窓辺の猫 第五十二回「目つきが悪い猫じゃなかった」
※避妊手術後の猫の写真があります。苦手な方はご注意ください。
GW明けから飼い主のいない猫の避妊手術をはじめました。我が家には現在4匹庭に居着いた猫家族がいます。まずは5月初旬その一匹、父猫のカエルくん(心の中の仮の名前)の避妊手術をして来ました。
猫のカエルくんの受難
カエルくんをはじめて見かけたのは2022年です。やはり我が家の庭先でした。その頃は今より顔が小さく尻尾が長かったので、おそらく成猫ではなかったのでしょう。同じ年のお盆休みに網戸の玄関を開けて突入してきた猫・トンボをなし崩しに飼う事になり、カエルくんも玄関近くで見かけた事があります。
麦わら柄トンボと灰縞柄のカエルくんは全く似ても似つかないので、兄妹ということはないでしょうが、大体同じ頃に生まれた同級生なのかもしれません。
カエルくんはオスで、メスのトンボより行動範囲が広かったのでしょう。その頃は毎日庭で見かけるという事はなく、よそで飼われている外猫かもしれないと考えていました。
しかし、二年近く見守っているうちに我が家で見かける日数が増えてきて、昨年はとうとう美少女のお嫁さんを連れて来ました。
カエルくんは縄張り意識の強い猫で、我が家の飼い猫二匹は脱走するたび喧嘩して負けて、特に三毛のセミ猫は先日家の中に突入してきたカエルくんに複数の引っ掻き傷を追わされてしまいました。
改築はされていますが、我が家の間取りは150年以上前のもので、窓が多く外から猫たちが中を覗き込める場所がたくさんあります。家の中に憧れを募らせつつも、人間とも猫とも仲良くする気がないのがカエルくんでした。我が家に来た他の野良猫は追い払っているようです。
ところが、その孤高のボス猫のカエルくんはとても子煩悩な猫でした。お嫁さんとはつかず離れずで取り立てて仲良さげにしているところは見ません。しかし、子どもたちに対しては庭の隅で寄り添って昼寝したり、遊んであげたり、或いは教育まで行っています。
私が庭作業をしていたある日、気づいたら、数メートル離れた背後にカエルくんが座り込んでいました。その後ろから子猫たちが二匹やってくると、カエルくんはじっと柿の木を見上げました。
「お父さんの姿をよく見とけよ!」と言わんばかり。
しかし、子猫たちはすぐに飽きて畑の離れた場所で遊びはじめ、カエルくんも緊張を解いて、狙われていた鳥は難を逃れました。
よそ猫は追い払われ、飼い猫が脱走してもやっつけて守られて育っている子猫たちはいつまでも自立せず、生後8ヶ月近いであろう息子も庭に残ったままです。
そして、長毛の美人の奥さんも2回目の出産をしたようです。赤ちゃんがどこにいるのか庭が広いので姿形どころか鳴き声も聞こえませんが、体型を見るに産んだのは確かなようです。4月末頃産んだと思うので、出産から1ヶ月以上経った6月まで様子をみないと母猫の避妊手術は出来ません。
非常に愛情深い夫婦ですから、無事に育っているなら今いる二匹のように天使が生まれているのでしょう。
*動物愛護センターに確認したところ、金銭が伴わなければ個人でも猫の譲り渡しはできるということでしたので、飼われたい方がいましたらご一報ください。九州であれば届けに行きます。*
避妊手術前後の様子
※避妊手術後の猫の写真があります。苦手な方はご注意ください。
猫は夜明け前から行動をはじめます。私の畳部屋の障子は破れており、そこに上から洗濯バサミで布地をひっかけて覆いをしていますが、外の猫たちは気配で私が起きたのが分かるようで窓に寄ってきます。或いは猫たちの皿にごはんを盛る音が聞こえているようです。
朝は私の部屋の窓辺に4匹集まることが多いです。
GW明け2日目。我が家の猫たちに早朝4時過ぎに起こされました。そして、我が家の飼い猫二匹にごはんをあげると窓の外にガサゴソという音が聞こえたので、昨日のうちに窓の外に置いていたキャリーを見に行きました。しかし、中にはどの猫もおらず、私は紙皿でドライのキャットフードを中に入れました。
するとなんということでしょう。
何の警戒心もなく、カエルくんが中に入っていったのです。念の為はめていた革手袋には傷もつかず、カエルくんは扉の鍵を閉めるまで大人しくしていました。二匹をまとめて投げ飛ばす力持ちのカエルくんは度胸が座っていて、無闇に暴れる猫ではなかったようです。
動物病院に午前中に電話をして、正午の20分ちょっとで駆虫と去勢を済ませて帰ってきました。
麻酔が完全に切れないとふらふらと道路に飛び出して車に轢かれる可能性があると聞き、玄関先に出していたケージの中にくったりしたカエルくんを入れました。しかし、カエルくんは抱き上げている間は身動き一つしないでいながら、少し目を離した隙に下に敷いておいた段ボールをぐちゃぐちゃに噛みちぎって蹴飛ばして散らかしていました。
しかし、私の姿を見るとお尻を向けたままくったり横になりきつくて動けませんというポーズを取ったのはなんなのでしょうか。
動けないふりで油断させて脱出を試みようと思ったのか。
カエルくんをケージに移した後、外の同じ場所にキャリーを置きました。キャリーが何か知らない猫3匹は交互に入って遊んでいました。捕獲は容易そうで、せっかく買った捕獲器は日の目を見ないままになりそうです。
カエルくんはしばらくキャリーどころか人間の前に姿を現さないかもしれません。動物病院では何が起こるかわかっていなかったので、「かなり凶暴な猫です」と説明したものの獣医さんの革手袋の必要がなかったほどおとなしくしていました。来たことないから威嚇して暴れて逃げ出すほどの何かがあはりとは思わなかったのでしょう。車中でも全く鳴きませんでした。無敵のボス猫は苦労は経験しても、我が家の庭付近で怖い思いをしたことがほとんどなかったのかもしれません。
ただ懸念されるのが、カエルくんの眼球が癒着しかかっていたことです。見かけるたびに健康状態に目立って悪いところはなさそうだと思っていたカエルくん。どうやら我が家の飼い猫セミと同じく子猫の頃に母猫から猫ヘルペス(猫風邪)をもらってしまっていたようです。
「眼球が癒着・・・いや、癒着まではいってないな」と動物病院で獣医さんに言われた時にはドキドキしました。推定三、四歳。荒っぽいけど、子煩悩で心優しいカエルくん。駆虫して少しでも快適に暮らしてくれますように。
カエルくんは四匹の家族の中で一番近づいてくる割にいつも睨むような表情をしているなと思っていました。しかし、それは結膜炎のせいだったのです。ネットで調べてみたところ、眼球が癒着して鼻涙管が塞がると涙が溢れるそうです。カエルくんはいつも威嚇して目つきが悪かったわけではないのです。目が悪かったから、目つきが悪いように見えていただけなのです。さらに私も目が悪いので気づいていませんでしたが、カエルくんの耳は傷だらけでした。鼻の頭によく傷を作っているのは知っていました。耳には深い切れ込みの傷もあり、カエルくんはどれだけ苦労して涙を流して生きて来たのかと感慨深くなりました。
我が家の三毛の飼い猫のセミ猫も猫ヘルペスとアレルギーがあります。これまで眼球癒着のことは知らなかったので、めやにには一層気をつけていきたいと思います。涙の傷が出来ないように!また、人間の私もめやにが出やすいので、一緒に気をつけます。
クラウドファンディングをした理由
私は今年の4月後半、この4匹の猫の避妊手術費用をどうにかしようと初めてクラウドファンディングに挑戦しました。これは母猫の2回目の出産前でしたが、オスとメスがいるのだから、また増えるかもしれないと延々と自分で費用を工面するような事を避けたいと他力本願に頼ったのでした。しかし、現実は甘くなくうまくはいきませんでした。しかしながら、何もしなかった頃より前向きな気持ちになれ、結果今一匹避妊手術にこぎつけました。実のところ昨年からこの4匹についてどうしたらよいか、方法を探していました。
しかし、保護団体は基本的に保健所からの引き取りで猫の新規預かりをしてくれるところが私が調べたところでは県内で見つけることができませんでした。
クラウドファンディングの方法を探ったのは今年の3月です。クラウドファンディングに頼ろうとした理由を箇条書きすると以下のようになります。
いつの段階か忘れましたが、今いる子猫たちが生まれていると気付いた後に猫の避妊手術の助成金制度を見つけました。しかし、保健所に確認したところ、予算が終わっていました。
年度が変わると制度が変わるかもしれないのでお答えができないと言われ、4月初旬に電話しましたが、まだ制度が発表になっていませんでした。その段階でクラウドファンディングに突入することになりました。しかし、クラウドファンディングも結果こうなったように上手くいかない可能性も重々わかっていたので、ずっと県のホームページはチェックしていました。
しかし、待ちに待った制度の発表はGWの最中だったようです。私はカエルくんを避妊手術に連れて行ったその日の午前中にネットで知りました。
そして、助成金が無料の避妊手術に変わっていたのです。県の愛護センターの建物が新しくなったのに合わせて、愛護センターで無料の避妊手術をやることになったようです。県庁所在地では今までも市内在住者には無料の避妊手術をする市の動物愛護センターがありました。それが郡部にも対応する施設が新しく県の愛護センターでも出来たということですね。
また、地域猫活動に取り組めば補助金が支払われる制度がはじまりました。県庁所在地はわかりませんが、これまでは県内に地域猫活動はなく、野良猫には餌やりをしないでくださいというだけでした。
新しい制度で救われる猫は多くなるかもしれません。しかし、県の動物愛護センターは我が家から片道2時間57分かかります(Googleマップで調べました)。往復6時間。
4匹、或いはそれ以上の猫を愛護センターに連れていく事はなかなかハードルが高いです。途中はほとんど高速道路を通りますが、毎回家族の誰かを丸一日付き合わせる事になります。
全ての人にとって良い制度など難しいのです。市内以外の人も無料で猫を避妊手術できるようにはなりましたが、制度の利用は我が家ではやはりハードルが高いなと思います。一匹なら連れて行けても、その後が続かない。
地域猫活動についても家族に相談してみました。今のところは、私に動く事は難しそうです。私は独身で親は高齢者。
「普段地域の活動に熱心ならともかく、自治会と何のつながりもない人間が突如猫について提案しても受け入れてもらえるのか」と母に言われて、それはそうだなと静かに納得しました。地元に戻ってきたのが4年前。持病があり、体力もない。地域に何も貢献していないのに、いきなり地域猫活動といっても、動物が苦手な人を説得するのも難しいでしょう。
どんなに良い制度もそれをうまく利用できるかは、使いたい人の力量にかかってくるのです。
猫の事がなくても、自分の現状を変える事は難しく、今回の件でも改めて限界を知ったに過ぎません。明日お金持ちになったとしても、野良猫問題を解決する画期的な方法が思いつくわけでもなく、猫に限らず、飢えや貧困、衛生問題など解決する手段を持たず、持っていたとしてそれに取り組むための体力と寿命があるかも分かりません。
しかし、カエルくんには余計なお世話で私のエゴで現状身の回りの生活が何一つ変わらなかったとしても、自分にとって今回一つ行動出来たのは良かった事だと思うのです。