山陰の美術館・足立美術館
市内を運転していて「今日もすれちがった」とよく思う。恋人に会えなかったのではなく足立美術館―安来駅間のシャトルバス。このバスの他に市営のイエローバスも走っているので、車がなくても駅からストレスなくこの美術館に行ける。駅から内陸へ9キロ。畑が多く人家の少ない地域だが大型観光バスがひっきりなしに観光客を運んでくる。マイカーナンバーは金沢、佐賀なども見かける。
足立美術館は昭和時代に実業家足立全康氏が私財を投じて作った。実業の世界に生きた彼はある日、露天で横山大観の絵に出会う。その時は高額で入手出来なかったがこの出会いがきっかけで大観の絵や河井玉堂、菱田春草、上村松園、伊東深水など名だたる近代日本画家の作品をコレクションし、自宅敷地に美術館を建てた。
もともと庭造りは好きで、工夫していたことから、この美術館の庭は和風に、建物の窓枠を額縁にみたてて景色を楽しめるように設計する。庭園も一幅の絵画という考えだった。掛け軸の大きさの窓や境目のない大きなガラスから視線をさえぎらずに庭の景色を見られる。春の新緑、夏の深緑、秋の紅葉、冬の雪景色を絵画にする。
2010年には平山郁夫や宮廻正明など数多くの現代日本画を展示する新館をオープンした。館内にはミュージアムショップはもちろんレストランが完備しているから時間を気にせず鑑賞できる。何よりうれしいのは茶室があって抹茶と和菓子を頂ける。15年ほど前は市民に無料券を配り美術館に来てください、と㏚。特に冬の時期だった。今は岡山や広島の空港からやってきて、玉造や皆生温泉に泊まるコースが人気。最近は全天候型観光施設として人気が高まり市民への無料券もなくなった。
米国の日本庭園専門誌「ジャーナル・オブ・ジャパニーズ・ガーデニング」で2023年の日本庭園ランキングで1位に選ばれた。 03年のランキング開始から21年連続。京都桂離宮をぬいて第一位だ。庭は3D空間で植木や雑草の管理もいる。未来を見越して入念な手入れをする。絵画は平面の2D、今、この瞬間を描く。このバランスがいいなと思う。庭師のプレッシャーは大きいが、庭園の維持管理に心血を注いでいる。
ゆうこの山陰便り №241