若葉 #1
少し前の話になるが
甥が新入社員研修でウチの街に来ていた。
甥は夫の弟(以下義弟)の息子である。
義弟から、そちらに息子が行くことになりましたので一度挨拶させてもらえないか、
という連絡があったのは着任の10日程前で、
そもそも義弟一家とは
ほとんど付き合いがなかった私たち夫婦は驚いた。
付き合いがないと言っても、
仲が悪いとかではなく、年に一度お正月に夫実家とのLINEグループ通話の際に話くらいはする。
その時に甥も参加はしているのだが、
自分からは話をしないので、
どんな子かはあまりわからないのだ。
正直、とても早口で少し変わった話し方をするな、とは思ったが
こういう若い人もいそうなので
そこまで気にはしなかった。
さて、どうしよう。
ごはんくらいは食べに行こうかね、と
夫婦で相談していたら、
引越しには義弟妻(以下義妹)がついて来るという。
今どきの新入社員は引越しも親が来るのか、
と驚いていたら、義弟から夫にメールが来た。
甥は自閉スペクトラム症(以下ASD)のグレーゾーンとのこと。
ああ、とそこでこれまでの違和感の
何もかもが氷解した。
しかしながら、甥はちゃんとした大学も出ているので、ASDの中でも以前はアスペルガー症候群と
言われていたものだろうと考えた。
まぁ親もついて来るし、とりあえず会って話をしようか、と食事の予約を入れる。
いつの間にか義弟がLINEのグループを作っていたので、そこにも参加した。
義弟、義妹(義弟妻)、甥、夫、私の5人である。
3月の寒い日、会社の寮まで迎えに行くと
義妹と甥が出てきて手を振っていた。
ふたりに会うのは実に20数年ぶりで
その時甥は赤ちゃんだった。
もう就職か、大きくなったなぁ。
「こんにちは」と言いながら
甥は義妹と一緒に車に乗ってきた。
都会からこんな田舎の寒い街に来て
大変でしょうと私は話した。
夫実家もかなりの田舎ではあるが。
その夜は料亭で4人で食事をした。
甥は鉄道オタクということもあり
ひとりで今までいろんな鉄道の路線に乗っている。
私も鉄道には興味があるので、
あれこれ質問をしていろいろ教えてもらった。
自分からは話さないが、話しかけるとちゃんと答えてくれる。
この3ヶ月の研修の休みの時には
スカイレールや錦川鉄道、一畑電鉄など
乗りたいものもあるそうだ。
ポケモンGOもやっているというので
早速夫婦で友達になってもらい、
ギフト交換もすることなった。
その後、義弟が来た際にも一緒に食事をした。
相変わらず私たちには自分からは話さないが、
話している人をまっすぐ見て聞いている。
ちゃんと自分の考えを持ってもいる。
挨拶もお礼もきちんと言える。
しっかりしたいい子だな、と感じた。
甥とポケモンGOのギフト交換をしていると、
休みの度にあちこちに行ったのだろう、
いろんな場所のギフトが贈られてきた。
ちょうど私たち夫婦も週末には
ずっと予定が入っており、
甥の方も夜勤があって不規則な生活なので
会う機会がなく、気にはしていたのだが、
広島や中国地方を楽しんでいる様子に
ホッとした。
(続く)