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独身アラフォー男の土曜日の夜戦(第一話)
パソコンのモニターの右下の時刻に目を移すと18:40分、さて戦の準備だ。
壁際に乱雑に重ねられたシャツの中からシワがあまり寄ってないTシャツに着替え、ポケットに財布を入れて部屋を見渡す。
机の上に置かれたスマホをお尻側のポケットに入れ、鍵を手に取ると玄関に向かう。
1週間近く溜めたゴミ袋を足で隅に蹴やり、サンダルを履くと玄関の扉を開ける。
19時前だというのにまだ夏の日差しは目に染みる。
ほとんど外出しない事もあり、扉を開けた時の熱風に心の半分は削り取られているが、冷蔵庫の中もすでに空で朝からポテトチップとちくわ二本しか食べていないので、出かけざるを得ない。
そのちくわもすでに賞味期限を1週間過ぎていたからか、少しだけ食べた時に口内に酸味を感じたのだが、背に腹はかえられぬ。
そうだ、先程のトイレでトイレットペーパーを全て使い終わったのだった。忘れないようにせねば。
アパートの階段をサンダルが鳴らす音が体にも頭にも響く。
セミの鳴き声は右耳から入り左耳から抜けていく中で、脳みその奥深くをチクチクと小さな針で痛みを与えるようだ。
近くのスーパーへと続く道は両サイド共にブロック塀で日陰は無く、放射熱がアスファルトから顔へと昇ってくる。
すでに10分ほどは歩いているのだが、誰一人としてすれ違わない。
私が子供の頃はこの時間でも、子供達は自転車で走り回っていた記憶があるが、これも温暖化の影響なのだろうか。
顎から汗が滴ろうかとじっとりと顔に汗が滲んできた頃に、ようやくお目当てのスーパーが見えてきた。
スーパーの周りには流石に人がチラホラと見受けられ、駐輪場にも白いビニールを前カゴに乗せた老齢の女性がペダルを重そうに漕ぎ始めている。
スーパーの自動ドアが開いた瞬間に冷風が体を包み、まるで冷蔵庫の中に入ったかのように一瞬で体の熱が緩和されていく。
汗ばんでいたシャツが急速に冷やされて、逆に寒さを感じる。
よく見ると、スーパーのガラスは薄っすらと結露しており外がぼんやりとしか見えない。
かなり冷房の設定温度が低いのだろう。
そんなことを考えながら、緑色の買い物カゴを手に持つ。
真っ先に向かうのが、惣菜コーナーである。
スマホの時計を見ると19時ジャスト。
すでに惣菜コーナー周りには見知った顔が並ぶ。
割引シールを貼り付けている店員の横に陣取るのは、60過ぎの白髪の小柄な爺さん。
彼はある程度品物に目を付けておき、割引シールが貼られたタイミングで獲物をゲットする。
すでに彼の買い物カゴには黄色いシールが貼られた商品がいくつか入っている。
私が惣菜コーナーに着いた時には既に割引シールが結構な商品に貼られていた。
そうか、今日は土曜日だ。
土日はお客さんが買い物するタイミングが平日よりも早いので、割引シールも若干早いのだ。
不覚。
しかし、まだまだ割引シールは貼られている途中であり、暑いせいもあるのか割引商品競合者は多くない。
一旦、今日の惣菜に目を配る。
夏場だからか、揚げ物類は既にほとんどない。
揚げ物で残っているのは、4個で120円の紙袋に入ったコロッケ、それと3本で100円のちくわの磯辺揚げ。
どちらも美味しくないわけではないのだが、些か食べ飽きた感がある。
それに、温めないとベッタリとした油感が夏の暑さにはちょっと合わない。
また目を移す。
割引シールが貼られた煮魚が目に入る。
カレイの煮付け298円に3割引のシール、イワシの梅肉煮298円にも3割引のシールが貼られている。
暑い日にはさっぱりと久しぶりにイワシでも食べるかと手を伸ばし、商品に手が届きそうな時に頭の奥に一瞬の閃きが走り伸ばした手が止まる。
半月前の8月の頭の頃、同様に夜ご飯は魚にしたのだが、残しておいた煮汁や骨が次の日には大変な匂いを放ち、2日程部屋から匂いが消えなかった事を思い出したのだ。
危ない、危ない。私の様なものぐさは片付けの事も考えねばならない。
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