
我が家の庭の風景 part.144「年末の掃除」
自家用車の車窓から雪をうっすらとかぶった山が見えた。相変わらず物心ついた時から見慣れている地元の山の名前がわからない。あの山があるからこっちは西で東だとか、山の名前と同時に方角までわかるようになるにはあと何年かかるだろうか。40歳を前にしてこれなら、県道も覚えるどころかすべて忘れて死ぬのかもしれない。
山が雪をかぶったその日に、町の有線放送で凍結注意のアナウンスが流れた。お湯を少し出して寝ないと水道管が破裂する。湯沸かし器が壊れたら、修理代はともかく、修理の部品が届くまで修理ができずにとんでもない電気代になってしまう。今年は夏にしばらくお湯が漏れたままで、やはり電気代が跳ね上がった。
外付けの湯沸かし器は水道管の破裂だけでなく、外暮らしの猫の凍死も防いでいる。日中は日当たりのいい前庭で洗濯物のそばのどこかで寝そべっているボス猫が朝晩はやはり台所の勝手口の方にいる。冷暖房機の室外機と湯沸かし器とがそろっているから、暖をとりやすいのだろう。私の寝室の外にも室外機があって、おまけに窓から明かりが漏れるからその近くで夜を過ごすのが好きなようだ。おかげで、夜中にボス猫が他の猫に吠えている声が聞こえて胸がキュッとなる。最近は室内に保護している白猫二頭がよく鳴くから、外の猫の声か室内の猫の声かわからないこともある。
家の中で2週間も過ごせば、外暮らしで汚れていた猫の毛も新雪のように白くなってきた。しかし、毛玉がなくならない。抜け毛がひどい。腸閉塞で猫が苦しむ姿は同じ腸閉塞になりやすい人間として見たくない。経験者だから、その苦しみは分かっている。本当に腸閉塞ならのたうち回るほど苦しいはずだというけれど、周囲にはわからなくても私は苦しんでいたのだ。CTを撮らないとそんじょそこらの腸捻転は気づいてもらえない。
しかし、毛玉はできてしまうと命取りになると動物病院で言われても、真冬に全身麻酔で猫を丸刈りにする決断はできなかった。腸捻転で苦しむか、風邪に苦しむかの二択しかないのか。まずは、私が猫の毛を刈る練習をするしかなさそうだ。練習が本番だから、失敗が許されないことが怖い。せいぜい、床を雑巾がけして長毛猫がほこりアレルギーにならないようにしようと思った矢先の雪と本格的な冬のはじまりだった。やっぱり、猫の丸刈りは風邪をひかせてしまいそうだ。だが、私も毎日の雑巾がけはつらいというジレンマに陥っている。家の中に成猫が4頭もいれば、抜け毛と爪とぎのカスがひどい。さらに雑巾がけする先から、猫たちはついてきてその上に毛をまき散らす。
雑巾がけをしても猫の毛が床から減ったような気がしないのだ。不自然な長毛猫を作り出して、腸閉塞で死なせるような人間の行いが憎い。雑種とはいえ、もとは長毛猫が避妊去勢されないまま外に出されたことによって生み出された命なのだ。
家の中の掃除が全く追っつかない、むしろ後退しているような状態だから、勿論年末の庭掃除など手を付けられているはずがない。12月の頭に古いプラスチックの鉢植えを捨てて整理しようとしてそのままだ。新しい両手に余るほど大きなプランターになんとか11月中に種まきはしたが、こう冷えてくると水やりは逆効果でむしろ成長を阻害してしまう。根が腐ったり、土にカビが生えたりする。しかし、玄関の胡蝶蘭に母が受け皿に水がたまるほどたっぷりと水をやっていることに気づいた。案の定土の表面に白いカビが生えていた。それを少し取って捨てて、母に注意して胡蝶蘭はなんとかまだ生きている。しかし、外の温室の蘭たちはもうダメだ。
ままならない荒れ庭を毛だらけの服を着て眺める毎日だ。霧が深くて、朝晩庭の姿がよく見えないのが幸いだ。しかし、寒さが堪えるのか、外の雄猫たちが時折長く吠えるように鳴いているのが、私の胸に堪える。
いいなと思ったら応援しよう!
