベントを開催したいという女性たちは男性よりも多かったですね──実務面の準備などまったく考えていないことも多くて、誰がなにをするのかという実際面の問題で空中分解してしまうということも多くあったそうです。これらのトラブルを運営関係者が時々怒りを交えながら話していました。

これは我々のように運営側の内部事情を知っている人間には分かるのですが、良くこれでイベントを開催をする気になったなと言うほど中止案件が多くありました。

やはりトラブルなく開催されているのは印刷会社が主催する即売会であるといえるのです。これほど印刷会社とイベント運営は密接な関係でもあった訳です。

そしてこれらの印刷会社は業績を伸ばして会社そのものが大きくなって行きました。先に紹介した、我々に協力してくれていた運営側の方が働いていた
印刷会社も大きくなって、工場拡張のために別の場所へと移転していきました。

この移転時期がバブル崩壊と少しかぶるのですが、バブル景気を見事に勝ち抜けた会社でもありました。

このような構図がありましたので同人誌の繁栄は同人誌を印刷する印刷会社の力あってのものでもあったのです。もし有志だけの集まりであったなら、ここまで巨大な市場へと成長していなかったといえます。

そして同人の18禁規制が始まる道を作ってしまったのも、印刷会社がふかく関係していました


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ハヤシ
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