太宰治禁止命令と自由
私は今まで太宰治を読んだことがなかった
亡き父は何故か
幼い私に太宰治を読まない様に言った
教科書にも載っていたし、
学校の図書室にもあった様に思うけど…
ろくに小学校に通えていなかったので
良く覚えていない
友人の間で流行って
私も読んでみたくなり買って帰り
こっそりバレ無い様に読もうとしたが、
直ぐに見付かって取り上げられる事が何度も続いた
せっかくナケナシのお小遣いで買ったのに…
そう言った弾圧から
逃げ惑いながら
まるで
大昔のアナーキストの様に
海外逃亡を夢見たりして…
父の書斎にあったゲーテは
バレずにこっそり読む事が出来たし
隠れて買ったサガンも
父の検閲に合わずに済んだのに…
何故か太宰治だけは毎回、見付かってしまうのだった
超えては行けない自由思想の様な…
私が読んでは行けない理由が何か存在するのだろうか…
太宰治と言う名の自由
それ故、
その作家の存在は忘れる事のないまま今に至った
月日は流れ──
夫の部屋の本棚には太宰治の小説が全冊揃っている
夫にその話をして…
興味がある旨を伝えると
夫はドヤ顔で
太宰治について、熱く熱く語ってくれた
それを見ていたら
何故か腹だたしくなり……
それまでの私の太宰治に対する想いは
急に冷めてしまったのだった
その旨を夫に伝えると
夫は反省し
歩み寄り、謝ってくれた
そして夫は私にこう言った
「でも…貴女の部屋の本棚に
太宰治の本が一冊あるよね…?」
えっ?
た、確かに…
私の本棚には一冊だけ太宰治の本が……!!
いつの間に???
「貴女の部屋の本棚にある太宰の一冊は、
おそらく貴女が読んでも感動する程の
最高傑作では無かったから
あまり貴女の印象には残っていなかったのかもね…
多分、貴女の父親はとても真面目な人だった為に
太宰治の様な生き方が嫌いだったのだろうね…」
と続けて呟いた
夫と太宰治の映画は見たから
まぁ、いいか
私だけ中国のような厳しい検閲下で育った人
みたいな気分になって
ずっと悲しかったけど…
自由は映画の中にも感じる事は無く…
その映画は
どうしょうもない程に
情けない男の話だった
自分に酔いしれながら
物語をたしなむかのような
文学とは儚くも切ない
度数の高いアルコールのようだ
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