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「猫ですが、前世の記憶があります」第1話

 ※noteでの創作活動のネタに行き詰まっています。これも絶対に続きません。

 猫ですが、人生がちょっときついです。実は僕、前世の記憶があります。前世は人間でした。前世が人間であった猫にとって猫の生活が辛いです。

 辛い事はいっぱいあって、書ききれません。そうですね。あえていうなら、特にきつくなっのが3年ほど前のことでしょうか引っ越しをしました。そうそう僕は子猫ではありません。もう4年も生きている白黒斑猫なんです。おまけに前世人間の男だったのに、今回は雌猫なんですよ。ボクっ娘猫ですみません。あ?この言い方古いですか?僕割と前世短かったんで、結構今と離れてないんですよ。

 飼い主は、人間のお嬢さんで陽貴(ハルキ)といいます。ちょっと男みたいなかっこいい名前でしょ?と本人は気に入っておられます。このお嬢さんが父親の転勤にくっついて、福岡に進学すると言い出したのです。

「オンラインで習っているダンスの先生が福岡にいるの。その人から直接指導を受けたいんだ。高校だってダンス部がある高校がいいし、こっちだとちょうどいい偏差値のところがないんだもん」

 そんなふうに父親には説明していましたが、僕は知っています。彼女はそのダンス講師に恋心を抱いていたのです。本人としてはもう遠距離恋愛のようなつもりで直接会ったらどうなるだろうと心配でした。けれども彼女が高校に進学したタイミングで、そのダンス講師は結婚して、東京と福岡の二重生活になったんですけどね。結局東京にいても、その先生の指導は受けられたわけです。

 しかし、そんな未来など知らない彼女は、目指す高校に入学するために一生懸命勉強しました。

「テマリ〜。もう勉強嫌だよ。でも志望の高校に受かったら、テマリも一緒に連れてっていいってお父さんが言ってくれたんだ。だから私頑張るよ」

 僕のために頑張ると言われたって、僕は福岡なんか行きたくなかったんです。だって僕は前世福岡の人間でしたからね。東京のマンション暮らしの方が新鮮でした。保護猫カフェに拾ってもらえるまでは、いつもひもじい猫で、こんなマンションで暮らせるなんて夢にも思っていませんでした。せめて東京の猫に生まれて良かったと思っていたのです。

 とは言え、ご主人の転勤で2拠点生活で、今のマンションは豪華すぎるということで、東京の家も引っ越すことにはなっていたんですけどね。どんな家になったのかいまだに見た事はありません。

 陽貴は父親の転勤で落ちぶれたと思われるのが嫌だったようです。東京にいた頃の友達とは未だに連絡を取っているようですが、長期の休みに2、3人の友人と会うだけです。それも僕に会いたいからといって、2泊3日で帰ってくるんですよ。

「絶対に大学生になってもテマリと一緒に生活する!」

 彼女は一人暮らしはしたくないみたいなんです。それと言うのもお父さんが、新聞社に勤めていて、多忙で生活を助けてあげたいと言う気持ちも大きいようでした。僕は多分お父さんと一緒にいたい彼女のダシに使われたんですね。彼女はお父さんを尊敬しています。お父さんが出た大学に進学するのは諦めたようですが、「もっと頭が良かったら、私だってジャーナリストになれたのになあ」とある日の夜、僕を抱きしめて、泣いていました。抱きつかれるとびっくりするんですよね。猫の性なのか、前世が人間だったから、僕は急に抱き上げられるとびっくりするんです。あまり顔を近づけられるのも好きではありません。でも、陽貴は僕にスリスリするのが好きなんです。

「東京の友だちがさあ。いなくなっちゃんだ。ダンスも人生もやめちゃった」

「お母さんが公立に行けるなら公立の大学にしなさいって。お父さんはどっちでもいいけど、一人暮らしをしなさいっていうんだ」

「どうしよう。彼氏が東京に行かないなら別れるっていうんだ」

 愚痴というより行き場のない悲しみを僕に明かすことが多い陽貴。それを聞かされる僕の気持ちは潰れそう。

「危なかった!テマリありがとう!男なんかいらないや。やっぱり大事なのは女の友情だよね」

 大学進学で離れ離れになるからと彼氏に請われるまま、家に上げてしまった陽貴、バカだよね。福岡に残りたいって言ったら、それなら別れるって他人の進路に口出して脅してくるようなやつです。そんな男を家に上げてはいけません。僕が部屋に突入して引っ掻いてやらなかったら、本当に危なかったんです。

「本当にテマリは頼りになる私のヒーローだよ。泥棒だって撃退しちゃうしね。私もテマリみたいな強い女になりたいな」

 前世が男なんで、今がメス猫でも男か女か微妙なところですけどね。でも猫にしては賢いんじゃないかって自負してます。前世は到底賢いとは言えない人生でしたけどね。それに撃退したのは、泥棒じゃなくてストーカーです。

 お父さんの帰りが遅かった日に、この家に侵入者があったんです。たまたま僕が尻尾を踏みつけられて、大騒ぎして、その物音で陽貴が起きてきたんです。それで犯人も慌てて逃げ出そうとしたけれど、やっぱり僕が足元にいて、蹴飛ばしてしまって、僕がまた怒って思いっきり引っ掻いて、陽貴が「だれ?」て聞いたら、その侵入者が「泥棒です」って名乗ったんですよね。泥棒が泥棒なんて名乗りません。

 そのことがあって、1週間後にお父さんは職場を辞めました。
「俺のために福岡に残ってくれたのにごめんな。浪人して、東京の大学を受け直しもいいぞ」
お父さんは仕事を辞めた理由を説明しませんでした。でも僕は電話で話しているお父さんの会話を聞いていましたから、人間関係のトラブルについては察しがついていました。泥棒を名乗った女の人は逃げ出しましたが、陽貴が通報して、猫のひっかき傷の証拠がはっきりして捕まりました。
「ううん。私、福岡が好きだから。お父さんが東京に戻るなら、私この家で一人暮らしできちゃうなあ。テマリがいれば防犯もバッチリだもんね」
防犯がバッチリじゃないから、お父さんの同僚が家に侵入できたんだと思っていましたが、どうやらお父さんのバックから鍵を抜き取ってコピーを作っていたようです。それにオートロックのマンションですが、入るための番号も調べてわかったようでした。
 親子揃って他人に対して油断する性格のようです。東京の職場で何があったかわかりませんが、きっとその正義感で周囲の人とぶつかってしまったのでしょう。お父さんはそういう性格です。
「俺もなぁ。福岡の方が好きなんだよ。このままこっちで働こうかな。勇気も大学卒業したし、お母さんもこっちに来てくれるかもしれない」

 勇気と言うのは、陽貴の5つ歳上のお兄さんです。昨年大学を卒業して今は社会人1年目です。お母さんは結局来てくれませんでした。東京の会社を離れられなかったのです。けれども、定年まであと10年。余生は九州で過ごしても良いと言ってくれたので、お父さんはそのまま福岡でフリーの記者になりました。
 それにしても、東京にいた時から、お父さんのモテ方は尋常ではありませんでした。マンションに押し掛けてくる女性や、頻繁に連絡を取りたがる同僚にはこと欠きませんでした。僕も前世は割とモテる方だったので、お父さんの苦労がわかります。お母さんはよくそんな男の人と結婚したなと思います。僕だったら浮気しないと言っても絶対信用できませんね。それは僕が前世浮気症だったからでしょうか。

「テマリ!私と一緒に福岡で生きていこうね」

 福岡なんてやだ。九州なんて嫌だ。前世の記憶を思い出すからと言えたらどんなによかったでしょう。けれども、ずっと一緒なんて無理なんです。陽貴はそれから1年後に海外に留学し、それから僕が死ぬまでに会えたのは、たった一度きりでした。

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猫様とごはん
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