「猫の嘴」 第二十一回 動物型のスパイカメラ
動物になって、動物の群れの中に入ってみたいと思ったことがあります。あるいは生まれ変わったら人間以外の何の動物になりたいだろうと考えたことがあります。
その夢が少しだけ叶えられたドキュメンタリーです。
2カ月間子供を守り続ける母親ワニ。
南国テナガザルは母親猿が赤ん坊が2ヶ月ほどになると、若い猿をベビーシッターとして雇います。しかし、そのベビーシッターの若いメス猿は遊びたい盛り。たまに子猿をお腹に抱えていることを忘れてしまいます。侵入したスパイカメラを本当に子猿だと思ったメスの1頭は、スパイカメラを倒してしまって、子猿が死んだと思い込む。すると群れ全体が悲しみに包まれ、猿たちが集い、どこか厳粛な儀式が行われるのです。葬儀と言うのは、人間が思いついたことでは無いのかもしれないですね。
ときにはスパイカメラも失敗します。蛇の群れに入ったときには、あまりの蛇の多さから蛇の中に埋もれてしまって、何も撮れなくなりました。大トカゲの雌に擬態したスパイカメラは、引っ掻いても発情の匂いがしなかったためにメスではないと見破られてしまいました。
ニホンザルは特に愛情深いです。何かの拍子に温泉場から逃げ出した日本猿の群れ。子猿が一頭取り残されましたが、母猿は引き返して子猿を取りに行きました。
猿だけではありません。このようなドキュメンタリーを見なくても、私は自分の子ではない子供を同じ種類の他の動物が育てることを知っていました。庭に来る飼い主のいない猫たちを見て知ったのです。それはオスかメスかに関わりません。たくさんの子供たちを面倒見るのが、好きなオスもメスもいます。外敵からも守ってあげて、生き方も教える。子守をすれば、自分が傷だらけになることも厭わない。叱るところはきちんと叱る。
矜持が高く、孤独を好むと言われる猫ですら、小さい命にはこうべを垂れるのです。少子化が叫ばれる昨今、子供を育てたいという思いを社会全体が持つためには、他の動物から学ぶこともありかもしれません。