憧れの女とお揃いのピンヒールを捨てる
とあるバンドが大好きになって、そのボーカルの女の子の生き様も大好きになった。
MV見てたら私の、その、超おきにのピンヒール履いてた。
自分の大好きな女が選んだそのピンヒールを、私も選んでいたことが嬉しかった。
そのピンヒール履いて私も超闊歩したい、と思ったわけ。
あのヒールを買ったのはたぶん高校生の頃。
値段は高校生にしては高い一万弱だったかな〜。
めちゃくちゃ可愛すぎて普段はほとんど履けなくて。
最初に履いたのは従兄弟の結婚式だったと思う。
当時からヒールのある靴が大好きで、ヒールの高さの分だけ、自分の自信もつくようだった。
ピンヒールだから普段履きはしづらくて、普段履くのは厚底ばっかり。
眠っていたそのピンヒールの出番がやってきた。
地元のキャバクラでアルバイトするようになったのだ。
ピンヒールって全然持ってなくて、急遽初出勤だったし、あくまでもバイト着のためにお金使いたくなかった。
だからそのピンヒール履いて、キャバクラでアルバイトした。
そしたらいつの日かぼろぼろになって、新しい3000円のピンヒールがやってきた。
おっさんに媚び売って、酒浴びて、時には脱ぎ捨てて、いつの日か大事に扱われなくなったピンヒール。
あの憧れの女とお揃いのピンヒール。
フリフリのついた、本当はこんな場所にいるはずない、超可愛いピンヒール。
誰のためにもならなかったピンヒール。
ちゃんと特別扱いしてあげれば良かった。
でもごめんね、こんなボロボロにしてしまって。あなたの価値を低いものにしてしまってごめんなさい。
もう戻らない。
私があの時、働くのを怠ってなければ。楽な方に流れなければ。
きっとまだピンヒールは綺麗なままだったと思う。
"モノ"でしかない3000円のピンヒール履いて、また少しだけ働く。
いつかめちゃくちゃ高いピンヒールを履くのだ。
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