
自由にやろう
昼下がり、友人と会った。
久しぶりに見た彼の、いつもの調子に
少し気が抜けてしまっただろうか。
「就活どうよ?ってか民間志望だっけ?」
沈黙を埋めるみたいに音が溢れる。
伏し目がちの正面
キッパリとしたコントラスト、やっぱり綺麗だな
それがちょっとだけ曇って
そうだね、専攻と違う分野を目指すのってわがままなんかな
独り言みたいに呟いた。
もうすぐ三十路だし遅すぎるよね、
今までが無駄になっちゃうんかな
乾いた声色はわざとらしいくらいに明るくて
あー張り付けたみたいなその笑顔、いびつだな
彼のことは大学に入る前から知っているし
研究課程に進んでからもちょくちょく連絡取り合ってたし
いち就活生として、彼の領域がどんな得意分野になるかもわかってる。
もう引く手数多で、あの時はそんなことさして考えてなかったのにって
そして知っている、
「そんなことないよ」
私の口が動くこと、期待していないことも。
もう所詮他人事じゃんとか思いつつ
「まあ一個くらいこだわりがないと選べないでしょ」
ここ売り手市場だし、君は博士号だし、
教授とか親戚とか知り合いからのプレッシャーあるんだろうなあ
なんて思ってさ。
同級生の報告、上回生からの質問、
キャリアセンターからのアドバイス、
専攻に合致したスカウト、
そして膨張したプライドも恐怖感も
そっくりの孤独、どこに捨てたらいいんだろうね
でも直後に、私の専攻が『就活難民』だって気づいて
左右非対称に笑ったの。
もういいよ、いいんだよ
専攻に関係あることしたいってワガママかな、
あー、研究も目に見える成果が出やすいフィールドにすればよかった。
思ってもないこと口をつく直前
自分の好きを否定したくなくて、それはすごく後悔した。
君も好きなことをやりなよ、
頭でっかちでさ、特定技術に限って経験豊富でさ
もう無意識で死ぬリスクは排除しちゃうんだから
適当に選んだって、いくら推定を重ねたって
どんなに挑戦したつもりでも、安定を狙ったって
マクロで見たら、分類するなら、同じマス目なんだから。
どこまでわざわざ言葉にしよう
左手を口元に持ち出せば
腕時計に視線は止まり
「ああ、行くか」と彼は呟く。
突き当たり、なんとなく振り返った。彼はちょうど立ち去るところだった。
少し微笑んで、午後の予定を思い出す。
さあ、いつも通り行こうか。
いいなと思ったら応援しよう!
