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第3章 始動 ②「吉田勲さんのご生涯」
2週間ほど経っただろうか、受け継がせていただく被爆者が決まった。被爆当時4歳11か月だった吉田勲(よしだ・いさお)さんだ。
私は、勲さんの明るくフレンドリーなお人柄と、被爆体験講話や核兵器廃絶活動を国内外で活発に行っておられるところに惹かれた。私の第一希望は勲さんだったので、希望が叶ってとても嬉しかった。
ここで、勲さんについてご紹介したい。
1940年8月24日に長崎市で生まれた。父は市内中心部で茶碗屋を営んでおり、母と祖母、2歳年上の兄で計5人家族だった。
しかし勲さんが4ヶ月の時、父が32歳の若さで過労死。その2年後には兄も病死、母は祖母の勧めで再婚し家を出て行った。さらに茶碗屋は人手に渡ってしまったため、祖母と一緒に新しい家で再出発をした。
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そしてその3年後―1945年8月9日、長崎に原爆が投下された。勲さんが5歳の誕生日を迎える2週間前のことだった。
爆心地から南におよそ4キロ離れた中新町(なかしんまち)の自宅で被爆。祖母と共に防空壕に逃げるとき、爆風で飛ばされたトタン屋根が口元に当たり傷を負う。2センチほどの切り傷は生涯残り続けた。
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写真は筆者が口元をアップに加工
5歳になると、放射線による白血球減少が原因で(本人談)、体に切り傷や出来物ができたら膿んだ後かさぶたになる症状が出始めた。小学校では「かさぶた野郎」とあだ名をつけられ、「あっちへ行け!」「うつる!」といじめられた。
小学2年生の時、家庭の事情で愛知県蒲郡市の親戚に引き取られたが転校先でもいじめを受けた。「原爆のことなんか、忘れ去ってしまおう」―環境の変化といじめの辛さが、勲さんにそう決意させた。
そう決めてしまうと、長崎とは全く違う環境で過ごしたこともあってか、次第に被爆したことを思い出さなくなり、ついには無関心を装うようになっていった。
中学3年生で親戚の家庭が経済的に苦しくなったため長崎に帰郷。卒業を控えた冬、祖母が死去。天涯孤独の身となる。
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「しっかりしろ」と自分に言い聞かせながら、卒業後は地元のパン屋さんや東京の喫茶店などで修業、23歳で長崎に戻り中華料理屋を開いて独立。親戚の勧めで結婚したのはこの時だった。
2年後、妻が長男を授かる。その時に、ずっと封印してきた原爆の影が再び勲さんに忍び寄った。「この子に原爆の影響が出たらどうしよう」―妻にも打ち明けられない被爆の事実と葛藤し続けた。
幸いにも長男は健康な体でこの世に生を受けた。その後、合計4人の子供に恵まれ幸せに過ごしていたが、被爆したことは家族にも黙っていた。
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ところが1994年2月、53歳になった時、人生に転機が訪れた。『原水爆禁止宣言』という声明文をたまたま読んだのだ。
『我々世界の民衆は、生存の権利を持っている。その権利を脅かすものは、魔物であり、サタンである。この思想を全世界に広めることこそ青年男女の使命である』
この宣言にくぎ付けになり、急いで持っていた手帳に全文を書き写した。そして「青年男女」を「被爆者」に置き換えた―。
この瞬間、勲さんの人生が一変する。
「48年間も被爆したことを黙ってきたが、いつまでも知らんぷりしていていいのだろうか?自分も何かしなくてはいけない!」
被爆という宿命を使命に転じた瞬間だった。
翌日、長崎市内の被爆者団体を調べてに片っ端から電話をかけ、その中で一番対応が丁寧だった(本人談)長崎原爆被災者協議会に入会。最初の活動は、核実験に抗議する座り込みだった。
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その後も座り込みや国内外での語り部活動、被爆遺構ガイド、被爆者手帳の申請手続き相談員など、ありとあらゆる活動に精を出した。
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