第12話 ピアノに移る影
「会いに行かなくちゃ」
そう決心した私は瞬時にレッスンを予約する。
レッスンを予約するのはもう慣れた。その日はレッスン以外にも自主練をしてからレッスンに向かおうとする。じゃないと、Aさんのことを考えて頭がいっぱいになるから。
いつもどおり、髪を下ろしてメイクをして上着を羽織る。
2月の朝。まだまだ寒くてホッカイロを手にして温めながらスタジオに向かう。
けれどスタジオについてピアノの練習をしていても寒くてなかなか手がついていけない。
そんな思いで練習して1時間後。
ついにAさんのレッスン。
久しぶりのレッスンだった。
「○○ちゃん」
「Aさん…」
「どした?元気ないな?さては俺に会えへんくて寂しくなったか?笑笑」
と冗談交じりにAさんは言うけど図星な私。
けれど素直じゃない私は
「そ、そんなことありません!さ、レッスンお願いします!」
と話題を変える失礼な自分。
「照れてる笑」
そう笑うAさんを無視してお部屋に案内してもらう。
「さ、着いたで〜上着は脱ぐ?」
頷くとスマートに上着を脱がせてくれて、ハンガーにかけてくれるAさん。
そのままグラウンドピアノの前に座り、いつものお話の体制に入る。
「○○ちゃん久しぶりやな、って言ってもこの間新宿で会ったか笑」
「そうですね笑」
「やんな?笑俺さすがにびっくりしてもうたわ笑」
「私もです笑」
いつもAさんは標準語だけれど、私のレッスンの時は関西弁で話してくれるAさん。
なんか、友達みたいで距離近く感じるから嬉しい。
そのまま本題のピアノに入りつつ、練習しようとするが、寒くてなかなか上手く手が動かず落ち込む私。
「はぁ〜上手くいかない〜」
「まぁまぁ、そう焦らんといて」
そうAさんは言ってくれるけど、どうしても納得いかないものだ。それからAさんは少し考えると
「なぁ、寒いなら暖まればいいんやない?」
「それはそうですけど、どうやって?」
「ん〜…例えばこうするとか!」
そう言って、後ろからバックハグをされている私がグラウンドピアノに映し出される。
「えっ…!?」
(ちょっと待って、理解が追いつかない!!)
私は焦って何も言えなくなってしまった。
まるで、熱湯を浴びた時のように顔から全身暑くなった。特に顔は火照ったようにとてつもなく赤くなっている。
「どお?暖かい?」
そんなことを言ってくれるAさんだけど、もうそれどころではない。
(って、これ夢と同じ状況…!!)
夢だけだと思っていた私にとってこのバックハグは刺激が強すぎた。
「あ、あの、温まりましたからもう今すぐにでもピアノを弾きます!!!」
慌てて私はAさんを振り解きピアノの椅子に座る。けれどそれで上手く弾けるわけもなく…
「あははっ、○○ちゃん動揺してはるな〜?笑笑顔も真っ赤やで〜?笑」
とからかってくるAさん。酷い。
Aさんは私のことからかって楽しんでいる。
けれど、そんなAさんも私は好き。
この気持ちやっぱり抑えられない。
私は決心してAさんの方を向いたのだった。