NEJ vol 2. を使ってどのように授業をしているか①
私の所属する日本語学校のA2レベル(初級前半・後半)クラスでは、週4回(50分×8コマ)、NEJという教材を使って、日本語の授業を行っています。A2.1(初級前半)から入学してきた学生は、NEJ vol.1 と NEJ vol.2の2冊を、6か月かけて学習することになります。
私は、A2.2クラス(初級後半)で、NEJ vol.2の授業を、週に2~3回(6コマ)を1年半、担当してきました。NEJ vol.1は、まだ使ったことがないのですが、Vol.2の教材は今期で6周目です。
そこで、この教材を使って、どのように授業を展開しているのか、ここに記録しておこうと思いました。
学習者からの反応
NEJ は、従来の基礎(初級)日本語教材とは、大きく異なる特徴があります。どのように異なっているのかの説明は端折りますが(リンク先参照)、この教科書を使っている他校の日本語教師仲間から、従来の文法積み上げ方式の教授法に慣れている先生たちから「文法の理解が進んでいない」「うまくいっていない」などという不満の声が多く寄せられ困っている、という話も聞いたことがありました。
また、私自身、NEJを使い始めたばかりの頃、学習者から、こんな強い不満の声がよせられました。
特に、第2周目の最後の授業は、私にとって忘れられない悲しい日でした。私の学習者たちは、本当に日本語学習に失望していたのです。前期10人程度だったクラスが、20人規模になり、学生のニーズに答えることに完全に失敗していたのだと思います。私は、もう2度と同じ失敗は繰り返さないと決意し、心をすり減らして、工夫をし続けました。
そして、最近は、ぽつぽつとこんな学生の声も聞かれるようになってきました。
私自身のNEJへの信頼
私は、いくつかの外国語学習経験がありますが、韓国語に関しては、大人になってから完全に自然習得のみで日常会話を習得し、文字で学習したことがないので、読み書きはあまりできません。その経験から来るものだと思いますが、「NEJの方法は、理にかなっていて、いいだろうな。私もこの方法で韓国語を習ってみたい。」という感覚があります。
しかし、いくら私がこの方法はよいだろうなと感覚的に感じていても、様々な学習スタイル、ビリーフを持った学習者さんと、この教材で学び、その良さを体感してもらう授業を展開するためには、目の前の学習者を知り、彼らのニーズに応える必要があります。
前置きが長くなってしまいましたが、そのような試行錯誤を経て、今している授業実践を Unit 17、テーマ「プレゼント」を例にとって、書き出してみることにします。
NEJ vol.2 私の授業実践
Unit 17 のテーマを確認する
※英語や中国語で読んでもらいます。毎回はしませんが、その他、翻訳版がない言語でも、訳せる学生には自分の母語で読んでもらったりして、意味は分からなくても、未知なる言語の音をクラスで楽しんだりします。
マスターテキスト読み聞かせ
カミシバイ1回目:イラストのみ(文字提示なし)
紙芝居のように、PPTでイラストを見せながら、リさんの物語(ナラティブ)を私が読み上げます。
ここでは、イラストを見ながら、文脈の中で意味を推測してもらうことに焦点を当てています。ジェスチャーを使ったり、声色を使ったり、新出語彙だと思われる単語は、「親戚」「おこづかい」などと言いながら、イラストを指したりしています。
基本、1回目の読み聞かせのときに、文字は提示していないのですが、あまりにも難しい熟語が続くときは、(例えば、「言語理解」、「博士課程」、「介護ロボットの開発の仕事」など)、どこで音を区切ればいいのか聞き取れない可能性を考慮して、単語だけ文字で提示したりもしています。
カミシバイ2回目:イラストと文字提示
2回目は、文字も字幕のように提示して、止めずに読みます。2回目は、より物語の文脈から意味を推測してもらえるように、説明を加えたりして話の流れを止めることはしないようにしています。
黙読(約3分)
この時間は、指導参考書には書いていないプロセスですが、各自、黙読する時間を3分ほどとっています。「意味が分からない言葉があったら質問してください。」と声かけをしますが、新出語彙に関しては、教科書に対訳がついていますので、あまり単語の意味に関しては質問されることはありません。難しそうな語彙は、理解確認で「会社を継ぐ」の「継ぐ」って分かりますか?と聞いたりすることもあります。ここで、文法に関する質問をされることがありますが、その時にどのように捌くのかが、大事なポイントだということに気がつきました。
その質問が、このUnit で扱っているMain Grammar Points に関わるものであった場合、まずは大絶賛します。「素晴らしい、いい質問です。よく気がつきましたね。それがこのUnitで勉強する文法です。ちょっと待ってくださいね。§2でやります。」
時には、その教科書の中にある、対訳つきで文法説明が書いてある箇所を示してあげることもあります。
けれども、授業を繰り返すうちに、意味理解をするための黙読の時間に、学生が文法に関する質問をしてくることは、少なくなりました。
マスターテキストの物語の意味を理解することに関しては、学生たちは難しさを覚えてはいないように見えます。文脈の力で、新出の文法に関して知識がなくとも、物語の内容が分かるように教科書が設計されているのでしょう。
文法について疑問をもったままで進むのが気持ち悪いロジカルな学生は、自力でThe Gist of Japanese Grammar(教科書にある対訳付きの文法説明)などを読んで、自分の理解が正しいのか私に聞きに来ます。私は、それをものすごく褒めます。自力でマスターテキストのターゲット文法に気がついて、理解に落とし込み、なおかつ、私に日本語で質問しに来るというオートノミーを発揮したのです。
※文法の明示的な説明と練習は、ユニットの最後のセクションで行います。
マスターテキスト朗誦
先の学習者アンケートで何度も書かれてきたことですが、この「何回も何回も同じ文を声を出して、読まされる」という繰り返しを嫌がる学生が多いです。この活動に意味を感じなかったら、それは当たり前の反応だと思います。なので、NEJの授業が始まる1番最初の日に、NEJのねらい、勉強の仕方についてのオリエンテーションをするのですが、その時に、「音読の効能」について、「楽譜を読む」ことを例にとって、その後、「音韻ループ」の説明を行い、動機付けを行っています。
それによって、学生はみな「なーんとなく音読は、大事なことなのかなぁ」くらいの印象は持ってくれ、この朗誦に意味があることは意識してくれるようになった気がします。
朗誦1回目:教科書を見ながら、リピート(ゆっくり、短く)
1文全てを読むことはせず、少し短く読んで、リピートしてもらいます。
「ゆっくり、短く読みます。教科書を見ながら、リピートしてください。」とキューを出しています。
朗誦2回目:教科書を見ながら、リピート(ゆっくり、長く)
「少し長く読みます。教科書を見ながら、リピートしてください。」とキューを出しています。
朗誦3回目:教科書を見ないで、リピート(ゆっくり、短く)
「チャレンジする人は、教科書を見ないでリピートしてください。」とキューを出します。文字を見たくなったときのために、PPTで、イラストと文字を提示しながら、スライドをめくっていきます。短めに、ゆっくり読みます。
この取り組みは今期から始めたばかりなのですが、学生たちは結構、熱心に取り組んでくれます。
朗誦4回目:教科書を見ないで、リピート(ゆっくり、長く)
「教科書を見ないで、リピートしてください。」とキューを出します。
PPTには、文字なしのイラストのみ提示。私の音声に合わせて、スライドをめくっていきます。ただし、難易度の高い熟語だけは、文字も提示します。
朗誦5回目:シャドーイング(ゆっくり、止まらずに)
「シャドーイングをしましょう。最初はゆっくり。次は、ナチュラルスピードで読みます。」とキューを出します。
朗誦6回目:シャドーイング(ナチュラルスピード、止まらずに)
「シャドーイングをしましょう。今度は、ナチュラルスピードで読みます。チャレンジしてください。」と動機付けとキューを出します。終わったあとは、達成できたか感想を聞き、成果を褒めます。
朗誦7回目:漢字チャレンジ(ペアで交読)
「漢字チャレンジ。ペアで読んでください。漢字のないページにチャレンジできる人は、チャレンジしてください。」
※マスターテキストはフリガナ付きのページと、ふりがな無しの2つのページがあります。
音声指導
実は、前期までは朗誦は、最大5回までしか行っていませんでしたが、今期は、朗誦の回数が上記のように7回以上と、かなり多いです。
それには、以下のような経緯があります。
NEJ vol.2 は、Unit13~24まであるのですが、Unit 13 ~15までは、シャドーイングは行っておらず、朗誦の回数も最大5回まででした。
Unit 13 ~17くらいまでは朗誦後に、マスターテキストの単語を使って、アクセント聞き取り練習、リズム聞き取り練習、リズムをグルーピングしてリピートする、という音声指導を行い、日本語の音声について意識できるような帯活動を行っていました。
学生は、提示されたアクセントに関して、教科書にアクセント記号を書き込んだりして、朗誦するときの参考にしている様子がうかがえました。
この帯活動でしていたアクセントとリズムききとり練習の効果と、この活動が学生の音声へのメタ認知を促し、マスターテキスト音読の動機付けになっていたのではないかという可能性について、もう少し検証してみたいと思っています。
また、学生にはUnit 15まで来たときに、85%の倍速で流したMP3の音声でシャドーイングをしてもらったことがあります。その時、速すぎたようで学生は「シャドーイングは無理。難しすぎる。できない。」と言い、意欲をなくしました。私は、いきなり、85%の倍速で、シャドーイングさせたのが悪かったと反省して、教科書を見ずにリピートするという朗誦をシャドーイングに向けたスキャフォールディングとして、行うことにしました。
そして、Unit 17以降からシャドーリングを取り入れるようになり、Unit 21にきたときに、「ナチュラルスピードでシャドーイング、チャレンジしてみる?」と学生に聞き、導入したときに、多くの学生ができるようになっていたのです。それで、学生自身がUnit 15で、全然できなかったシャドーイングができるようになっていることを実感したことは、学習の励みになったのではないかと期待します。
以上が、朗誦の回数が増えていった経緯です。
朗誦8回目: 本日のフレーズ (暗記)
マスターテキストの中から、1文だけ取り出して、暗記します。最初の頃は、ターゲットの文法項目が入っている文を私が選んでいましたが、学生に選んでもらうようにしました。
その1文だけ5回、私の音声のあとでリピートし、各自、覚えるまで1人でぶつぶつ言ってもらい、覚えた人から発表してもらいます。この暗記作業は、単純作業なのですが、特に、学習がしんどい人に「できた!」という達成感を与えているような気がします。全員、とても積極的に取り組んでくれます。
長くなってきたので、この後に続く授業の流れは、次の記事に書きたいと思います。
続きは以下
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