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人生の大半を○○として過ごすなんて耐えられない ~星の王子さまを読み終わったあとの人たちへ~ ㉗

そうして、そう、もう2年もたったというわけだ・・・・・・今まで私は、こうして物語としてつむぐほかに、だれにもお姫さまの話をしてこなかった。私が出かけて家に帰って、お姫さまが出迎えてくれる生活は悪くない。私は人間の友だちはほとんどいないままだから、みんなにはこう言う。
「猫なんて飼っても、疲れるだけさ・・・・・・」
本当は、お姫さまといるだけで悲しみも寂しさも怒りもやわらぐ。しかし、そんなことを言って、人間の友だちをつくるきっかけをなくしてしまうこともないだろう。私は、人間の友だちをつくることが大事なことをちゃんと知っている。でも、友だちをつくることができなくても、人生はつづいていくのだ。
お姫さまは、たびたび窓から脱走して、私をあわてさせた。猫一匹いなくなるかもしれないだけで、こんなに悲しいのに、人間の家族や友だちだって一人でもいなくなったら、とてもあわてて悲しくなるにちがいない。かけがえのない人のかわりなどどこにもいない。私はお姫さまが大好きで、きっと失いたくなんかないのだ。お姫さまの朝鳴きの声も・・・・・・
 お姫さまが眠っているとき(お姫さまは一日の大半は眠っている)、いろいろ考えることがある。
たとえば、やっぱり龍のような川のはじまりは、龍のように見えるんじゃなくて、龍が住んでいるじゃないだろうか、とか。龍が本当にいるのなら、みどり色にぬった私の川の絵が龍そのもののように見えるのは間違いではない。
もし、龍が本当にいたら、龍はきっと木を食べるんじゃないかと思う。龍が杉の芽をたくさん食べて、いつか山から杉も少なくなるかもしれない。そうしたら、杉花粉になやむ人もこの里から少なくなるだろう。
〈でも、龍の食料が花だったらどうしよう・・・・・・龍が好きな花を植えたら、庭から花がなくなってしまうかもしれない・・・・・・〉
私は山百合を庭に植えるのをやめた。あれはお姫さまにいろんなことを吹き込んでわがままで、世話するのが大変だ。お姫さまにとって、毒にしかならない花だ。百合は山にあればいい。
けれど、ある時はこう思う。
百合が毒なら、毒にならないお姫さまの友だちになれる花はなんだろう。
いろんな花を植えてみたけれど、あの百合のようにお姫さまの気をひく花はまだなかった。
〈お姫さまの新しい友だちになる花がガラスのおおいをほしがったら、今度こそ言われたとおりにしてあげよう・・・・。でも、それ以上にわがままなら、百合のようにもう決して植えてはいけない・・・・・・〉

庭にこそ、世界がある。小さなお姫さまの世界のすべてだ。私にとっても、まだまだ知らないことがある。私自身の友だちになれる花もまだ見つかっていなかった。お姫さまが花と話して、私にも語りかけてきて、世界のなにもかもが、それまでとはすっかりかわってしまったのだ・・・・・・
 庭をながめてみてほしい。そうしてこうたずねてみてほしい。〈あなたはわたしの友だちになってくれるのかな?〉すると、花のこたえでなにもかもがきみにとってかわってしまうだろう・・・・・・
 でも、それがどんなに大事なことか、おとなにはぜんぜんわからないだろう!


これは私にとって、一番身近で美しく、一番悲しい風景だ。小さなお姫さまは、私と同じ風景を見て、同じ世界で暮らしている。お姫さまが私の世界にあらわれて、わたした世界を知ったんだ。
だから、しっかり見ておいてほしい。きみたちの世界を。いつかきみたちが、世界から出て旅をすることになっても、きみたちの世界がかならずここにあるとわかるように。そうして、いつかきみたちの世界が新しくなったら、どうかあわてずに、その世界の中心で待ってみてほしい。もし、きみにお姫さまか王子さまがやってきて、そのこが語りかけてくるように感じたら、そのこが鳴いたり、ふさふさの毛を持っていたら、あるいは語りかけても答えてくれなくても、きみたちはそのこの気持ちがきっとわかる。そのときは、たのんだよ!悲しみにしずんでいるそのこに、きみの世界をわけてほしいんだ。ただいまと言える場所に・・・・・・

<完>

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