youは何しに
ある日の朝のキッチンで、
洗っておいたボウルを片付けようとした時に
ボウルの内側に何かくっついているのを見つけた。
丸くて小さくて茶色、
ナメクジだ。
うわわ、と思ったが
そもそもなぜナメクジがここにいるのか?
昨日ボウルはちゃんと洗って伏せて置いた。
いつの間にどこからやって来たのか?
何かの野菜についていたのか?
それとも観葉植物か?
気持ち悪さよりも不思議さが勝り、
私は速やかにナメクジを三角コーナーに落とし、
その上から野菜くずやらの生ゴミを乗せた。
夜には生ゴミごとまとめて新聞紙で包んで
ビニール袋に入れて捨てた。
さてそれから4日ほど経った朝、
洗って伏せて置いたフライパンを片付けようとして
私は目を疑った。
ナメクジだ。
コロンと丸まっている。
え。
待てよ。君はこの間捨てたはず。
慌てて夫を呼ぶ。
「この間ナメクジの話したやん!?まだおる!!」
夫はキッチンにやって来た。
コロンと丸いナメクジをしばらく眺めている。
私はその後ろ姿でピンときた。
丸くてコロンとしたものが好きな夫は
このナメクジを可愛いと思っているのだ。
「これ、下に逃がしてくるわ!」
夫は言った。
「触ったら触覚ピーンとした!」
何だか楽しそうだ。
そんなはずではなかったのに。
ビニール袋にナメクジを移し、
口を丁寧に閉じて
仕事用カバンの上に置く。
時々眺めて
「こんなに伸びてるよー」
と持ってきて見せる。
お願いだから早く捨ててくれ。
ウチのベランダに置いておいたら
いつも来るご機嫌なイソヒヨドリが
食べてくれるのではないのか。
いや食べられずにまた家の中に入って来られるのも困るな。
それにしてもいつ三角コーナーからどうやって脱出したのか。この数日はどこにいたのか。
ああやっぱりあの時塩で埋めておけば。
考えながらパンをかじっていたら
「眉間にシワ寄ってるよ」
と夫に指摘された。
シワも寄るわい。
結局、夫は駐車場の横にある
雑草がたんまり生えているところに
ナメクジを置き、
洗濯物を干しがてら
ベランダから覗いていた私を見上げて、
手を振って出勤していった。
いい事したって思ってんだろーなー。
行ってらっしゃい、と手を振り返す。
ナメクジくん、恩返しは必要ありませんので。
てかもう来ないでー。
(了)