見出し画像

茫漠とした不安 塩田千春展@大阪中之島美術館

視界いっぱいに広がる赤。どこを歩けばよいのかわからない眩暈のするような道。

展覧会場入口の手前から塩田千春の世界でした。この垂れ下がる糸の間の道を抜けて会場に入ります。

《インターナルライン》2022/2024 インスタレーション:赤い布、ロープ

塩田千春、名前はよく知っていて、どんな作品があるかもなんとなく知っていて、なんならたぶん一度見たこともあったはず。でも、どこか不安になる感じという第一印象を持っていただけで、自分なりの理解が全くできていない芸術家でした。

そんな私の抱く印象とは裏腹に、会場には多くの若い人たちがお洒落な写真撮影にいそしむ、今どきなギャップも面白いところでした。

《巡る記憶》2022/2024 インスタレーション:ミクスト・メディア

糸で、糸が、何を表現しているのか

ずっと疑問に思っていたのが「糸」。
目に見えないものを形に残したかった、という風なことが書かれていました。記憶、つながり、等々。

赤は、血液の赤や運命の赤い糸をあらわしています。血液は、家族や宗教、国籍などを象徴していて、それらが混ざり合って様々な家になっていきます。故郷の形も様々で、それを表した作品です

朝日新聞デジタル「晴れときどき展覧会」
人と人、心と心を結ぶ糸 「塩田千春 つながる私(アイ)」 https://www.asahi.com/and/article/20241010/425068393/

色によっても、込める意味合いが異なるようです。そして、解説や資料映像などを見ていると、鑑賞者が作者と異なる解釈をしても良いようにも思えてきました。映像の中でも語られていましたが、「なんだろう?」「これほどの糸、どれくらい時間がかかったんだろう?」と思ってくれるだけでもいい、という風なことを言っていました。まずはお越しください、と受け入れてくれる優しさを感じました。

The Chronology of Chiharu Shiota 28分50秒

本展では、「塩田千春 クロノジー」という彼女自身がそれぞれの作品について語る28分50秒の資料映像が流されています。

とても良かった、安直な感想ですが。苦悩、表現したかった想い、制作過程がわかり、その後のエリアで見たパフォーマンス映像を、作品として受け入れることができました。もしこの映像がなければ、彼女の多くのパフォーマンス作品は到底理解できなかったと思います。長尺な映像ながら、多くの人がじっくり視聴していました。

話す様子を見ることで、多少なりとも人となりが分かり、よりリアルな「人」として私の中に取り込むことができのも良かったです。

《つながる輪》2024 インスタレーション:ロープ、紙
《無題》1992 油彩/カンヴァス

雲散霧消 観賞を終えて

大阪・岸和田市出身、同じ大阪出身というだけで親近感が湧きました。現在はベルリンを拠点に活動されています。ゆっくり静かに話す方でした。当たり前かもしれませんが、作品に漂う雰囲気と同じ空気を感じました。

生、存在、思考、そうしたものにとても繊細な人に思えました。創作活動は彼女が生きる源泉、表現することで息をしているような、芸術家の凄さを感じました。彼女の作品に感じていた「不安感」は、作品に詰まったそうした思いを受け取っていたからなのかもしれません。

展覧会を通して、意図や意味のわからない未知だったものが、作品と自分なりに対話できる程度には解像度があがったと思います。塩田千春作品と少し仲良くなれた気がします。良い展覧会でした。

大阪中之島美術館 会期は12月1日まで 映像作品以外は概ね写真撮影可

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?